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6話 追憶

 その夜、私とグレンは神官長の先導の下、森の祠に向かっていた。月夜の風情を愉しむ余裕は無く、追手にスパイや暗殺者、魔物などを警戒しての進行だった。


 現れる魔物は私とグレンが斬り捨てていった。倒した魔物の素材はグレンが回収していたので処理の手間は省けていた。

 素材処理も戦闘面も彼は確実に伸びている。見ない間に経験の無さを除けば一流冒険者と言って良い程に成長していた。フリードの教育レベルの高さには感心しか無い。ランク上げを愚直に行なって学科にさえ受かれば恐らくAランクまではすぐに到達するであろうことは確実ね。いや、貴族として仕込まれた彼なら祖父のようになることはないか。


「へぇ、大きく成長してるじゃない。祖父の英才教育の賜物かしら?」

「あぁ、じいちゃんに徹底的に仕込まれてるんでね!」

「それにしてもSランクを目指せる器、かぁ……。まさか幼くしてここまで開花するとはねぇ……」


 グレンは全く気がついてないけどレベルの高過ぎる実力者は非常に目立つ、目立ち過ぎて身動きが取りにくくなることも少なくない。先のワルカリア討伐戦なんて目立ったが故に動員されたところがある。尤もランク上げをしていないから前世よりは遥かに少ないけど……。


 彼は恐らく意図せずして面倒事に巻き込まれていくようになるはず、フリードは何故それを教えなかったんだろう?

 私への協力を命じたのならそれくらいの対処法を身に付けないと身動きがとれなくなることくらいは簡単に想像できるでしょうに……。


「ドリビア子爵、あの『迷宮の剣聖』か、懐かしい。昔、神官になる前は冒険者をしておりましてね。彼とは何度か共闘し指導してもらったことがある。私にとっては戦闘面での師匠みたいな御方だ」

「え?じいちゃんのこと知ってるのか?」

「何、当時はまだあの御方も貴族では無かったからな。貴族令嬢の恋に巻き込まれてそれまで断ってきた叙爵を受け入れざるをえなくなったと聞いている、両者ともに立場があって関わりがなくなってしまったが……」


 その顔は懐かしそうな、何処か悔いがあるような顔だった。それも徐々に変わっていく様には彼の心の闇を感じる。


 流石に放置はできない、したくないと思った瞬間、彼は顔を変えてこう言った。


「聖職者らしからぬ顔を見せてしまったな。私のような者でさえ悔いはあるもの、二人はとても若い、これからも辛いことや悔いは多くなることだろう。だが逃げてはならん、目を背けてはならんぞ。その負の思い出は教訓となり己を導いていくのだから」


 意地で言い切ったわね。でもやはり放置はできない。


「今からでも関係を再構築してはどうかしら?ちょうど良いネタがあるわけだし」

「ほう?」

「私とグレンに会った、そのことを含めた手紙を送れば良いわ。フリードもそうなれば放置はできないわ」

「はは、その程度のことにすら気づけぬとは……私も老いたものだ」


 その顔は晴れやかだった。

 彼は戻り次第すぐにでも手紙を書くだろう。長き時を越え、再び結ばれる交友関係、フリードにとっても懐かしいことだろうしね。


「雑談もここまでだ、不穏な気配がある」

「えぇ、どうやらそのようね」

「……?敵か?」

「可能性は高いわ」


 ぐ、グレン……経験の無さは分かるけど英才教育受けたのならコレくらいは気付いて欲しい……。


 さっきから森の様子がおかしい、この雰囲気はワルカリアとの戦争を思い出す。


「祠は進行方向ね?」

「あぁ、そうだ」

「何かやってるヤツらがいるわね。どうやら向こうは5人いるわよ」


 敵の気配、魔力で探ってみれば5人、人数で負ける分油断はできない。

 今回は不意打ちができない。相手が敵ではなかった場合、こちらは言い訳ができない。つまり敵だとすれば正面からの戦いになる。


「神官長、剣は使えるかしら?」

「数年振るっておらんが一応心得程度には」

「なら身を守るだけで良いわ。一本渡しておく」

「わかった」

「もし敵なら私とグレンで蹴散らすわよ」

「言われなくても」


 私たちはゆっくり彼らの背後をとった。

 連中の話し声が聞こえる。まだ気が付かれていない。でも気付かれるのも時間の問題だろう。


「おい、この祠、本当に反転させられるのか?」

「ブーアクルバ様の加護があるのだぞ?」

「いや、待て!後ろだ!」


 真っ黒でした。コイツらワルカリアじゃない!

 しかも私が敵と認識した瞬間に気付いてしまった。


「ブーアクルバを崇めてるとは……まさかこんな所で遭遇するとは思わなかったわ。ワルカリアの残党ども!」


 今の一言で双方に緊張が走った。既に神官長とグレンは戦闘に備えている。

 ワルカリアは戦闘態勢を整えつつも動揺を隠せていない。


「そ、その声は……」

「まさか、あのパステルの英雄だと……!?何故こんな所に現れた!」


 どうやら私のことを知ってるらしい。

 これで遠慮はいらなくなったけど依然私たちが人数差で不利、しかも加護持ちの人数次第では全滅も有り得る。厄介ね。


「グレン、覚悟しなさい。最低でも一人は加護持ちがいるわよ」

「あぁ、わかった。加護持ちとやるなんて初めてだが何とかするさ!」


 共に頷いた私たちは敵を倒すべく敵に向け駆け出した。

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