恋と理性と限界と
有り難いことに、二巻を出版することができました。
応援してくださった方、書籍版を手に取ってくださった方、本当にありがとうございます。
また、書籍版の表紙にまつわる短編を、アリアンローズ様のサイトに掲載していますので、よろしければそちらも併せてご覧ください。
「わたしも、セレスさんがいいです。他の誰でもなくて、セレスさんが好きなんです。わたしでいいって言うのなら、側にいてもいいですか?」
その発言を聞いたとき、俺は本当に、心底耳を疑った。
だって、あまりにも自分に都合がよすぎる発言だったのだ。夢だと言われても頷く自信がある。
夢……いや、夢ではあってほしくない。それが現実だと実感したい。
そう思ってしまうほどに、俺は自分の恋に自信がなかった。ルチアに恋人がいないことはアールタッド城にいた頃にそれとなく確認していたが、かといって空いているその座を自分が獲得できるとも思えなかった。「大切なお友達」、以前そう言い切られてしまった身としては、どうにかして恋人になれるよう足掻こうと決心してはいたものの、その道は騎士になったときよりも難関に思えたのだ。
しかし、実感が欲しいと高望みしてしまった俺は、ここで一つの失態を犯す。ロミーナ殿から叱責を受けながら、本当にルチアには申し訳ないことをしたと反省した俺は、ようやく叶った恋を手放すまいと、改めて自分を律することを誓った。
ここにたどり着くまでに、かなり時間をかけたのだ。自分の欲望を優先して無理やり先を急ぐより、ゆっくりとルチアが慣れるまで待とう。
そう、思っていたときもありました。
聖女様たちと合流するためにリモラ経由でフォリスターンを目指したものの、その道中、俺は幾度となく自分の決意と向き合う羽目になった。
想いを通じ合わせたことで安心したのか、ルチアは今までになくリラックスした表情を見せ始めた。笑顔も、話す声も、心なしか甘く感じる。安心しきったその笑顔に、近くに感じるその体温に、幾度揺さぶられたことか。
特に夜は厳しかった。宿に泊まる余裕もないせいで常に野営をしていたのだが、日々肌寒くなる季節柄、どうしても互いの体温で暖を取りがちになるのだ。二人きりの夜、薄い毛布にくるまって寒そうにしている恋人を見て、抱き寄せない奴は男じゃないと思う。
ただ、そこまでだ。それ以上はダメだ。……なんでダメなんだ? なんだこの生殺し。少しくらい関係を深めたっていいじゃないか。……いや、それはダメだ。怯えさせたり、傷つけたりすることはしないって決めたんだ。守るって誓ったのに、俺が一番危険とか、笑えないだろう?
日ごと夜ごとに、俺は懊悩煩悶していた。
くそう、負けるな、俺の理性!
書籍用の番外編の一つとして書いたものですが、ページ数の関係で入れられなかったので、こちらで。
こんな我慢をしているから、ヘタレセレスはたまに暴発するんですね。多分。




