50話 ワルカリア討伐戦-13-
結界に突入する部隊の人数は僅か10人、本当に少数精鋭だ。
部隊の隊長に指名されたのは出世欲皆無のラバテルと言う名の騎士だった。聞けば実家から騎士になるように言われてなったらしいが、本人は乗り気ではなく、出世する気は無いらしい。なので要人との繋がりは非常に弱く、私のこともよく知らないらしい。
ただし戦闘技術は非常に優れており、やる気を出せば直ぐにでも出世するレベルなのはすぐに分かった。彼は優秀だ。
確かに彼なら隊長としては最適だわ。
他のメンバーも歴戦の猛者やら天才と言って良い戦士ばかりが集められていた。だけど勿論最年少は私だった。皆からは白い目を向けられ疑問をぶつけられた。仕方がない。
「しかし、こんな幼い女の子を放り込むとは……ドリビア子爵は耄碌し御乱心されたのか……」
ラバテルに至ってはこの言い様だった。酷いまでの酷評だけど普通に考えたらそうなっちゃうんだよね。
何がともあれ命令は命令、やるしか無い。
結界は破邪聖石を当てたら当てた周りだけ無力化されて出入りに不自由無い状態になった。
結界の中は敵はほぼいなかった。恐らく結界には入れないと踏んでの体制だと考えられた。この即席チームにとっては都合が良いわね。精鋭が集められてるとは言え人数が少ないので敵が多いと負担も大きい。
そんな中、私は敵の位置を探っていた。
「祭壇は……向こうね。かなり強い魔力を感じるわよ」
「お前、その形をして魔道士だったのか!」
「ん?本職では無いわ、私は剣士よ。まぁ本職の魔道士並の知識はあると自負してるし本職より実戦向きの魔道士ではあるけどね」
「そんなデタラメな奴なぞ居て堪るか!」
「魔法と剣、両方実用レベルって……俺の20年間はどこに行ったのだ……」
えらく反感を買ってしまった。こうなったらもう実績で黙らせるしかないわね。
「私の実力はさて置いて、任務は任務、敵の祭壇を目指すわよ」
「そう……だな……。お前の言う通りだな……」
隊長には呆れ顔をされてしまった。
私は道を探るにあたって、最短か警備の弱いところかを皆に訊ねた。その結果は最短だった。無論、結界を抜けられた可能性に敵は気がついていたので最短距離の直線上付近の敵の密度が上がってる。
恐らくこの選択は正しい、警備の弱いところを突いても祭壇付近で包囲攻撃をされる可能性がある。包囲される前に進んでいく過程で各個撃破できるのならしてしまった方が楽と言うのはあると思う。
実際最短距離に近いルートを選んで進むと連戦に次ぐ連戦だった。敵と遭遇しては戦い、途中で参戦してくる奴がいれば纏めて相手にして、少しずつ前進した。
この連戦で私は信用を勝ち取った。掛かって来る敵ならば片っ端から斬り捨てるその情け容赦無さ、そして圧倒的すぎるその実力は選ばれた精鋭たちの中でも突出していた。魔法、剣技、槍術、弓術、敵は達人ばかりだったけど私の前では無惨に敗れていった。
「なるほど、お前の言う『実戦的な魔法』とは便利なモノだ。武芸と魔法を組み合わせるとこんなに強くなるのか、武芸の腕のみならず魔法を鍛える重要性を認識させられた」
ラバテルの発言に皆が同意する。
だけど雑談をしてる余裕はあまりない、目の前に敵の祭壇と思わしきナニカが見え始めた。私は魔力からしても間違いないだろうと考えていた。
「あれが恐らく敵の祭壇よ」
「あぁ、嫌な感じがする」
「あそこを潰せば俺たちの勝利というわけだ」
皆が感慨深そうにしている。当然だろう、敵は破邪聖石で思うように動けないとは言ってもツワモノ揃い、疲弊しててもおかしくは無いわね。
「あぁ、だからこそ此処で気を抜く訳にはいかんぞ。皆!構えよ、これで本当に最後だと思え!征くぞ!」
隊長命令に皆が顔を引き締め頷いた。
そしてこの戦争最後の戦いが始まった。
祭壇の前の敵は30人ほど、これなら難なく蹴散らせる。
私の爆炎球が炸裂した。強烈な爆発と炎が敵を襲った。無論この程度で全員潰すことなど不可能だ。20人以上がまだ生き残っている。
生き残った敵の内、見るからに豪華な衣装と武装をした1人を除いて私たちの方に走ってきた。
乱戦となった。女だろうが子供だろうが戦場では考慮するべきことではない。私にも敵は殺到してくる、躊躇うことはない。斬って斬って斬りまくった。仲間たちもここで押し負けるような無様を曝すことはなかった。
結局損害無しで敵を1人にまで追い詰めた。
「死にてまで忠義とその身を尽くした同志たちに祝福あれ。大神ブーアクルバよ!最高の神民たる我に力を与え給え!」
ソイツは仲間が全滅したのを見届け祭壇に祈りを捧げた。そしてその祈りが終わると同時に辺りは暗闇に包まれた。気味が悪い祈りね……。
「何なんだ!?あれは!」
隊の1人がそう言った。その瞬間、その者はミンチになっていた。
ミンチになる直前、奴は振り向き、魔力が蠢いていた。
その魔力はこれまで見たことがないほど禍々しかった。
私は魔法で攻撃を仕掛けた。しかし難なくそれは弾かれた。そして奴は私に向かって踏み込んできた。
奴の剣が襲いかかってくる。私は大太刀の剣先を地面に突き刺し奴の剣を受け止めた。
凄まじい重圧だった。フディーサランとの戦いを経験してなかったら今の一撃で私は失神していたはず、悔しいけど今の私1人では手に余る。
頭数ではこちらに分がある。
仲間の一人が私に釘付けになった奴を横から槍で突き刺した。
しかし奴は何も無かったが如く私に向けていた剣で槍を斬って無力化した。やっぱり致命傷になるような傷でも平気なのが非常に厄介だわ。
誰かを攻撃するということは防御を捨てるということ、ラバテルが勇敢にも肩から心臓のあたりまで斬った。だけど硬すぎたのか斬り捨てるには行かず止まった所で引き抜いていた。
流石に身体を大きく斬られては動きが鈍る。
奴は治癒魔法を使い一気に傷を癒した。
私もその隙を見て大太刀をしまい打刀を抜いた。言うまでもなく大太刀は大きいので小回りが利きにくいのでこう言う場面では不利なのだ。
そして狙うは首、私は抜くのと同時に斬り掛かった。しかしそれは防御魔法で止められた。
「流石にここまで来るだけはあるか、だが我を甘く見過ぎだ。全員塵と化してもらうぞ」
「これ以上塵にされるのは困るんでな、その前にお前を片付けてやるよ!」
「フンッ!やれるものならやってみよ!」
敵の挑発に対してラバテルは挑発返しをやっていた。……やる気は無くても血の気は多いのかもしれないわね……。
会話を終えると同時に奴の魔力が異常な動きをしだした、またアレか……
予想通りその魔力は見たことのない恐ろしい魔法に変じて襲ってきた。標的は……私か!
飛んでくる架空の斬撃を何とか防御魔法で受けた。しかし防御魔法は削られて行く、咄嗟で発動したので威力が足りないのだ。なので防御魔法を重ねるか避けるかするしない、私は避けることにした。
私を逃した魔力の塊は背後にあった建物を粉砕した。やはり恐るべき威力だ。
そしてあの魔法で攻撃してる間は無防備になるらしいことに気がついた者が現れた。ラバテルだった。気がついた彼はすぐに斬り掛かった。今回は心臓ではなく腕を斬り落とすコースだった。
腕を斬り落とされたことで奴の動きは一気に単調になった。両腕がないが故の不自由に苦しみだした。ここまでも攻撃を誰かが受けつつ他の者が攻撃することで何とか戦線を保っていたのが一気にこちらが有利になったのだ。とは言え、私たちも負傷が増えてきており持久戦となればどちらが勝つかは分からない。
それでも戦いは続く。しかし戦況は大きく変わりつつあった。私たちの戦い方が変わった、急所ではなく部位切断による敵の弱体化を狙う方向に変わったのだ。
そして遂に私の刃が奴の首に迫った、私は魔法を使うことで防御魔法を破壊した。もはや止められるものは存在しない。奴の首は跳ねることに成功した。
しかし油断してはいけない、ワルカリアの高位幹部は首を斬られても簡単には死なない。
「よっしゃあ!」
「まだよ!首だけでも脅威になるわ!」
「心得た!」
最後、奴にとどめを刺したのは隊長のラバテルだった。この戦い、最後の最後まで彼はその戦闘センスを十全に、いや十二分に発揮していた。
「流石に頭ごと砕けば死ぬだろう」
「えぇ、魔力反応も消えたわ。ようやく倒せたわね」
最終的な死者は2人に収まった。この次元のバケモノを相手にコレで済んだのは本当に幸運だった。
最後の仕事が残っている、この祭壇を破壊しなければならない。
しかしこの魔力の塊、下手な壊し方をすると大惨事になる気がするんだよねぇ……。
「なぁ、この祭壇、どうすんだ?」
「敵のモノとは言えただならぬ威厳を感じる」
「下手な壊し方して大丈夫なのだろうか?」
やはり皆さん同じことを考えていたらしかった。
「コレを活用できないか?」
隊長が出したのは破邪聖石だった。10人全員が渡されていた。万が一に備えてということだった。
「そうか!その石には邪気に対抗する力が込められてる、コレを使えば抑え込める……!」
皆も納得顔だった。
「まったく……教会には借りを作りっぱなしね」
私は少し憂鬱だったけど……。




