47話 ワルカリア討伐戦-10-
私が拠点のトップを倒した後、戦況は味方が圧倒的優勢となった。
内部に侵入していた私たちの手で挟撃に持ち込むことができたので敵の壊滅は早かった。
因みに私が倒した拠点のトップは組織の最高幹部の一人だったらしい。道理で人外なわけだ。
そして最初の街でのその戦果は瞬く間に地域全体に広がった。
その結果、ワルカリアは各地から撤退して本拠の護りを固めだした。まぁ本拠を落とされるのは痛いだろうしね、当然と言えば当然か。
実は一箇所に固まってくれた方がこちらとしても好都合だったりする。短期決戦になるので負担が少ないのだ。
まぁ頑強な抵抗で被害も出やすいんだけどね。
そして今日、遂に敵の本拠となるワートン男爵領に向けて進軍が始まった。
ワルカリアが撤退行動を取っていたとき、ワルカリア討伐軍は動くことができなかった。何故なら敵の動きを読むことができなかったからだ。その状況下で動くのは愚策、そう判断されて一度守りを固めることになったのだ。
昼前までにワートン男爵領の手前まで進軍できた。どうやら領界に強固な迎撃陣地を作ったらしく、恐らくそこが決戦の地になるだろうとのことだった。何故なら男爵領の中心地には大型の祭壇があって敵対者を寄せ付けるわけには行かないかららしい。
「まもなく会敵するだろう。今のうちに休んでおけ、ただし警戒は怠るなよ」
恐らく会敵前最後となるであろう休憩の指示が降りた。
休憩後はまず間違いなく一瞬たりとも気が抜けない。敵前線部隊は死に物狂いで時間稼ぎをすることが予測できる。その間に増援部隊が駆けつけてくるはずだ。
「会敵前の休憩は分かるけど、なーんかピリピリし過ぎてない?」
「本当に妙だわ」
「なんか嫌な感じがするの……」
「何かおかしいわ皆気を付けて」
私の近くにいる『白い徒花』の皆さんは違和感を感じたらしい。多分正解よ。
「恐らくだけど次の戦いは長引くわ。総力戦に近い戦いになるはず」
「え?どういうこと?」
リンネが首を傾げてる。まぁ知らないのも無理は無いわね。
「自分たちの祭壇に到達される前に撃退を試みると考えられるからよ。これは情報を精査したワルカリア討伐軍本部の予想よ」
「つまり領境でワルカリアが遅延戦闘を仕掛けてくるって認識で良いかしら?」
「えぇ、耐えてる間に周囲に展開する援軍を集結させ、挟撃して私たちを撃破する作戦だと予想してるわ」
自分で言っててかなり厄介な作戦だと思う。対策すべき方向が増えれば増えるほど兵力を分散させる必要がある。その分、包囲される側は各個撃破されやすくなる。
それを阻止するのに一番有効なのは不意討ちで大規模魔法で別働隊を撃破することだけど、それが可能な魔道士は戦場に出ようとしない、あいつらは学者気取りの腰抜けだからね。必然的に私がやらねばならず目立つことになる。
うん、没だね。
「なーんか雲行き怪しくなってきたわね。その予想はあのノシュヤとか言う男の情報と偵察結果から導き出されたものかしら?」
「えぇ、彼のおかげでワルカリアの行動論理が丸わかりよ。捕縛した甲斐があったわ」
マリンは流石に頭が良い、パーティーのリーダーを務めるだけあるわね。
「でもそうなるとは限らないわ。ワルカリアが宗教団体というのもブラフの可能性すらあるわ。そうなれば別の手に訴えてくる可能性もあるわ」
「情報流出への対抗策かしら?」
「その通りよ」
ここまでやってくる組織なので完全に予測通りに動いてくれるとは思っていない。
ーーーーーーーーーー
休憩が終わると同時に臨戦態勢に入った。
ここからは連戦となる。敵の壊滅までひたすら連戦なのだ。
空気がピリピリする、戦争特有の雰囲気だ。私は経験があるから耐えられるけど顔を青くしてる者もいないことはない。
そして戦意を維持するは指揮官の仕事、さぁお手並み拝見といきましょう。
「いよいよ敵と会敵するだろう、不安な者もいるだろう、だが恐れることはない!諸君らは悪逆の限りを尽くすマフィアを駆逐してきたのだ!さぁ最終決戦だ!愛する者の為、国の為、未来の為!ワルカリアを駆逐しようぞ!」
力強い演説だった。士気は明らかに向上している。これなら簡単に押し負けることはない、後は如何にして戦うか、ここからは戦士の領分、負ける訳にはいかないわね。
「突撃だぁー!」
「うおおぉぉぉ!」
「かかれぇぇ!」
「未来を勝ち取れぇぇ!」
凄まじい鬨の声や雄叫び、叱咤、あらゆる声が飛び交う中、ワルカリア討伐軍は突撃を開始し交戦開始となった。
至るところで剣戟の音が鳴り、魔法が舞う。人が、思想が、信仰が、あらゆるものがぶつかり合う会戦が始まった。
私も前線に向かう、できる限り今ここにいる敵を撃破する必要がある。でなければ包囲されジリ貧になり負けてしまう。地の利はワルカリアにあるのだから。
「いたぞぉ!あの小娘を殺せぇぇ!」
「敵討ちの時ぞ!」
「我らが神を侮るなぁぁ!」
敵が遂に私の存在に気がついた。
ワルカリアの腕に自信ある勇士たちがワラワラと寄ってくる。
望むところだ、ここで蹴散らす!
「来たか!格の違いを見せてやんよ!」
血が沸き立つ、目の前には強者の群れ、敵が狙うは私の命、自然と笑みが漏れる。ここまで狙われるのも珍しい話だ。これは本気でいかないと殺られる。何もかも思い通りにはいかないわね!
手に持つ得物を打刀から大太刀に切り替える。こういう乱戦時はデカい得物で蹴散らすのが一番早い、こんな状況では繊細な戦いなど望めないのだから。
突っ込んできた最初の一人はリーチの差を活かして叩き斬った。苦々しい顔をしてたけど力を使えないことへの不満なのか、斬られることへの恐怖なのか分からないわね……。
一人目を叩き斬った瞬間、その左右から二人の敵兵が突っ込んできた。流石に斬るのは厳しいので咄嗟で魔法を組むとそのまま二人に向かって放った。放たれた魔法の直撃を喰らった二人は吹き飛ばされ突撃してくる味方と激突し板倒しの状況を引き起こした。これで突っ込んできた奴らの三分の一は無力化された。
吹き飛ばされた二人の厄災から逃れた者が次々に突っ込んでくる。その度に大太刀で纏めて薙ぎ払ったり魔法で蹴散らしたりして対処していった。
破邪聖石が手元にあるので多少の加護持ちなら加護がないのと同じである。そうなれば経験豊富で魔法的な能力の高い実力者である私の独壇場となる。突っ込んできた連中を全て倒して気がついたら屍山血河になっていた。
しかしこの屍山血河、私一人の成果ではなかったりする。私に向かって一目散に押寄せてる状況は横から不意をつくチャンスなのだ。それで手柄を上げる為に、数人の冒険者が突撃しており、それなりの数を打ち倒していた。
私のところで受け止められた人数がかなり多かったので他の所では余裕ができ、難なく押し返したらしい。結果的に援軍が来る前に敵は潰走状態に陥って迎撃拠点は陥落した。想定より良い方向に進んでいる、嬉しい誤算ね。
更に裏で動いていたこちらの別働隊が敵別働隊を撃破したという情報も流れてきた。奇襲は奇襲に弱い、良い教訓になったわ。
流石にここからは斥候を放ちつつ慎重に進むことになり、一度斥候を放ち偵察しつつ迎撃拠点の再利用をすることになった。
敵部隊が大挙して押し寄せてくる以上は出来るだけ有利に進めれる方策として有効ね。
迎撃拠点の改修中に挟撃のための別働隊が襲ってきたけど難なく返討にすることができた。まぁこちらは余裕を持って戦をしているので順当な結果だった。
そして拠点の改修が終わる頃、遂に敵の本隊が姿を現した。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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