新婚さんの朝
掌編程度の短さです。
パッと目が覚めた瞬間、一番大切な相手の顔が目に入るということは、本当に幸せだと、俺は思う。
ルチアを失って探して彷徨った記憶は、どうやっても忘れられるものではないから、こうやって目が覚めたときに腕の中にいる彼女を見て、俺は幸せをかみしめるとともに、酷く安心するのだ。
目が覚めても、君がいる。手を触れられるところに、君がいる。
夜の闇に抱きしめるのも幸せだけれど、こうやって朝の光の中で彼女に触れるのもまた、幸せだ。
(睫毛、長いな……)
ルチアは自分が地味だって言うけれど、十分可愛いと思う。というか、ルチア以外の女性はどうでもいい俺からしたら、誰よりもなによりも可愛い。誰にも見せないで独り占めしたくなるくらいに可愛いけれど、それをしては人間としてなにかが終わってしまうのでやらない。とりあえず他所の男には指一本触らせたくないけど。
俺は、短くなった彼女の髪にそっと触れる。優しい元の栗色ではないけれど、今の色だって綺麗だ。今の髪型だって似合ってて可愛いと思うが、彼女は気にしているみたいで、一生懸命まとめて隠そうとしている。まとめないで流しているのもいいんだけどな。
顔を寄せると、ふわりと甘い香りがした。旅の間使っていた髪油とは違う香りに、俺は微笑む。他の男に贈られた香りなんて、いつまでも使わせはしないのである。了見が狭いと言われても、こればかりは譲れない。要は、ルチアにバレなければいいのだ。
「ん……? セレ、スさ……?」
こっそり額にキスをしたら、ルチアを起こしてしまったらしい。起きているときは一生懸命敬称なしで呼ぼうと努力をしてくれている彼女も、夢うつつのときは以前のような呼び方をする。その無防備さも可愛いな、と思いながら、俺はまだ寝ていていいのだと告げた。
安心したのか、再び寝入ったルチアを、俺はそっと抱きしめる。すると、ころりとルチアが胸元に転がってきた。甘えるように頭を寄せるその仕草が、たまらなく愛おしい。
いつまでも、この幸せが続きますように。ただそれだけを祈って、俺は再び瞼を伏せた。
最愛の存在を、腕の中に感じながら。
こちらを以って、しばらく番外編の更新は途絶えます。
読んでいただいてありがとうございました。
ただ、番外編の完結はまだ先となるので、再び復活したときは活動報告にてお知らせいたします。




