36話 動き出した王国軍
私がこの街、パステル市に来て1ヶ月が経った。
街に到着して初っ端からマフィアと戦い、その後は護衛依頼、そしてその後は毎日のように迷宮に潜り続けた。
やはり迷宮は良い、それなりに深い階層まで潜ることができれば一攫千金も余裕で達成できる。つまり私の様な実力者にとってはこれ以上ない金策なのだ。
まぁ純粋に深いところを目指して潜ったこともあったわね。最高で34階層まで潜ってマジックバッグをパンパンにして帰ってきたことで騒ぎを引き起こしてしまったので2度とやらないけどね。
因みに片っ端から戦利品を回収していなければもう少し深くまで行けたわね。
稼いだ金は貯めておきつつ、必要な物は買っていた。王宮暮らしをしてた頃に購入したマジックバッグは便利で沢山入るけど、マジックバッグが遂にパンパンになったので追加のマジックバッグを購入した。容量は少なくて高価だけど仕方ないわね。
そんな感じで充実した日々を送っていたけど遂にソレは終わった。
ある日、ギルドに行くと王国軍の軍人が来ていた。ギルド内は何だ何だと騒がしかった。王国軍の用件は予想はつくけど……。
そして一際目立つ指揮官が演説を始めた。
「緊急依頼である!」
その一言にギルド内部がざわつく。
「緊急?」
「お偉いさん方が何かおっ始める気か?」
「知らん知らん!飲むぞ」
冒険者たちの反応はいつものギルドのソレだった。
それを無視して指揮官は話を続けた。
「王国はワルカリアの壊滅を目的とした軍事作戦を開始することに決定した!諸君らには是非とも王国軍によるワルカリア討伐作戦への参加依頼を受けてもらいたい」
もはや指揮官の演説を無視する者はいない。
「募集期限は3日後だ、諸君らには奮って参加してほしい」
ワルカリアをよく思ってる者などいない、だから指揮官の演説は冒険者たちに非常に大きなインパクトを与えていた。まぁ参加する人が増えそうで何よりだわ。
「この前話してたやつか?」
そう話しかけてきたのは『血盟の炎』のリーダー、ガルドンだった。そう言えば彼は私が34階層まで行ったことを知って唖然とした顔をしてたわね。
「ようやく動き出したわね。それなりの兵数動かすからどうしても動きは鈍くなるわ。でも妥当なタイミングだと思うわ。常備軍と騎士団の準備を整える期間としては順当よ」
私は"元王太子代理"だから軍部隊派遣の業務は普通に経験済み、だから驚くことはなかった。
「お前、軍関係も詳しいのか」
「過去の傾向よ。私は王都出身だし、噂から推測くらいはできるわね。」
「それでも異常だと思うぞ?」
誤魔化したつもりだけど怪しまれてるわね……。
でも気持ちはわかる。文武両道で幼くして圧倒的、これ、どう見ても理由のわからない化物でしか無いのは否定しない。
「取り敢えず俺たちは参加する予定だ。メンバー全員が同意してくれている」
「流石ね、私はもう少し様子を見るわ。一応強制じゃないからね」
「まったくお前は……参加しないのも何かあるんだろ?」
彼は私の態度を見て苦笑いで返してきた。
事実、貴族と絡むのは極力避けたいと思ってるからね。クリエルマ伯爵は私のことを知ってるから彼がでてくるなら絶対に避けたい、いや避けなければならない、王宮に連れ戻されそうだしね。見つかったらいけないからね。
「うん、まぁね」
ギルド内部を見渡すと冒険者たちが続々とカウンターに向かっていった。
私がこの街にいたワルカリアを叩き潰したことでもはや誰も恐れてはいない。これなら士気が高く、本気で立ち向い、ワルカリアを徹底的に叩いてくれることだろう。
「ガルドンじゃないか!『血盟の炎』は参加しないのか?」
「俺たちは受付カウンターが落ち着いてから行くさ。無駄に並ばされたくないからな」
「そう言うもんか」
「そう言うもんだ」
この街一番のパーティーの動向は当然注目されるわね。この発言は必ずや広まる、これでもう少し参加者は増えるわね。私はここはあまり目立たないように離れよう。目立って強制参加させられてしまうのは御免被る。
「じゃあ私はここで失礼するわ」
「お、おぅ……」
この場にいたらそのまま強制されかねない。私の名前は想定以上に広がりすぎているから速攻逃げた。そうすれば捕まらないはず……。
しかし扉を開こうとした瞬間に知り合いに見つかってしまった。私を見つけたのは『パステルの獣』の皆さんだった。
「おう、ジャンヌちゃんじゃないか。どうだい?一杯飲んでかねぇか?奢るぞ」
私はまだ子供なんですけど……、と言うかとっととここから離れたいんですけど……、酔っ払いのグラットには通用するかは怪しいけど……。
「遠慮しておくわ。私は用事があるのでね」
「そ、そうか……」
「親分、しっかりしてくださいよ」
「度々済まないな。親分はこちらで宥めておきますので……」
運良く納得してくれたわね。それにしても暴走するリーダーを抑えるの大変そう……。彼等が時間稼いでくれる間に逃げてしまおう。
因みに私が去った後、私がギルドにいたことが知れ渡って私の動向が話題になったらしい。
そしてギルドを抜け出した私は紅蓮堂に向かった。鍛冶屋ソウシュウから荷物が届いたと連絡があったからね。
店に着くとすぐに店主のダッハに会えた。
「ようやく届いたぞ。何でもあそこまで曲がると修繕は不可能らしく新品を送ってくれたぞ。大神官からお金が払われたらしく追加の刀も入ってたな」
「え?本当ですか?」
「何でも王宮から情報料が支払われたらしい。お前、いつの間に教会と繋がりを得たんだ?」
「それは内緒よ」
なんか凄いことになってるわね……。いただけるものは有難くいただきましょう。
「まぁ冒険者の事情を探るのは余程じゃねぇ限りマナー違反だしな、これくらいにしておいてやるよ。それとお前さんが使っていた刀だが、俺たちの思ってる以上に注目集めててな。オーダーが何件か入ってきてる。……作れねぇもんは作れねぇから断ってるがな……」
そう言うダッハは悔しそうだった。実際悔しいはずだ。鍛冶師として顧客の要望を満たせないことが分かってるのだから。
「だからぁよぉ、俺の弟子を1人、ヤツスナのところに修行に行かせたよ。アイツも悔しがってたし、何より好奇心旺盛だったからな」
弟子が修行に行ったのか。そのうち、ここでも刀を手に入れることができそうね。
「期待してるわ」
「おう、期待してくれ、必ずや刀を扱える鍛冶屋になってやる」
進展があって何よりだった。私がやれることは敵を潰すことだけ、やることをひたすらやり続けよう。これからも。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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