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33話 戦いの予兆

 依頼完遂した翌日、私は教会を訪れていた。

 そろそろ大神官ミハイルから手紙がきていてもおかしくないからね。


「ジャンヌ様ですね。神官長がお待ちです。どうぞこちらに」


 受付の神官によって私は神官長の元に案内された。と言うことは手紙は返ってきたのだろう。


 案内された先では神官長が待っていた。


「ジャンヌ殿、大神官様から手紙が届いております。こちらです」


 そこにあったのは一通の上質な手紙、封蝋には教会の紋章が刻まれている。


「えぇ、助かります。ありがたく受け取らせていただきます」

「それと、王都の方ではワルカリアの本格的な討伐が決定したようです。ジャンヌ殿のところにも討伐部隊への参加の話は来るかと思います」

「多分来るわね……」


 どうやら面倒なことになっているらしい。まぁ必要といえば必要なのでおかしい点は無い。本来なら私が出奔する前に気づく必要があった案件だしね。

 余計なところで王国政府や貴族たちに目をつけられないように気をつけるしかない。


「王都から既に先遣隊が来ており、このパステルの街に滞在中です。もしかしたら事情聴取で呼ばれるかもしれません」

「うわぁ……それは受けたくないわぁ……」


 一番聞きたく無い情報が出てきた。私を知ってる人物だと普通に問題になる。やってられない。

 とは言えこれだけの情報提供をしてもらった以上、私からも情報を渡さないとフェアじゃない。ということであの事件を伝えることにした。


「そう言えば依頼で訪れた鉱山街だけど、酷いことになってたわ。万を超すマウントゴブリンの群と言うか軍勢に包囲されると言う事態にね……」

「よくぞご無事で……しかしよくそんな数集まりましたな……。街は失われてはいませんか?」

「包囲は解けてるわ。敵の6割以上を潰してその中核メンバーも滅ぼしたわ」

「分かりました。その情報も王都に送っておきましょう」


 それにしてもこの街の神官が信頼できる人で良かった。『ワルカリア』や『邪なる者』に内通してたら話がややこしかった。頼りになる味方は多いに限るわね。


 この後も少し雑談をして教会から退出した。


 今日は休日、流石に昨日の疲れがまだ残ってるしね。それにミハイルからの手紙も読まなくてはならない。それに力尽きた私を救護してくれたパーティーである『パスカルの獣』のイチオシの鍛冶屋も行くつもりだ。


 本来であれば鍛冶屋を先に行く方が効率が良いんだけどミハイルの手紙は流石に持ち歩きたくはない。早々に片付けてしまいたい代物なので先に一度宿に戻ることにした。


 宿でミハイルからの手紙を開封して読んだところ、想定外の情報が書かれていた。


 なんとワルカリア討伐軍の総大将はフリードにされてしまったらしい。理由は指揮のできる貴族で手が空いてる貴族の筆頭だったかららしい。何と言うか、人手不足だね……。


 ある意味最悪の情報であり、ある意味運が良かったとも言えなくはない。彼は私の事情を知っている。巧いこと機転を利かせてくれる可能性もあるからね。とは言え、彼の周りに私を知っている者がいないとは限らない。これに関しては正直不安が残るわね……。


 続けて読み進めたところ、とびっきりの重大情報があった。

 フディーサランが崇めた『ブーアクルバ』とやらは予想通りグランリア大厄災を引き起こした存在だったらしい。『邪なる者』の名前である可能性は非常に高い、これは進展ね。それと奴を倒した際、妙な結晶が飛び散ったと記載された文献が見つかったらしい。もしかしたら何かあるのかもしれない、気には留めておこう。


 他は他愛もない世間話の類が書かれていた。


 内容を確認した手紙は魔法で焼いて処分した。万が一情報が流出すれば危険だからね。そうして私は紅蓮堂という鍛冶屋に向かうことにした。


 紅蓮堂は店舗全体が真っ赤に塗装されており非常に目立っていた。これは分かりやすくて良いわね。


 中に入ると紅蓮堂の質の良さがよく伝わってきた。とにかく質が良い、量産品も手抜きせず強度が保たれている。一品物の剣も非常に洗練されたデザインで丁寧に仕上げられたのがよく分かる出来だった。量産品ですら少しお金が貯まったら予備の剣として何本か買っておきたいわね。


 しかし今日はギルドを通じて預けていた刀が最大の目的だ。まずは店員さんに話さないとね。

 あ、ちょうどいい所に歳の近い店員の女の子がいるわね。あれなら話しかけやすそうね。


「すみません!ちょっと良いですか?」

「はーい、どうしました?」

「ギルドを通じて破損した武器を預けてたはずなんですけども」

「あぁ、アレね。パパを呼んでくるね」


 どうやら店の重役の娘さんだったらしい。店員やってたのも納得ね。


「おう!店長のダッハだ!さっそくだがライセンスカードを見せてもらっても良いか?」


 話が早くて助かるわ。


「はい、これで大丈夫でしょ?」

「問題ねぇな。こっちに来い」


 そして私は鍛冶屋の奥、応接室へと案内された。そして店長の顔が曇った。これは何かあるな?


「済まねぇな、手間かけちまって」

「えぇ、大丈夫ですよ」

「本題に入ろうか、運び込まれた刀の方だが修復は諦めた。申し訳ねぇがうちでアレの修復はできん。鞘のみの作り直しも刀身自体が曲がっちまって不可能だ」

「思ったより深刻だったわけですね……」


 可能性はあるとは思ってたけどそこまでボロボロだったとは……。顔が曇ったのは直せないことが悔しいかったのだろう。


「そう言うことだ。だからアレはパルメルンの鍛冶屋シュウソウに送った。これではこの街を救ってくれたお前さんには申し訳が立たん。コレを受け取ってほしい」


 そして私の目の前に3振りの剣が置かれた。

 どれも実用的で良い剣だった。レンジ、重量、耐久性、どれも十分な設計がされてると見て良いわね。コレは思わぬラッキーだわ。


「良い剣ね。しかし数打ちモノではなく一品物を3振り、本当に良いんですか?」


 3振りともかなり高価な品のはず、こんなにホイホイくれて良い訳がない。鍛冶屋の収益にも関わってくるはずだ。


「うちにもプライドがある。せめての詫びだ」


 成程、思わぬ形で鍛冶屋の面子を潰してしまったというわけだったのか……。これはこちらも複雑ね……。


「ではありがたくいただきます」


 受け取ってマジックバッグに収納したのを見て店長のダッハは満足そうにしていた。刀こそ扱えなかったものの彼は良い鍛冶師だ、これからも贔屓にさせてもらおう。


「シュウソウから刀が戻ってきたら連絡をしたい。普段はどこで泊まってるんだ?」

「迷宮の拠り所よ」

「分かった、戻ってきたら連絡させてもらう」


 これで今日やるべきことは終わった。

 私は礼を失さないようにして紅蓮堂をでた。


 明日からはまた迷宮に潜ろう。新しい剣を試してみたいし、迷宮がこの街に来た目的なのだから。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

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