4話 ボルバリ山脈(下)
「ここが頂き……それにしても自然魔力濃度が高いわね。ここまで高いとなるとやはりここは迷宮として機能してるようね」
ここまで魔力濃度の高い迷宮は前世を含めても見たことがなかった。魔力が濃いと分かっていてもこれは異常と言って良いわね。
異常な魔力濃度の環境下で生まれる魔物は当然のように強い、ともなると正真正銘のバケモノの中のバケモノが出てきても驚かない。
そして私の予感は当たっていた。
頂上には宝玉とも言うべき代物があった。その宝玉は膨大な魔力を放出し続けている。つまりこの宝玉こそがこの迷宮の根幹であることを示していた。
この山脈が異空間化せずに迷宮化したのは恐らく魔力が散ってしまい、異空間化には至らなかっただと考えられる。正直知りたくも考えたくも無かった結論だった。
悪夢は連鎖する。
「ギィアアアアア!」
「あ、アレは……!」
気がつけば山の頂上で最も会いたくない魔物が飛んできた。
ドラゴン、高い身体能力と知能を持ち空を飛び回る能力を持つ強力な魔物、その戦闘能力は種族的に見ても魔物界最強クラスと言っても過言ではない。前世の私を殺した存在だけど負けるつもりは無い。
「ドラゴン、久しぶりに見るわ。今の私は殺された当時とは違う、正面からでも十分戦える!」
私は飛行魔法を使って飛び立ち、ドラゴンに向かって突っ込んだ。
飛んできた私に対してドラゴンはブレスで応戦してきた。遠距離で撃ち落とすつもりなのは丸わかり、それが通用する程甘くはない。
飛行魔法は方向制御も可能なので拡散型のブレスでも無ければ避けるのは難しくない。
ブレスを避けられたことに怒りを露わにするドラゴンは私に向かって突進してきた。どうやら接近戦をやるつもりらしいわね。確かにあの巨体の破壊力は防ぐのも避けるのも難しいから間違った選択とは言い切れない。
でも寄ってくるのは私としても大歓迎よ!
私は私に向かって振り下ろされるドラゴンの手に必要以上に魔力を注ぎ込んだ『爆炎球』を叩き込んで腕を止めた。この魔法を使ったのは爆発で振り下ろされる手を弾き返すだけではなくて、爆炎で手を痛ませることを目的にしていた。ドラゴンのウロコは硬くて貫きにくいのよね。
「グギャアアアアァ!」
ドラゴンの悲鳴を無視して私は安物のナマクラな剣を爆発で傷んだドラゴンの手に突き刺して支えとした。因みにこの剣は改造して返しをつけてるので刺さると簡単には抜けない様になっている。
それでもドラゴンの力だとどうなるかは分からないのでドラゴンの魔力を吸い上げて強度を強化する魔法を仕込んで補強した。抜けたり壊れたりしたら困るからね。
私を見失ったドラゴンに強力な魔法を何度も何度も叩き込んだ。至近距離からこの威力の魔法を叩き込まれたらドラゴンでも普通に死ぬはず。
魔法を撃ち込む度に暴れたけどしっかりしがみついてるので簡単には振り落とされるつもりはない。しかしその抵抗も長くは続かなかった。
ドラゴンの抵抗が弱ってきたところで私はドラゴンの頭によじ登った。魔法でトドメを刺すより早く確実に倒すには頭を潰すのが一番なのである。私は大太刀を頭へと突き刺しトドメを刺した。
流石に頭を潰されてはドラゴンでも生き残ることはできない。ドラゴンは山頂に墜落した。
「ようやく倒せたわね」
魔物は倒して終わりではない。死骸を片付けなければいけない。
まずはドラゴンの鱗と牙、爪を剥ぎ取りマジックバッグに収納した。
ドラゴンの鱗を用いた軽鎧は動きやすさと防御力を両立できるので最高の防具で有名なのだ。当然私も欲しい。長期滞在する街の職人にでも作成依頼を出そう、うん。
ドラゴンの肉は美味しいらしいので食料として少しだけ回収しておこう。量が多すぎて全部は無理なのが残念ね……。
回収するものを回収したら残りの遺骸はしっかり処理しておく必要がある。なので炎魔法で灰に変えておいた。そうしておかないと魔物が寄ってくるからね。まぁこんな秘境だと人里には被害でにくいからと放置する人はいるらしいけど……。
ドラゴンも大概だったけどそれ以上にヤバイものがそこにはあった。
「これは破邪聖石?いや、反転してるのかな?よく分からないわね。取り敢えず回収しておくべきね」
その石は聖なる気配を漂わせつつも澱んだ雰囲気を醸し出している。少なくともこれを放置しておくという選択肢は存在しない。
この手の存在は放置しておくと何が起こるか分かったものじゃない、でも手元にあれば余程のことがない限りは何かしらの対処は可能だ。安全の為にも回収が必要だ。
回収するものを回収したところで束の間の休息することにした。ここは景色が良い、自然魔力濃度が高過ぎることを除けば休憩するには最高のポイントだからね。
勿論ドラゴンの肉も食べる。新鮮なドラゴンの肉なんて食べる機会は無いからね。こんな場所では串焼きにしかできないけどこの機会を逃すわけにはいかない。
マジックバッグから調理用の炎を起こす魔道具と銀の串を取り出し、魔道具を起動した。
まずは串を炙った。当然腹を壊さない為の措置だ。冒険者は体が資本、況してや危険地帯の中で体調を壊したくはない。危険はできる限り排除するに限る。
炙った串を肉に刺し肉を焼いていく、焼いているだけで天上の食べ物が如き美味しそうな匂いを醸し出していた。これは凄いわね、流石は新鮮なドラゴンの肉よね。
ドラゴンの肉の味付けはシンプルに塩とパルム粉だけにした。パルムの実は磨り潰して粉にするとパルム粉と呼ばれる調味料になる。これがまた絶妙な香辛料である。
塩とパルム粉を振り掛けたドラゴン肉の串焼きはこの世の食べ物とは思えない程、肉々しくて美味しかった。程よい歯応えがあり、溢れんばかりの旨味に塩とパルム粉がとてもよく合っていた。
ドラゴンの肉、こんなに美味しいなんて思わなかったなぁ。これは売るのは勿体ないかもしれない。自分一人で独占したい、そう思えるほど美味しい肉だった。
しかしドラゴンの肉は美味しいだけではなかった。なんと肉に含まれる魔力が多いせいか、体に魔力増強の効果があったらしかった。魔力が減っていたからちょうど良かったわ。
肉を食べ終わったところで私は休憩を終わりにした。
手早く片付け、西に向けて下山した。
登りとは違いトラブル無く麓の街まで辿り着く事ができた。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
良ければブックマーク、評価、感想、レビュー等お願いします。




