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二人の娘と第三隊(2)

 結局ジーナと入れ替わったあたしは、現在出来上がった洗濯物を抱えて第三隊の控室へと向かっている。

 この仕事をはじめて、だいぶ筋力が付いたと思うけれど、それでも隊服の山は重い。かさばるし、一度になんか運べない。あたしたちが着ている服とは素材自体違うのが原因だけど、どうせアカデミアに魔法をかけてもらうなら、軽くする魔法もかけてもらえばよかったのに、と毎回思う。


「ジーナちゃん、いつもありがとなぁ~」

「今日もいい天気でしたね!」


 訓練を終えたと思しき隊員たちが、口々に声をかけてきてくれる。誰も彼もが、あたしをジーナと呼ぶ。誰も、あたしがジーノだとは疑いもしない。

 そんな感じで、あたしたち双子の入れ替えは完璧なようだった。


(まぁ、そんなものよねぇ……)


 笑顔で応えながらも、あたしは内心そう思っていた。見分けがつく方が不思議なのだ。それくらい、あたしとジーナは似ている。


(でも、なんでクルトは見分けられるんだろう?)


 それが愛だと片割れは言いきっていたが、ちょっと腑に落ちない。彼らの付き合いは三年を越しているので、年数を重ねればそうなるのだろうか。


「お、ジーナちゃんじゃん」


 そんなことを考えていたときだった。後方からかけられたちょっと低めのその声に、あたしの耳は反応する。


「あ……こんにちは~」


 彼だった。嬉しい反面、やっぱりあたしとジーナの見分けがつかないのかと、がっかりする。でも、それは当然のことだと気を取り直したあたしは、にっこりとジーナらしく笑ってみた。


「あれ」


 しかし、立ち止まったあたしのところまでやってきた彼は、びっくりした顔をする。え、なにか変かしら? どこかに葉っぱかゴミでもついてる?

 ぎょっとしたあたしをよそに、彼は少しはにかんだ顔で笑った。


「今日は入れ替わってるんだ。えっと……ジーノちゃん、って呼んでも……いい、かな?」


 そのときの衝撃を、どう表したらいいんだろう!

 あたしと、ジーナの見分けがついた。そういう・・・・人が、いるんだ。両親やクルトの他にも。


 ──愛よね、愛!


 脳内で、したり顔のジーナが笑う。愛……なのかな。どうなんだろう? だってあたし、彼の名前も知らないのに?

 動揺したあたしは、お届け用の籠を力いっぱい抱きしめていたらしい。籠が軋む音に我に返るのと、彼が手を差し伸べてくれたのは同時だった。


「重そうだな。貸しな」

「大丈夫……」

「いいって。オレら騎士は困ってる人の味方なの。それが可愛い女の子なら、最優先!」


 そう言うと、彼はあたしの手から籠を取り上げた。軽々と抱えてしまうところにときめく。こういうとこ、いいなぁ。


「前と同じとこでいいの?」

「はい!」


 出来上がった洗濯物は、騎士たちの控室の一角にまとめて置く。そこまでは一緒に歩けるな。そう思ったら、自然と笑顔になってしまった。現金だけど、本当にラッキーだ。


「すみません、たびたび」


 言いながら、ジーナにもこうやって手を貸してたのかな、とちょっと思って切なくなる。あれ、でもジーナからは見かけた報告はあってもそういった出来事の報告はなかったな。あれ、そうなると、もしかして、もしかする??


「いいって。気にするな。それにしても今日もいい天気だなぁ」

「そうなんです。おかげでよく乾きそうです。ああ、でも魔物汚れ・・・・は前みたいに落ちなくて、申し訳ないけど一件破棄行きになってます」

「ランディの隊服だろ。あいつ、もろにひっかぶってたから。オレらの間でも絶対破棄されるって話してたから大丈夫だよ」


 同僚のルチアちゃんがいなくなってからというもの、魔物の体液で蒼く汚れたものは以前と同じように破棄されている。血液なら水に浸けて置けば抜けるのに、どうやっても魔物の体液は抜けてくれないのだ。

 性能に問題はないそうなんだけど、王国を代表する騎士団の制服に魔物汚れを残しているのは見た目がよくないとのことで、もったいないことにすべてアカデミアによって処分されてしまう。あたしたち下働きの制服に抜けない染みができようが、ほつれようが、簡単に入れ替えることなどできないのに、さすがは騎士団と言ったところだろうか。


 そんな話をしているうちに、控室に到着してしまった。残念、彼と話せるのもここまでだ。


「ありがとうございました。ホント、毎回……」

「あのさ」


 名前くらい訊きたいな、と思いつつも、なぜか一歩が踏み出せず、おざなりなお礼しか口にできなかったあたしに、彼はくしゃっと笑って見せた。


「よかったら、今度一緒に出掛けない? リリィ・ブリッツィとかさ……どうかな?」

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