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二人の娘と第三隊(4)

 フィオラヴァンティのランチは非常においしかった。悩みに悩んだけれど、ケーキだって頼んでしまった。

 というか、アスカリさんが食べるって言うから、便乗して……というか、甘いもの好きとか、知らなかった。果物系が好きだって言われて、思わずあたしもそうだって強く言ったら、「一緒だね」って。

 ああ、どうしよう。ドキドキする。これは……どうかな、期待していい感じ? だってこれ、デートだよね?


「あの、本当にご馳走になっていいんですか?」

「いいの。かっこくらいつけさせてよ。それじゃ、行こっか?」

「あ、はい!」


 食事が終わって店を出ると、アスカリさんはまたどこかへ行くようだった。どこへ行くんだろう。そんなことを思いながらついて行くと、視線の先に行列が見えた。その先の看板に、あたしは本来の目的地を思い出す。そうだった、今日はリリィ・ブリッツィそこが目的地だった。


「あちゃー、こんなに混んでるのか」


 相変わらずの混み具合だなぁ、と眺めるあたしの隣で、アスカリさんはため息を吐いた。男の人って待つの嫌いな人も多いし、これは失敗? でも、ここに来たいって言ったの、あたしじゃないからセーフ?


「リリィ・ブリッツィは、いつもこんな感じですよ。ほら、並んでるっていっても、そこまで行列じゃないですし」

「さっきのお店も並んでたし、人気のとこはすごいな」

「……並ぶの、嫌でした?」


 恐る恐る探りを入れると、アスカリさんは困ったような顔をした。ずっと笑顔だったから、その表情が怖い。どうしよう、ダメかも!

 でも、それは杞憂だった。困ったような顔のまま笑うと、アスカリさんは申し訳なさそうに言う。


「いや、誘っておいてリサーチ不足だったなぁ……と。恥ずかしくて。ごめん、もっと情報仕入れときゃよかったな。脚痛くない? 並ばせてばかりでごめんな」 


 そう言って鼻の頭を掻く姿に、なんだか緊張していた自分がおかしくなってしまってあたしも笑った。


「平気です。こう見えて、丈夫なんですから」

「そう? えっと、つまらない……とか、ない? 平気?」

「つまらなくなんてないですよ」


 そんな会話をしていると、入店の順番が回ってくる。このお店は人気だけれど、回転も速い。……まぁ、目当てのものが売り切れていると回転が速くなるっていう話だから、この前ルチアちゃんが例の彼・・・からもらったというハンドクリームなんかは売り切れてるんだろうな。

 そう思ったあたしの予想は当たっていて、店内へ入ると入り口付近の棚が空になっていた。「人気のハンドクリーム! 花の香りと果実の香り」と書かれたポップがぽつんとあるだけだ。


「ホントこの商品人気なんだな……」

「そうなんですよ。この前ルチアちゃんが……あ、ルチアちゃん知ってますよね? この前見送ったときにアスカリさんもいらっしゃいましたし」

「知ってる知ってる。そのときフェデーレが渡してたやつだよな、ハンドクリームコレ

「そうですよ。あ、そういえば“セレスさん”って……」


 ルチアちゃんの名前が出てきたところで、あたしは気になっていた彼女の恋の相手(よね!? 絶対“セレスさん”はルチアちゃんのことを狙ってると思う!)のことを尋ねてみようとした。

 けれど、その名前を出した途端、アスカリさんは笑い出した。


「セレスさん……ね、うん、そうだね、オレらの隊の人間だよ。知ってる知ってる」

「どんな人なんですか? その人、絶対ルチアちゃんのことが好きだろうって、あたしたち洗濯部の中で噂なんですよ」

「うん、そうだなぁ……その想像は当たってると思うよ。ホントね……こすっからいというか、完璧に見えても、人間できてないよね」


 こらえきれないといった様子で笑いながら、アスカリさんは“セレスさん”について語る。どんな人間なんですか、それ。


「セレスさんって……」

「内緒。ルチアが帰ってきたらわかるって」


 アスカリさんはそう追及をかわすと、ハンドクリームがあったところより上の棚から商品を手に取った。背が高いと軽々とものが取れるんだな、と変な感想を抱く。


「いろんな商品があるんだな。これはなんだ? 髪油? ああ、そういやフェデーレが用意してたやつだな」

「髪の毛用の香油は、結構人気高いんですよ」

「その割にはハンドクリームと違って売り切れてねぇな」

「まぁ、それなりのお値段ですから。でも、だいぶ減ってるでしょう? 高くても、女の子は頑張っちゃうんです」


 正直、リリィ・ブリッツィの商品は安くはない。さっきのハンドクリームだって小銀貨三枚もするのだ。あたしのような庶民には、早々手を出せるものではない。でも、それでも頑張ってお給金を貯めて買いに来る子は、あたしのまわりにはたくさんいる。


「なぁ」


 オイルの瓶のラベルを見ながら、アスカリさんが声をかけてきた。真剣に見てるけど、そんなに物珍しいかしら。


「この店の化粧品って、花の匂いと果実の匂いしかないのか?」

「ですね。調香って大変らしいって、以前知り合いの調香師から聞きましたよ」

「そっかぁ……。なぁ、ジーノちゃんはどっちの方が好みか?」

「あたしですか? うーん、果実……かなぁ? ジーナは花の香りの方が好きみたいなんですけど、あたしは果実の甘酸っぱい感じがおいしそうで好きですね」


 質問に答えると、アスカリさんは嬉しそうに笑った。


「それ、わかるわ。ジーノちゃんはどっちかっていうと、果実のイメージだったから」

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