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おっさん異世界で最強になる ~物理特化の覚醒者~  作者: 次佐 駆人


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9章 再会と悪魔の足音  06

 カイムたちが残した『印』はすぐに見つかった。いくつかの岩の隆起にまだ新しい傷が残っていたのだ。俺たちはそれを辿って岩石地帯を奥へと進んでいった。


 ところどころにロックワームを燃やした跡があり、討伐任務はきちんとこなしていたことが分かる。その痕跡を見てスフェーニアが後ろから声をかけてきた。


「後処理が丁寧で無駄な戦闘跡がありませんね。『銀輪』はベテランのパーティですか?」


「そうだな、全員若いが場数は踏んでいるパーティだと思う」


「とすると、何らかのトラブルがあって捜索が来るのを待っている可能性もありますね。経験を積んでいるパーティならポーションは多めに持っているでしょうし、メンバーが怪我で動けないといったことはないはずです。そうなると……」


「ソウシ、なんか変なニオイがする。今までかいだことのないニオイ。アンデッドでも、普通のモンスターでも動物でもない……すごくイヤなニオイ」


「私も感じます。とても嫌な……(よこしま)な気配があります」


 ラーニとフレイニルが急に口を揃えてそう言った。今までにないイレギュラーの予感。


「方向は分かるか?」


「あちらです」


 フレイニルが指差す方に進んでいく。もちろん『気配感知』は最大限に効かせてだ。


 しばらく進むとかすかに何かがいる気配を感じる。しかし本当に微妙な反応だ。欺瞞(ぎまん)スキル持ちだろうか。


「ソウシ、音が聞こえる。かなり大きい奴がいるみたい。その岩の先」


 ラーニが声を小さくする。巨体持ちなのに『気配感知』の反応が小さいというのはおかしいと感じているのだろう。


 慎重に進み、岩の突起から頭だけを出して見てみる。


「なんだあれは……」


 つい声が出てしまうような奇怪なモンスターがそこにはいた。


 全体のシルエットは巨大なアシナガグモだ。ただし本体は地上から5メートルほどの高さにある。8本の脚は長さがそれぞれ10メートルほどもあるだろうか。


 しかし問題なのは、その身体は虫のそれではなく人間に近い質感をもっていることだ。


 はっきり言ってしまえば、本体の造形はそのまま人間の身体である。その人間の胴体から8本の人間の腕がクモの足のように伸びているのだ。さらに不気味なのは頭部で、本体から長めの首が3本突き出ていて、その首の先にスキンヘッドの人間の頭部がついている。その3つの顔はどれも彫像のように無表情だ。


 モンスターというより映画などで出てくるグロ系のクリーチャーに近い。明らかに今まで戦ったモンスターとは違う異形の化け物である。


 その三つの頭部のうち一つが俺の方に顔を向けた。慌てて頭を引っ込めたが、その虚ろな目は明らかに俺を認識していた。


 グ・ギ・ギ……


 金属の擦れるような不快な音が聞こえた。恐らくそれがあのモンスターの声なのだろう。やはり見つかってしまったようだ。


「おいアンタらこっちだ! 急げ」


 その時聞き慣れた声が後ろから聞こえた。振り返るとそこにいたのは体格のいいイケメン戦士、Eランクパーティ『銀輪』のリーダー・カイムだった。




「こっちだ」


 カイムは早足で歩いていくと、大きな岩山にぽっかり開いた横穴の中に入っていった。


 続いて俺たちが入っていくと、穴の奥には『銀輪』のメンバー、魔法使いの少女メリベ、槍使いの美人ラナン、そしてメイス使いの少年ラベルトが揃っていた。見たところ怪我などはしていないようだ。


「えっ、ソウシさんじゃないっすか!?」


 ラベルトが俺の顔を見て目を丸くする。メリベもラナンも同様に驚いた顔を見せた。


「オレもビックリしたぜ。まさかおっさんが捜索依頼を受けて来るとはな」


 カイムが腰を下ろしたので、俺たちもめいめい岩の床に座った。


「Dランクになったからトルソンに戻って来たんだ。まさかこんなことになるとは思ってなかったが」


「は? トルソンを出てまだ2カ月くらいだったよな。おっさんもうDランクになったのかよ」


「まあ色々あってな。それと彼女らがパーティメンバーだ。フレイとラーニとスフェーニアだ」


 俺が名前を呼ぶとそれぞれが短く挨拶をする。


「いやおっさん、メンバーがずいぶんとかたよって……」


 と言うカイムの袖をメリベが引っ張って止めた。なんか妙な気遣いをさせてしまったらしい。


「まあその辺りはあとで。問題はカイムたちがなぜこんなところに隠れてたかだが、やはりさっきのモンスターが原因か?」


 俺が言うと4人の顔が揃って深刻な色を帯びる。


「ああ、あいつはヤバい。少しだけ戦ったんだが誰の攻撃も通じねえ。しかも口から魔法をガンガン飛ばしてくるし、動きも早いから逃げるのもキツい。幸いこの穴の中にいれば攻撃して来ないんだが、出て逃げようとすると追いかけてきやがる」


「そいつは厄介だな。倒すしかないってことか」


「そういうことになっちまうが……正直あんな奴は見たこともねえ。おっさんが見てDランクで勝てる相手だと思うか?」


 カイムがそう聞いてくるが、俺が何かを答える前にラーニが口を開いた。


「ねえソウシ、私たちはそのモンスターを見られなかったんだけどどんな奴だったの?」


「ああすまん、そうだな――」


 俺はさっきのモンスターの見た目をそのまま説明した。『銀輪』の皆も頷いているので見間違いではないことも確認できた。


「なにそれ、気持ち悪いモンスターね」


「不気味ですね。そのようなモンスターの話は聞いたこともありません」


 ラーニとスフェーニアが眉を潜める。


 その横でフレイニルが「悪魔……」とぼそっとつぶやいた。


「フレイ、何か知ってるのか?」


「……はい。アーシュラム教の経典の一節に神と悪魔の戦いを描いた場所があるのですが、その悪魔の姿に似ているような気がします。『神が作りたもうた人間を冒涜するような姿』と表現されるのですが、多くは人間を元にして、頭が複数あったり手足が多かったりという姿で描かれているんです」


「悪魔か……。確かにあれはそう呼ぶのがふさわしいかもしれないな」


「いやいやおっさん、それは神話とかの話だろ。現実に現れたって言うのかよ」


 カイムの言うことももっともだ。というかこの世界にも神話はあるとして、やはりそれはフィクションという扱いなんだな。思えば神や悪魔が実在するファンタジー世界だと勝手に思い込んでいた気がする。


「フレイは悪魔が実在すると思うか?」


 俺が聞くと、フレイニルは首を横に振った。


「私自身は本当にあったお話だとは思っていません。ただ高位の司祭様たちは本当にいるかのように扱っていた気がします。神話ではなく、これは確かにあった歴史なのだとおっしゃっていました」


「ふむ……」


 また雲を掴むような話がいきなり出てきたものだが……しかし今はその真偽を探っている時ではない。


「どちらにしろあのモンスターは実在する。ということはあれが本当に悪魔かどうかはともかく、悪魔だと呼んでいたことは確かなのかもしれないな。どちらにしても今はあれをどうにかするのが先決だろう」


「そうだぜ、あいつをどうにかしないとここでおしまいだ。おっさん、それでなんとかなりそうなのか?」


 カイム達の目が俺に注がれることに、数か月で立場が変わってしまったことを実感する。


「見た目からすると、恐らく戦えないことはないと思う。少なくともカイムたちが逃げる時間は稼げるだろう」


「おっさんたちも逃げられなけりゃ意味ねえだろ。勝てねえのかやっぱ」


「そうだな……」


 正直なところこれも『悪運』スキルの仕業と考えれば謎の安心感があるのだが、さすがにそれは口にはできない。俺のそうあってほしいと願う心が作り出した幻想の可能性もあるのだ。しかし見た瞬間勝てそうだと直感したのも確かである。あの腕や頭部が俺のメイスに耐えられるとは到底思えないのだ。


「恐らく勝てると思う。このメイスで頭を叩き潰せばいいだけだからな」


 俺が異形のメイスを持ちあげて見せると、メイス仲間のラベルトが目を輝かせる。


「さっきから気になってたんすが、そのメイスヤバすぎないすか? Dランクで持てるレベルのものじゃないっすよね」


「そうだな。鍛冶屋が言うにはBランクでもまともに振ることができる奴は少ないらしい」


「って言うことはAランク相当ってことっすか。ソウシさんもうそこまで行ってしまったんすねぇ」


「メリベが言っていた腕力特化というのが当たったわけだな」


 ラベルトの感嘆にラナンがそう付け足した。


「そういうことならさっさと倒して帰りましょ。お腹もすいてきちゃうし」


 ラーニが気軽そうに言うと、横穴の中の空気が少しゆるんだ気がする。こういう時は思いつめ過ぎても硬くなるだけだ。気楽に、しかし油断せずに行くのがいい塩梅(あんばい)だろう。


「よし、じゃあ行くか。悪いが俺たちが出たらカイムたちは全力で逃げてくれ。済まないが――」


「今の俺たちじゃ足手まといだって言うんだろ? それくらい分かるぜ。全力で逃げるからおっさんたちも後から来てくれよ」


 こういうところで変な意地を張らないのもリーダーに必要な素質であろう。カイムはやはりEランクで終わるような人間ではない気がする。あのモンスターを倒したら尻を叩いてやってもいいかもしれないな。

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