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二人の娘と第三隊(1)

 あたしの名前はジーノ・バローネ。双子の姉のジーナと一緒に、バンフィールド王国騎士団付きの洗濯婦をしているわ。

 ちなみに担当は第四隊……なのだけれど。


「ね、どう? “ジーノ”に見える!?」


 嬉しそうにくるりと制服のスカートを翻したのは、姉のジーナだ。地味で可愛くもない制服を着ているというのに、なぜか可愛く見えるのは、あたしたちの努力の証。正直に白状すると、貸与されている制服も少し手を加えている。返すときに原状回復しときゃいいんだし、自分の体形に少しでも合わせたものを着た方がスタイルよく見えるのは当然なのだから。


「見えるっているか……あたしたち、そっくりだし。普通の人には見分けつかないわよ~」

「それを言っちゃあオシマイでしょ!」


 突っ込むと、回るのをやめたジーナは、ぷぅっと頬を膨らませた。


「一応、目印として髪の編み方変えてるじゃない! 今のあたしは完全、ジーノだよ!」

「まぁねぇ……それはそうだけど~。……ねぇ、やっぱやめない? 入れ替わりとか……わかる人にはわかっちゃうでしょ」

「わかる人なんてほとんどいないよ! 城内だったら洗濯部の皆くらいでしょ」


 事の発端は、職場の後輩のルチアちゃんを交えてした、ランチでの会話だ。彼女が仲良くしているという、どう考えても彼女に片想いしている風の隊員(そして気付いてないっぽいけど、きっとルチアちゃんだって彼のことが好きに違いない!)についてイジっていた際、あたしたち姉妹の入れ替わりの話がでたのだ。

 なんで出たのかって? ……まぁ、あたしにだって、気になる人くらいいるって、そういう話。


「まぁさぁ~、それはそうなんだけど……」

「なによ、珍しく思い切りが悪いじゃない! 相手だって気付かないって!」

「それはそれで淋しいっていうか」

「それか、渋ってる原因は!」


 そうなのだ。第三隊を担当しているジーナと入れ替わって、間近で第三隊を観察できるチャンスだというのに、あたしがそれを躊躇っているのは……あの人があたしとジーナの見分けがつかないことを目の当たりにするのが嫌だという、ただそれだけの理由なのだ。

 実際あたしたちは、以前も何度も入れ替わっていたのだけれど、そのときのお目当ては第三隊の隊長である“竜殺しの英雄”だった。大人気のイケメンを間近で拝めるチャンス。それに食い付くのはわけなかったのに、何故片想いの相手を見に行くのに躊躇うのかといえば、やっぱりあの人に“ジーナ”として扱われるのが嫌だと、そう思ってしまうから。

 会話できるかなんてわからないし、見ることすらできないかもしれないのに、やっぱりそこ・・が気になってしまう。


「間違えられても嫌がるどころか、むしろ見分けられないことを喜んでたジーノがねぇ……」

「そりゃ、ジーナだって恋人にあたしと見間違えられたら嫌でしょ。そういうことだよ」


 指摘すると、あたしに擬態した姉は、顎に手を当ててかすかに首を傾げた。


「見間違え……られたことないからなぁ、クルトが言うには、気配も雰囲気も仕草もなにもかも違うって」

「キッカさんですら、あたしたちが本気を出して入れ替われば間違えるじゃん。本当にわかるの?」

「父さん母さんは絶対間違えないでしょ。あのレベルでわかるんだって。すごくない? 愛よね、愛!」


 愛されちゃってつらいわ~と、ジーナは歌うように笑った。あの筋肉ダルマ、本気か。口から出まかせじゃないのか。あたしは双子の姉の恋人の顔を思い浮かべた。筋肉の山のような男に、そんな繊細さがあるのかは疑わしかったけれど、“特別な相手”っていうのは、そういうもの・・・・・・なのかもしれない。


「まぁさぁ~」


 ひとしきり、口に手を当ててぐふぐふと笑っていたジーナだったが、三日月形に細めた目をあたしへ向けると、微笑みながら口を開いた。


「そんなものだと思うよ。ジーノはその人にあたしと間違えられたくないんでしょ。そういうこと・・・・・・なんだよ。その人が、それだけ特別ってこと!」


 言われて、あたしは言葉を失った。特別? ジーナよりも?

 大体「好き」っていう感情は幅が広いと思う。ジーナが好き。仕事が好き。友達が好き。おいしいものが好き。可愛いものが好き。イケメンが好き。

 あの人が、好き。


「……特別、かなぁ?」

「よく考えてみなよ」


 ついっとあたしの胸に人差し指を立てると、同じ顔でジーナが笑う。


「どれだけよく似てても、あたしはジーノじゃない。その気持ちは、あんたにしかわかんないわよ?」

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