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新婚さんの朝食

サブキャラの話を書くといいつつ、先に出来上がったのは主役カップルの小話だったり。

「こ、こんなに食べれませんよ!」


 染み一つないクロスがかけられた長テーブルにずらりと並べられたお皿の数々を見て、わたしは悲鳴を上げました。

 パンだけで三種類。卵料理が二種類、サラダが四種類、スープが三種類。分厚い燻製肉にいい色にローストされたお肉。その向こうでおいしそうな湯気を立てているシチュー。豪勢なご馳走の乗ったそれらの皿の間に、山のように盛られた果物の鉢が鮮やかな色を添えています。

 眩暈がしそうなほどおいしそうですが、いかんせん量が多すぎます。


「奥様、お好きなものだけ召し上がればよろしいのです。お好きだとお聞きしましたので、肉料理を多めに用意してみました」


 アナクレリオさんはにこやかにおっしゃいますが、そんなこと、できません!


「そんなもったいないことできません! それにしても、朝からどうして豪華なんですか? 今日はなにかあるんですか? あ、お客様とか?」

「いえ、こちらはお二人だけの朝食となっております。お口に合えばよろしいのですが」


 悲鳴をあげかけたわたしは、隣に立つセレスさんを振り仰ぎました。


「セレスさん!」

「さすがに……俺もこんなには食べないかなぁ」


 すがるわたしに、セレスさんも困った顔になります。ですよね、セレスさん、旅の間にすごい食べてた覚えないですもん。これは朝食には重すぎます!


「キッカさん!」

「ルチア様……気持ちはわかりますけど、気にせずお好きなだけお召し上がりくださいな」

「キッカさんまで! そんな無駄なこと、できません! ごはんはタダじゃないんです!」


 常に貧乏暮らしだったわたしに、こんなご馳走は恐れ多いというか、ご馳走に申し訳なくなります! ホント、ポリッジとかでいいですから!


「領民並びに屋敷の者の気持ちの表れです。どうか、召し上がってやってください」


 困惑するわたしたちに、アナクレリオさんは、この食事が皆の心遣いだと教えてくれました。皆がわたしとセレスさんを歓迎している、その気持ちの表れだと。

 そう聞かされてしまえば、断れません。わたしは恐る恐る引かれた椅子に腰かけました。椅子だって王宮にあったように豪華なもので、気後れしますよ!


「い、いただきます……」


 感謝の祈りを捧げてから銀のスプーンを手に取ります。産まれてこの方、木製の食器ばかり使っていたので、非常に緊張しますね!

 ダル・カント王国に滞在していたときも、マリアさんと二人きりだったのもあって、すごく軽いものばかりしかでなかったから、こういう食事にびっくりさせられるのは初めてです。そういえばあのときも、食器を破損しないかハラハラしてマリアさんに笑われましたね。マリアさん、元気にしているでしょうか……。

 世界を隔ててしまった大切なお友達のことを思うと胸が苦しくなりますが、マリアさんが帰って来るときまでに元気に頑張っていないとダメですし、ここは頑張って食事に励みましょう! 一口ずつ食べれば、いつかは終わるはずです!


          ◆


 ご馳走は、食べてしまうのがもったいないほどおいしいものでした。ですが、やっぱり……量が。

 どうやっても食べきれない料理にへこんでいると、見かねたセレスさんがアナクレリオさんに苦言を呈してくれました。


「教官、私もルチアもこんなたくさんは食べきれない。それに、食事を無駄にするのはいけないと、教官自身がおっしゃっていたことじゃないですか」

「食事を余すくらいに食卓に並べるのは、貴族のたしなみですよ。騎士の話じゃないんです」

「そういう意地悪を言わないでください。客人をもてなすならともかく、家族・・だけの食卓にそういう文化は必要ないでしょう」


 ため息とともにセレスさんが言いました。今、家族って言いましたか? えっと、ものすごく嬉しいんですけど! 家族! 家族……なんですね、もう、わたしたち。

 ちょっと涙が出てきそうになったので、気持ちを切り替えてアナクレリオさんとお話しすることにしました。その単語に浸っていたら、絶対泣く自信がありますよ、わたし!


「あの、残った料理、お昼に出してもらうことは可能ですか? おいしかったので、食べたいんです」


 意地汚いと思われるでしょうか。でも、もったいないです。

 以前、キッカさんから、貴族の方が残した料理は、鍋の中のものは召使いも食べることができるけれど、一旦お皿に乗ったものを他の者が手を付けることは失礼だから棄てるのだと聞いたことがあります。「もったいないよねぇ」って怒っていたキッカさんなのに、今は平然としてるってどういうことですか!


「キッカさん、ホントもったいないです、この料理。棄てたら作った人に失礼です! お鍋の中以外の食べ残しは棄てちゃうんですよね? そんなことできないです!」

「おいしかったのならなによりですね。うちの旦那に伝えておきます」


 にっこりと笑ったキッカさんに、わたしは彼女の旦那様の職業を思い出しました。そうです、先程の話も、旦那様から伺ったって言ってましたね……。


「ね、キッカさん。お願いです!」

「ルチア様のお願いなら、仕方ないですよねぇ? アナクレリオ様」

「バドエル夫人、同じ使用人なので私に敬称をつけなくてもよろしいですよ」


 とにかく拝み倒して、食べきれなかったご馳走の破棄は待ってもらえることになりました。よ、よかった……。


「本当に、今後は客人がいらしたとき以外は、皆と同じものでいいです。特別なものを作らなくても」

「ははは、固いですね、旦那様」

「教官、本当にお願いします……。ルチアだけでなく俺も、こういうものは食べ慣れてないんで」


 本当に困った様子のセレスさんに、アナクレリオさんも承諾の意を唱えてくれました。

 それにしても突然豪華な生活を与えられても、身体がついてきてくれませんね。普段通りのことがしたいです……。

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