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46話 ワルカリア討伐戦-9-

 最初に突入した部屋はノシュヤとその子分たちの部屋だったらしい。何でも幹部として与えられた部屋を改造してあの通路を繋げたらしい。流石は武人、戦闘経験ない人とは違ってやることにロマンと実用性の両方を揃えてる。


 そして部屋には数人の武装した男たちが待ち構えてた。

 そして彼らは私たちに驚いていた。

 彼らはノシュヤの子分だったらしく、親分が敵と一緒に現れたらそりゃ驚く。


 更に話を聞けば裏切りの調査を上から命じられたそうだった。どうやら階級が高くともマスオンは信頼されてなかったらしく、恐らく早とちりでノシュヤを裏切り者扱いした可能性を考えていたとのことだった。


 ワルカリアからしたら現状は多分予想斜め上だろうな、とは思うけど信頼ならないアホの階級を上げた連中の自業自得なので私たちはそれを最大限利用させてもらう。


「しかし何故親分が敵方に?」

「裏切り者の扱いを受けちゃあ普通は席はねぇだろ?更に言えば状況を見ずに仲間を見捨てる神なんざこちらから願い下げだ」

「え?親分の身になんかあったんすか?」

「ブーアクルバの加護を失った、と言えばわかるだろ?」


 加護を失った、それを聞いただけで子分たちの顔色が変わった。

 信じられない、そんな感情が透けて見えた。現場にいた敵側の私ですら思うことがあったくらいだからね。


「お、親分、じゃ、じゃあ……」

「そうだ、残念ながらよ、もう裏切り者の烙印は押されてんだよ。だったら勝手に裏切っておきながら裏切り者の烙印を押してくる奴らと戦った方が有意義だろ?」


 そして、彼の決意を聞いて彼の子分たちは意思を固めたらしい。


「俺たちは親分についていきます!」

「親分がいたから俺たちは今生きてる、恩義は返してぇ」

「親分を裏切ったワルカリアなんざこちらから抜けてやる!」


 なんと全員がワルカリアを離反する事にしたようだ。これは少し羨ましいわね。ここまで慕われる人はあまりいない、彼の人間性がよくわかる。


 私は一人狼の方が都合が良かったからソロを貫いてるけどね。


「ここに来て離反者続出とは正に『思わぬ金塊』だな。ではこの拠点やワルカリアの動きについて詳しく教えてくれ」


 騎士たちの一声で臨時の会議が始まった。恐らく他のワルカリアのメンバーは何もなければ入ってこないだろうと言う話らしい。


 この会議で潜入部隊は複数に分かれて拠点内部を襲撃することが決まった。無論私は最も激戦区になるであろう拠点の中枢を襲撃する隊に配属されてしまった。仕方がない。


 会議が終わるなり襲撃が始まった。拠点に詰めていたメンバーの9割が出撃してるらしく、内部の守備は大したことなかった。なので私と言う特級戦力がいる中枢襲撃隊は早い段階で敵の拠点本部に辿り着くことが出来た。


 ここからが正念場、確実に加護持ちの化物が何人もいることが想定されている場所だ。今回は破邪聖石を用意されてはいるけど危険度はちょっと計り知れない。


ーーーーーーーーーー


sideワルカリア


「おい、なんか調子狂わねぇか?」

「確かに妙な気分だ」

「この感覚は教会に近寄ったとき以来だな……何があったんだ?」


 敵襲の報告は無い、しかしこの場には不吉な空気が漂っていた。

 加護持ちのメンバーの発言に対し、拠点のトップも苦々しい顔を見せた。


「教会の謎の力か、忌々しい。何処から入ってきたことやら……」


 その一言で場にいる全員に緊張が走る。侵入者でもいなければこうはならない。そう考えたからだ。彼は更に続けた。


「まぁ加護を持たぬ下っ端が何も気が付かず持ち込んだだけかもしれないがな……この状況では侵入者の可能性は否定できん」


 彼のどっしり構えた雰囲気を見て幾分場は静まった。冷静でなければ勝てる戦いも勝てなくなってしまう。負ける訳にはいかない。


 皆がこれからどうするか思案していたとき、それは突然やってきた。


 魔法で扉が吹き飛び、それと同時に爆炎が部屋を包みこんだ。誰しもが侵入者もその侵入者が使う魔法も感知出来なかったのだ。



sideワルカリア 終了


ーーーーーーーーーー


 拠点本部の構造は会議室になっているらしい、機密情報を守るために密室になってるという情報も得ている。ならやることは1つだけだね♪


 魔法を2つ用意した。

 一つは風魔法、扉を吹き飛ばすのに使用する。もう一つは爆炎を生じさせるバーストブレイズと言う炎魔法だ。


 既に破邪聖石の力で敵は弱体化しているので奇襲になる可能性もある。


「下がってて、敵を丸焼きにするわ」


 そうして私は魔法を発動した。


 扉は凄まじい勢いで吹き飛んだ。吹き飛ぶと同時に本部部屋に向けて爆炎を放った。

 轟音とともに部屋全体を焼いていく。魔力探知をしてみると今の一撃でこの部屋にいた者のほとんどが即死したらしい。

数秒後、派手な音が鳴り止んだところで風魔法を使い部屋の煙を飛ばしつつ部屋に侵入した。


 生き残っていたのは3人、そのうち2人は瀕死でギリギリ生き残った感じだった。この2人は騎士たちとノシュヤの手であっという間にトドメをさされていた。

 だけどもう1人の男の様子が異常としか言えなかった。

 無傷とまではいかなくとも所々、焦げた跡や血を流してはいる。でもその目はこちらを冷静に睨みつけており、動きに鈍さは無い。


 コイツ、今の不意打ちを防御することに成功していたらしい。ここまでとはね……。


「やってくれたな、小娘」


 その一言は短く怒りに満ちていた。男の魔力が急激に増大する。だけど何処か制限されてるように見える。


「教会の手先か?力が封じられてるな」


 封じられててコレかよ……ちょっと引くわね……


「気をつけろ!ソイツは危険だ!」

「ノシュヤか、まさか本当に我らを裏切っていたとはな」

「裏切ったのはそっちだろ?」

「何?」

「敵と対峙してる時に俺は力を剥奪されてんだ。仲間を見捨てる神なんざこちらから願い下げだ」

「やはりあの馬鹿を上げるんじゃなかったな。お前を失うとは惜しいことをした」


 どうやら彼はノシュヤの身に起きたことを正確に把握したらしい。組織の上層部に立つ者としては優秀ね。


「だが、それを理由に本当に裏切ってしまった以上は加減はできん。裏切り者に死を」


 ノシュヤに向かって次元違いの超高威力の魔法が放たれた。彼は間一髪で避けてみせたものの、その魔法の導線上は酷いことになっていた。

 壁という壁がぶっ壊され、拠点の外にまで被害が及んでいる。騎士たちが唖然としているのが分かる。こんなもん直撃すれば即死だわ……。


「クッソ!相変わらずとんでもねぇ威力してやがる」

「避けるか、ならば確実に息の根を止める」


 彼は剣を手にノシュヤの接近する。

 マズイ、まず間違いなく彼の剣は今のノシュヤでは防ぎきれない。


 私は駆けた。そして彼に斬り掛かった。敵に背を向ける行為そのものは悪手ね。


「遅い!」


 私の刀は受け止められた。だけどノシュヤの体勢を整えるくらいの時間稼ぎは出来たらしい。即座にノシュヤは彼を背後から刺した。私に対処する為に振り向いたので、ノシュヤは背後を突く事ができたのだ。


 しかし……


「心臓を一突きか、良い手ではあるな」


 なんと心臓を刺された状態で裏拳をノシュヤにぶつけ吹き飛ばしていた。


 いや、何なのコイツ……。


「え?ウソ……なんで心臓刺されたのにピンピンしてるの……なんなのよ……」


 あっ、思わず本音が漏れてしまった。


「確かに良い手ではあった。相手が俺でなければな。私のように最上級の加護を受ける者ならばこの程度では死ぬことはないからな」


 いや、心臓刺されても平気って……もう人じゃないでしょそれ……

 ともなれば、狙うべきは首かな?さすが頭と胴が離れればひと溜まりもないでしょう。いや、楽観視し過ぎか……。


 呆れる私を見据えつつ彼は剣を構えつつ、こちらに歩いてきた。

 私は振り下ろされる剣を刀で防ぎつつ、魔法を放つ。

 それに対して彼は防御魔法で魔法を防ぎつつ剣戟を仕掛けてきた。


 一進一退の攻防となった。彼の動きは鈍くなっている。心臓を刺されても平気とは言ってたけど影響はなくはないらしい。辛うじて斬り結べてるのが今の状況、本気の彼だったら私は為す術無く負けてたわね。


 流れる血が彼の体力を奪っていく、徐々に鈍くなる彼の動きを見て私も動きを変えた。私の剣術はトーイス流が基本になっている、でもベルタグル流にも通じてるので戦術の変化をつけることも容易なのだ。


 変化した剣技に彼はついていけなかった。遂に左腕一本切り落とすことに成功した。


「何?」

「あら?もしかして複数の剣術に通ずる剣士は初めてかしら?」

「まさか左腕を斬られるとはな……」


 苦々しい顔をしつつも私を殺すために彼は剣を振るう。

 でも所詮は満身創痍の片手剣、それに対応できない私ではない。


「もらった!」


 遂に私の刀の刃が彼の首を斬り落とした。

 それでも尚、彼は死んでいなかった。生首に絶大な魔力が集まっている、最後に一華咲かせるつもりのようね。でもさせない!


 最後の最後に彼の頭を斬ってようやく一件落着となった。

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