31話 予想されていた襲撃
帰り道はとても順調だった。
行きがとにかく酷すぎた。マフィア傘下の山賊の斥候が見つかるわ、魔物の大軍が現れるわ、散々だったわ。
このまま何も無いと良いのだけど、ぶっちゃけ期待は出来ないわね……。
などと考えつつ私は馬車に揺られていた。無論探知や警戒はしてるわよ。
しかし迷宮都市パステルに近づいたところで淡い希望は打ち砕かれ嫌な想定が当たってしまった。
前の馬車から連絡が来た。
「ワルカリアの奴らが街道を塞いでるそうだ。済まないが指示を持つようにとのことだ。それと後方の馬車にも連絡を頼む」
先日の山賊の一件かな?仲間がやられたことに気づいて動き出した感じじゃないかしら?まぁどうであれ奴等が引く訳もないのでブチのめす以外に対処法は存在しないし、これから戦いになるのは間違いないだろうね。
平和が一番だけどその平和は崩れ去った。予想が正しければ狙いは積荷と私の身柄、積荷は予定通りだけど私の身柄は報復だろうね。街のワルカリアを壊滅させる原因となり、傘下の山賊の斥候を捕らえたと言う実績は彼等にとって屈辱だったはずだから確実に殺したいのだろう。
でも死んでやるつもりは一切ないけどね。
「え?ジャンヌちゃんが斥候潰したから来ないんじゃなかったの?」
そう言えばミアは戦闘経験が一切なかったんだった。その程度でなんとかなったら苦労なんてしないわ。
「斥候ごときを潰したところで本体は無事だ、何とでもなるだろうな」
ローラが答えを言ってくれた。
実際にその通りだし、大きな組織が背後にいるので斥候が倒されたことから敵がいると判断して動いていた可能性は低くない。他の拠点にいるワルカリアが出張ってきた可能性も考えられる。
だからここにワルカリアが出てきたことに関して驚くようなことでは無いんだけどね。まぁ経験の無い人からしたら無理だろうけど。
「へぇ……このキャラバン、囲まれてるわね」
森で隠れているようだけど探知魔法で探ればわかる。どうやら本気の襲撃らしい。計画の遅延はあったかもしれないけど防ぐことはできなかったわね。まぁ私からしたら想定通りだけどね。
「それ、本当……?」
「本当よ、レディア、すぐに他の馬車にも連絡して!」
「わ、分かったわ」
これは紛うことなき緊急事態、すぐにでも対処する必要がある。それくらいは理解できたようね。さぁ私も戦闘準備をするとしましょう。流石に一人で突撃したら今回は怒られるからね。
さぁ、どうやって敵を潰しましょうかね?
私が大太刀を担いで馬車から降りると皆も戦闘準備を始めた。他の馬車でも順次戦闘準備が進められている。
敵側も先制攻撃に動きだしたし、間もなく始まるわね。まぁ先制はさせてあげる、でも容赦はしない。反撃で確実に敵を潰してやる。
「来るわよ。躊躇うことはないわ、ただ敵を潰すわよ」
「せ、戦闘狂……」
「見た目は可愛いのに……」
戦闘狂とは失礼な!
私だって戦いはない方が良いと思ってるんだけど!?
まぁあれだけ率先して派手に暴れてたら戦闘狂の扱い受けなくはないのかもしれないけどさ……。
遂に敵が目視できる距離まで近づいてきた。目視できる距離にいるのは3人、近くには10人近くいるのは分かっている。
戦いの時間だ。
「よっしゃあ!女共だ!捕らえて楽しむぞー!」
いきなり下衆染みた言葉が飛んできたわね。ここまで清々しいと笑えてくる。
「捕らえれるもんならやってみな!下衆共!」
敢えて私は挑発してやった。
挑発された3人が走ってくる。それに対して私も得物を構えて突撃した。
足の速さで突出してしまっていた真ん中の奴に目掛けて長大な大太刀を斜めから彼の左肩目掛けて振り抜いた。そいつは得物の長さで私を狙うことはできない上に回避も難しいので受けるという選択肢を採ったようだった。
ガキンッ!
甲高い音を響かせ受けたもののその破壊力を受けきることはできず薙飛ばされた。得物を折られず即死しなかっただけでも大したものだ。アレは極めて『重たい一撃』、受けるのは容易ではなく、下手な奴だと今の一撃だけで即死だからね。これが長大な武器を使うメリットの1つ、でも反面重すぎて扱いづらいのは確かだけど……。
今の一撃、防いだとは逝っても防ぎきれなかったようで足に斬撃の跡が残っていた。これでは戦闘には支障をきたすだろう。コイツはほぼ無力化できた。
僅か1合とは言え、刃を交えた為、後ろが追いついてきた。しかし味方に激突するのを恐れた左側にいた1人が減速した。なので私は右側から来る奴のことを最優先に考えることができた。
奴は剣を私を斬ろうと振ってくる。それを私は大太刀を戻して受け止めた。受け止められたことに気がついた彼は鍔迫ではなく引いて次の斬撃をしかけてきた。
キンッ!ガチャッ!カーン!
甲高い音を響かせ奴の剣と私の大太刀がぶつかり合う。
正直長大で重たい大太刀を使ってる私の方がこの手の斬合いは不利ね……。はっきり言えば奴が使ってるような普通の刃渡りの剣の方がいい感じに小回りが利いて有利なんだよね。何とか技量と身体強化で拮抗させてるけど一歩間違えれば防ぎきれなくなるのは確実、魔力を温存していたけど仕方ない、魔法で仕留めるか……。
即興で魔力を練りあげ、術式を組み立てた。組み立てたのは火炎弾、威力が低く余波も少ない魔法だ。この至近距離だと余波は気をつけないと巻き込まれて自分もやられてしまうからね。
放たれた火炎弾は顔面に直撃し即死させることができた。
減速した奴はレンが撃ち抜いていた。額に矢が深々と突き刺さっている。あれは確実に死んてるわね。流石に元冒険者の弓使いだわ。彼女のおかげで助かったわね。流石に2対1はやれなくはないけどやりたくはないからね。
足を切られて転がっていたやつはマトモに立てなくなっていたので即首を刎ねた。どうせ碌な情報持ってないだろうし、斬りつけてきたのだから躊躇ってはいけない。
馬車を挟んだ向こう側ではローラが大声を上げ大剣の振り回し蹴散らしていた。流石Aランク冒険者、援護は要らなさそうね。それにしても……何と言うか、歴戦の純粋なパワーファイターしてるわね……。
探知魔法で探ると他の馬車の周囲でも戦闘になってるのがわかる、冒険者がいないところは押され気味のところもある。これは時間をかけてられない。全体像が見えてきたのでそろそろ魔法も織り交ぜて一気に蹴散らす方向でいこう。
近くにいた10人は5人ずつに別れ隣の馬車を襲撃しているらしい。つまり3人が圧倒されたのは向こうにとっては想定外なはず、だからここで一気に攻める。
探知魔法で様子を窺う限り、ヤーノとツインラインは前の馬車の応援に向かったらしい。つまり私のすべきことは後ろの馬車の救援、やることが判りやすくて良いわね。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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次回は8月19日(月)です。




