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5話 教会の隠し事

 ボルバリ山脈を越えた私はボールトネス子爵領の領都で一泊した。ボールトネス子爵領は草原の広がる土地で馬の産地として有名であり、領都は王国交通網の要所の1つでもある。

 私はここで西、則ち教国方面の長距離乗合馬車に乗った。この乗合馬車の終着駅は教国と国境を接するレーロヌ伯爵領のバールン市であり、私の目的地と一致する。と言うのもグレンとここで一度接触する予定なのだ。


 今、グレンがフリードから命じられてる任務は偵察、私が国内で移動する際の状況確認を任されてるらしい。特に私に対する捜索網には警戒が必要で助かってる。


 特に今は公爵閣下に見つかってしまってるので迂闊な手は打てない。ここでしっかり会って情報を受け取る必要がある。見つかっては元も子もないからね。


 馬車に揺られ15日経ち、ようやく目的地のバールン市へと辿り着いた。

 待ち合わせ場所は教会、手配はミハイルがしてくれてた。教会として私を放置しておく訳にはいかないと言うのがよく分かるわね。


 この街の教会は規模は小さく質素だった。けれども洗練された雰囲気があった。ここの神官長の人格というのが滲み出ているわね。


 最近、教会も腐敗した神官に悩まされてるという話はよく耳にする、教会の権威失墜と世界的な影響力低下の最大の要因と言って良い。

 腐敗した神官が神官長になったりすると教会が必要以上に派手になったり、信者から御布施と称した不必要な徴収を始めたりと碌でもない状態が生起する。そうなれば民の暮らしは悪くなり治安悪化の原因ともなる為、各地の領主は神官のことを信頼していない。いつおかしくなっても良いように身構えているのだ。これは王家とてそれは変わらない。


 無論私も対応したことがあり、その時は御布施と称した徴収で治安を乱した1人の神官を反逆罪の罪状で血祭りにあげている。当然ミハイルには先に話をして許可と協力を取り付けていたので教会から文句が来ることはなかった。まぁ何もなしにやれば普通に抗議の嵐が来るんだけど。


 教会に入って冒険者ギルドのライセンスカードを示すなりすぐに最奥の間まで案内された。最奥の間は破邪聖石を安置して教会を守る結界装置とも言うべき神聖な場所とされ、一般には存在しないものとして扱われている。私はこの真実をミハイルから教えてもらった。

 尚、ここの神官長は最奥の間の存在意義を知っているらしい。入り方も知っていたし、安置されていた石を拝んでいたので間違いないだろう。


「少々お待ち下さい。彼の者をここにお呼びいたします」


 石を拝み終わった神官長はそう言って部屋を出ていった。グレンの居場所はここから近く、正確な位置を知っていたのだろうことは簡単に推測できた。


 程なくしてグレンが連れてこられた。


 ここにたどり着くのがあまりにも早すぎることから教会にいたと推測できる。

 いや、下手したら一時的にだけど教会に居候してた可能性すらあるわね。私も一段と気を引き締めていかないといけない。ここで私が失敗するような事があれば全てが終わってしまう。それだけは防がなくてはいけない。


「久しぶりね、グレン」

「あぁ、久しぶり!」

「ゆっくり雑談したいところだけど、そうもいかないわよね?」

「あぁ、昨日から厄介なことになってやがる」


 厄介……?何があった?


「お前、フラジミア公爵に見つかったろ?」

「うん、アレは想定外だったわ。まさかグランリアに彼が行くなんて思わなかった。だから山越えなんていう少し無茶なルートを選択したわけなんだけど……」

「そうか、どうやら間に合わなかったらしい。昨日僕のところに公爵の手の者が会いに来たぞ。既に国境線の警備も強化されている。お前を連れ戻すためだろうよ」

「会談の場をここにしたのもそれが理由です。表は王国常備軍の巡回が始まっております。流石にここまでは踏み込まないと判断しました」

「恐らく教国方面の国境突破はかなり難しい、僕が見た感じ警備体制が堅すぎる。これでは迂回するか何か策を立てねば突破は無理だ」


 何それ、厄介すぎるでしょ。私の想定の数段上を行ったわね。となると、早馬を用いた伝令を派遣して手早く方面を絞って情報を広め国境を封鎖したと……。手際が良すぎる、公爵らしい素晴らしいやり方だけど敵に回すと面倒過ぎるわ。


「と、なると既に国境通過する者たちの持ち物検査とかも始まってるわね」

「あぁ、荷物に紛れ込むのも無理だ、すぐに見つかる。商人たちも困っていたぞ」

「また山越えするしかないかな……」

「いや、教国国境の山脈は見晴らしが良すぎてバレると思う」


 グレンとどう国境を越えるか考えていたところ、思わぬところから助け舟が出てきた。


「真に残歴転生せし聖人ならばあの通路を使うことも可能かと」

「あの通路?」

「あぁ、この国と教国の間を通る聖別されし地下通路だ。彼処ならば見つかることは無い。何故なら聖人でなければそもそも入ることすら叶わぬはずですから」


 なんかとんでもない密入出国ルートがあったらしい。今までよく見つからなかったもんだ。

 呆れ顔が出てきてしまっていたのだろうか、神官長も苦笑いして補足してきた。


「私もこんなのよく維持できたと思います。腐敗した教会組織で国内統治の観点から管理不可能な入出国ルートの排除を進めてきた王国政府の目を欺くのはほぼ不可能と言って良いでしょう。今でこそ王国政府の目を欺くこと自体が腐敗の象徴とされる風潮があり、過去の遺物が少しづつ暴かれつつあります。しかし教会に必ず設置される最奥の間とその通路だけは誰も触れることがなかったのです」

「本当によくそんなの残ってたわね。いや、実質的に『使えないルート』だったから目立つことすら無く気付かれなかったのかもしれないわね……」

「その通りかと」


 色々と問題は感じるけどこれを利用しない手は無い。お父様も公爵もこんな手は予測できないだろう。こんなに監視が厳しい以上はは『予測不可能』であることが求められるのだから。


「で、その道を使うんなら重要なのは場所だ、それはどこに入口がある?」

「この街の近くの森に祠があります。そこから道は延びています。動くなら夜でしょう」

「今夜動きましょう。遅くなればなるほど監視は厳しくなるわ」


 そうして今夜の越境することが決まった。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

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