41話 ワルカリア討伐戦-4-
「どうやらそちら側の指揮官が討取られたらしいじゃないか。まぁ我々の目の前に拠点を構築するなど舐めた行為にも他ならないからな。胸がすく気分だ」
あの陣地構築、余程癪に障ったらしい。戦術的に効果が無いだけなら失敗で済むけどこれは本当に碌な結果になってないわね……。
まぁ答える必要は無いでしょう、私は黙って一気に距離を縮めて斬りつけた。
見てわかる様な攻撃を防げないほどこのノシュヤと言う男は弱い男ではない。あっさり受け止められ、鍔迫り合いに発展した。
両者の力はほぼ拮抗した。身体強化の出力の差が無ければ確実に私は負けている。彼は案外魔法が苦手なのかもしれない。堂々一騎打ちを所望して剣術勝負に出たのも私に対する勝ち筋として見出していたのかもしれない。パステルでの大魔法を聞いて魔法では勝てないと判断した可能性は十分に考えられる。
「やはり強いな……」
彼は私の刀を受け流し鍔迫り合いを解いた。
その顔は満足そうな顔だった。
「心沸き立つ戦いは久しぶりだ、感謝する」
まさか礼を言われるとね。隙となる会話は協力避けたいところだけど、流石に返さねば見苦しいわね……。
「そう言う貴方は本気を出してないわね。深淵の力を出さないのは何故かしら?」
私の疑問を聞いた途端に嫌そうな顔をして返してきた。そしてそこからは何処か忌々しげに思っている様子が伺えた。
「ブーアクルバ様の加護の力を最大限引き出す法術のことだな?確かに俺もその使い手だ。だが俺はアレを好まん、膨大な力に頼るだけの行為など戦士の道ではない、邪道だ。命を削ってまでブーアクルバ様の加護に頼り切るような邪道を採るなどブーアクルバ様に申し訳が立たん」
意外な信念の持ち主だった。信仰の対象がおかしな存在でなければと心の底から思える存在、純粋に戦士としてなら尊敬に値する大物ね。正直ワルカリアにもこんな良心を残したのがまだ残っていたことに驚きだわ。
でも彼は私にとっての、使命の敵だ。
「意外と言えば意外だけど、貴方らしい生き方だと思うわ。貴方がワルカリアではなく真っ当な冒険者や騎士であったならとは思えずにはいられない」
「育ちが違えばそちらの道に進んだかもしれん、だが俺はあくまでもこの道を選んだのだ。後悔はない。まぁ邪道に走る愚かな同志は好まんが」
普通のワルカリアのメンバーならこんな会話は成り立たない、それが彼の特殊性を示している。
「さて、そろそろお喋りはおわ…………っ!」
いきなり横から投げナイフが飛んできた。間一髪で避けれたものの、当たれば命は危うかったかもしれない。
「何のマネだ?マスオン?」
彼は私にナイフを投げつけてきた男に非難の目を向けた。仲間割れの瞬間かな?
「彼女と戦っていたのは俺だぞ。何の権限があってお前は介入した!」
「逆に訊いてやるよ、何でそんな小娘ごときに時間かけてんだ?さっさと覚醒の法術を使って蹴散らせば良いものをチンタラやってるから俺様がソイツを殺してあげようとしたんだぞ?」
「ゴミがよく吠えるな。加護の力に頼るばかりのゴミ風情が調子に乗るな。だからお前は望みの幹部になれねぇんだよ!」
「ケッケッケッ、そんなもん関係ねぇ!敵を殺して殺して殺しまくれば良いんだよ!」
横槍入れてきたマスオンとか言う男、文字通り人として終わってるわね。
それに気味が悪い、コイツからは不穏な気配がする。これまで感じたことの無いような禍々しさや気味の悪さが……。
「それに俺様はブーアクルバ様の至恵を得ることができた。お前は至らなかったのにな。知ってるか?至恵を得た者は反逆者を罰する権限があるんだよ」
「あぁ、お前は上へのアピールばかりだったものな。それで上がって満足かい?」
「格下のテメェが舐めた口を叩いたな?そんな奴からは力は剥奪だ」
剥奪と言った瞬間、ノシュヤの体から黒い靄が現れ消えていく。そしてノシュヤの顔が歪んだ、相当苦しいのだろう。
「グッ…………」
「本当は剥奪だけは認められないこともあるんだがな、どうやら認められたようだ。お前はもう敵だ」
なるほど、上位権限か何かで加護の力を剥奪したらしい。人間性も終わってるコイツは始末しないとヤバいわね……。
私は彼等が仲違いして私から目を逸らした隙を見て隠蔽魔法を使い身を隠した。そしてマスオンとかいう名の男に忍び寄り、背後から心臓を突き刺した。
「ガハッ……その程度で殺せると……」
うん、死なないよね。知らないけど……。
なので身体強化の出力を最大限にして風魔法で気流を作りコイツを頭上まで持ち上げた。そしてそのまま頭を地面に叩きつけ心臓から頭まで割いてやった。
流石にここまでやれば死ぬらしい、完全に沈黙したわね。
さて残ったノシュヤはどうするか……まぁ戦闘再開が無難かな。
「さて、続きと行きましょうか」
「お前とは続きをしたいところだがな……。今の俺にはお前と戦う理由は剣士としての趣味以外には無い、であるならば今戦うべきでは無い。ここで終わりにしないか?」
「どういうことかしら?」
確かに苦しんでるのを斬る趣味は私にはない、でも彼はワルカリアの一員だ。つまり私と彼は互いに斬るべき相手と言える。
「見ての通りさ、俺は加護の力を失った。もうブーアクルバ様は信仰せんよ。信ずる仲間を裏切るような存在を信仰することはできん」
ド正論はド正論ね、否定はできない。勝手に意味不明な裏切り者扱いだけだったのに本当に裏切るつもりなのかしら?
「力を失ったということは文字通り裏切り者の烙印を押されたのさ、組織に戻っても処刑されるのがオチだ。だったら裏切った存在と戦う方が余っ程有意義だと思わねぇか?」
「理解はしたわ、こちらに寝返るのは自由だけど最後は拘束されて投獄されるのがオチよ?」
「構わねぇさ、ワルカリアは宗教組織だが世間ではマフィアの扱いだからな。そこにいた以上は文句は言えまい」
「そこまで覚悟を決めたのなら私からは言うことはない。投降なら受け入れるわ」
「あぁ、投降する。ついでに組織の道案内もするさ」
彼は私の投降勧告を受け入れた。




