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44話 ワルカリア討伐戦-7-

 後退を命じられた私の所属部隊は本陣まで後退した。作りかけの陣地は所々破壊して次侵入する際に守りにくくしてから撤収となった。


 そして大手柄を挙げた私と捕虜のノシュヤ、そして部隊の幹部たちは本陣の指揮所で行われる軍議に呼び出されていた。

 そこにはフリードを筆頭とするワルカリア討伐軍の幹部たちが非常に険しい顔をして待機していた。これは激怒しているわね……。


「どういうことだ?儂は教会に向かって進軍するよう命じていたはずだ」


 噂では聞いていたけど本当にあのお馬鹿さんの命令違反だったんだ。

 因みにこの命令違反が原因で作戦自体に支障が出ているらしい。すぐにでも指揮官を取っ換えて出撃と行きたいところだけど、この状態ではそうはいかないわね。


「はっ!我々は教会に向けての進軍を進めておりました。指揮官であるルアドフ殿の指示により教会に向かう為の市街入口に橋頭堡を設けておりました」

「馬鹿者!誰が橋頭堡を必要とすると言った!」

「教会の早期解放が主任務なのにそれを放置するとは何事だ!」


 部隊の幹部の1人(指揮所にいた1人)の回答に対し、フリードの後ろで控えていた軍幹部らが罵声を浴びせていた。


「なぁ……これ何なんだ?」


 あまりの酷さに元敵重要人物で捕虜になっているノシュヤが私に話しかけてきた。

 気持ちはわかる。正直なところ、ここまで酷い指揮をしていたとは思ってもいなかったけどね。


「醜態も良いところね……まさか命令違反までしていたとは思わなかったわ……」

「マジかよ……」

「ほう、お主が部隊の作戦指針を知らぬという時点で命令違反だな」


 私とノシュヤは勢いよく振り向いた。いつの間にか私たちの後ろにフリードが来ていた。


 と言うか何故私が知ってるはずだと……


「ルアドフにはお前の補佐を受けるように指示を出しておった。奴は戦場での経験が不足していたからな。それをお主で補ってもらい、そこから学ばせようと考えていたんだが……。まさか命令違反を起こし戦死しようとは思わなかった」


 あー……なるほど……?

 やっぱりと言うか、完全に私の能力を前提にしていたわね。と言うか、武力だけじゃなくて指揮の面でも私の力を前提にしてたとは思わなかったなぁ……。


「あ、いや、それ一介の冒険者の仕事ではないわよ……」

「うむ、分かっとるぞ。その上で問題ないと判断したからそういう指示を出したのだ」

「なんか色々とヒデェことになってんな……」

「こちらとて色々とあるのでな」


 まぁ色々あるのは理解るけどさぁ……流石に酷くない?私としては出奔した王女であることがバレるとマズイんだけど?

 事情を知ってるフリードがなんでそんな役を任せるつもりでいたのか、本当に疑問しかない。仮にルアドフが指示に従ったところで私の指揮手法とかを言い触らせばバレる可能性は高い。

 まったく、何を考えていることやら……。


 まぁ周りから探ってくか……。


「そもそも無能な部隊長だったルアドフは一体何者なのかしら?」

「リンスター男爵家の次期当主だった男だな。リンスター家は元々は伯爵家だったが何代か前の当主がかなりの悪人で罪状多数の為に、当時の国王の手によって格下げとされた家だ。ルアドフは返咲きを目指して騎士団にいたと聞いている」


 あぁ、典型的なプライドの高い没落貴族ね。まぁ努力するだけマシな部類ではあるけど……。それにしてもリンスター男爵家……その名すら知らなかったわ……。


 実際、王国貴族は実態として800家以上登録されている。その末端ともなれば平民とほぼ変わらなかったりする。なのでコレを全部覚えるのは正直難しいし、お父様ですら全部は覚えてないと思う。当然私も全ての貴族家を知っているわけではない。

 どうしても繋がりが弱かったり、興味が持てなかったり、重要ではなかったりする家だと知識として漏れてしまうのは仕方がない。


「騎士として見るなら正直能力は低い、が、兵站管理能力だけは突出して出来る男だ。しかしそれでは御家再興は難しい、だから強烈な武功を挙げるチャンスを与えた。それにあのプライドの高さだ、冒険者に補佐されてやったことも全て自分にすることは見えておった。その程度なら目を瞑ってやるつもりでおったわけだ」


 なるほど、確かにそれなり筋は通る。

 冒険者は自由を好むため、軍に入りたがらない傾向がある。だから指揮関係の手柄を横取されても問題にはなりにくく、現物や戦闘面での評価で色付けてやれば良いだろうと言う発想は無くはない。特に私の場合は存在を隠す必要があったので使いやすかったのだろう。


 正直な話、冒険者から貴族に転身したフリードは冒険者としては真面目で変わり者なのだ。どちらの世界も知ってるからこその差配なのは理解できた。事前に説明なかったのはいただけないけどね。


「俺からも聞きたいことがある」

「なんだ?」

「だったら何故嬢ちゃんにそのことを知らせなかったんだ?作戦に支障をきたすだろ」


 ノシュヤの質問と意見は文句の付けようのないド正論だった。

 彼は紛うことなき武人、だから当然この件は気になるのだろう。でも捕虜の分際でやることではない、肝が座ってる。


「この無礼者!」

「捨てられたとは言え敵方のお前が何を!」

「待て、それくらいは許してやれ。坊主はもう戻ることはできない、それにこれくらい知られたところで然程影響はない。ジャンヌ殿は最優先警戒対象だろうからな。…………簡単言うならば儂は奴を試したのだよ。愚か者かを調べる為にな」


 如何にもフリードがやりそうな試練だった。試す手立てとしては下の下だと思うけどね。


「つまりあのお馬鹿さんは生きて帰ってきても失格と……」

「うむ、その通りだな。他に疑問は無いか?」

「無いわ」

「ねぇな」

「ならば話を進める。お前たちはもう要らん、去れ」


 フリードは話を戻すついでに元の部隊の幹部たちを下がらせた。あれは降格間違いないしね。


「さてノシュヤ殿、この街におけるワルカリアの布陣を教えてもらいたい」

「良いぜ、教えてやるよ」


 彼から述べられた話は衝撃的なものだった。

 なんとワルカリアの全戦力の20%近くがこの街に集まっていたらしい。

 最初の攻略目標で躓かせる作戦だったそうで、ほとんどの前線でワルカリア側が苦戦してるのは想定外だろうと結論付けられた。


 敵の拠点、勢力、街の地理、これだけ揃ってしまえば軍で何とかなりそうな感じだった。

 私でさえそう感じるのだ。ここにいるメンバーたちにとっては頭の中でどう動くべきか既に組み上がっているはず、確信した。彼らのその顔に出ていた感情がそれを証明していた。


 そして私のカンは当たった。彼らの手で一気に作戦が組み上がったのだ。この街はそんなに時間掛けずとも落ちるだろう。この手際の良さ、流石は本職ね。


「情報提供感謝する。では軍議は解散とする。作戦開始を待ってもらいたい」


 司会の一言を以て軍議は終わった。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

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