26話 トラブル続きの道中
流石の山賊たちも町に夜襲を仕掛けてくることはなかった。
私たちが宿泊したこの町はパステル市からの鉱山や他の街への中継地点として目を付けられ宿場町になったらしい。
宿場町として栄えたこともあり、小さな町の規模に合わない空堀やら、城壁までいかずとも火矢対策された壁やらかなりの防御力があった。
これだけ整った場所を攻撃するとなるとそこそこ準備がいる。山賊レベルでは厳しいだろうし、襲撃されなかった理由もそれだと考えた。
朝早くから目覚め共に急ぎ出発準備を進めた。とは言っても1泊分だけしか降ろしてないのですぐに準備は整った。
「今日の夕方には目的地に到着できるだろう。冒険者諸君、今日も頼むぞ!」
商会長ローインの挨拶と共にキャラバンは宿場町を出発した。
今日は何も無いと良いけど…多分そうはいかないな。こんな物騒な世の中だから何が起きても動揺してはいけない。私たちはイレギュラーに粛々と対処するだけね。それ以上のことはあまり考えないようにしよう。
「昨日遭遇した山賊の仲間たちは襲ってこないかしら?」
「来るとすれば帰り道よ。ワルカリアの補給もあるだろうから組織的に破れかぶれで突っ込んでくることは無いと思うわ」
ここで来たらワルカリアの悪評バラ撒けるし、その効果として士気低下や離脱による戦力低下を狙えるわね。
どうしても脅威と言うと情勢が情勢だけにワルカリアに目が行きがちだけど、ワルカリア以外の潜在的脅威も無視できない。魔物、盗賊、これらを無視してしまえば痛い目を見ることになる。そんなの嫌だしね。
結局、昼休憩までは大した脅威に直面することはなかった。
一応ハプニングは起きた。散発的な魔物の襲撃はあったし、ワルカリアと無関係な盗賊5人組が来たこともあったわね。特に盗賊はワルカリア関係者を疑われてたわね。無関係だったけど…。
でも規模も大したことないから直ぐに討伐された。はっきり言えばその程度はこのキャラバンの戦力の前では無いに等しいからね。
「大したのが来なくて良かったわね」
「油断はするな。気を抜けば死ぬぞ」
メルの軽口に対してローラの容赦無い指導が入った。本当に容赦ねぇ…。
でもそれだけ張り詰めていられるからこそAランクにまで登れたんだろうね。
昼食は倒した獣型の魔物を解体して食肉とし、パンと一緒に頬張った。ホント、キャラバンでの旅を考えれば贅沢すぎるご馳走よねぇ。解体した魔物も美味しいことで有名な魔物で本当にラッキーだった。
昼食を食べ終わったところでキャラバンは出発した。ここからはイレギュラーがなければノンストップで鉱山まで行く予定だ。
正直ノンストップで行けるとは思っていない。けれど昨日の私の活躍で浮かれてしまっているのも事実、油断してる時って大抵何かあるのでいつも以上に警戒が必要ね。
少し進んだところで案の定問題が起きた。先頭を往く馬車の正面にブラッドウルフの群が現れたようだった。
仕方ないわね、先頭に駆けつけるとしましょう。
「先頭で戦闘が起きてるわ。私は行ってくる!」
「気をつけろよ」
「無茶だけはしないでね」
ローラとレディアから軽く注意を受けつつ、私は馬車を飛び出した。
キャラバンの先頭では『パステルの獣』の3人を含む7人の冒険者が激戦を繰り広げていた。
「クッソ!仲間の死体を利用して強くなってやがるぞ!」
「怪我に気をつけろ!血を啜られれば奴らが強くなるからな!」
どこぞのアホどもとは大違いね。正しく魔物を見分け、的確に対処している。数が多すぎることを除けば優勢なのはこちらのようね。
「せいっ!」
目の前のブラッドウルフを標的にして大太刀を横薙ぎに振るった。綺麗にバラバラになった。
「流石はフディーサランを倒した女傑だな!」
「余所見して軽口叩く暇があったら一匹でも多く叩き斬りなさい!」
「おう、これは手厳しいな。野郎ども!嬢ちゃんに遅れを取るなよ!」
「「うおおおおおおぉぉぉぉ!」」
まったく…グラットさんは…。でも士気は回復してその高さは十分ね、頑張れば押切れそうだわ。
敵が強くなる?そんなもん関係ない、斬って斬って斬って斬りまくる。弱音を吐く隙があるならひたすら敵を斬る。
そうして私たちは敵を減らしていった。
そして私が最後の一匹を叩き斬り両断したところで戦闘は終了した。
「ふぅ…いい汗かいたわ」
でも本当にトラブルの尽きない護衛依頼だわ。治安悪いって言ってもちょっとこれは酷すぎる気がするわ。
こうもトラブルばかりだと魔力消費には気をつけないといけないし、必然的に刀で戦うことが多くなる。鉱山に着いたら刀の手入れもしていかなきゃいけないわね。じゃないと使い物にならなくなる。
私以外の冒険者たちも正直ウンザリしているようだった。こんな頻度でトラブってたらキリないもんね。
「まったく嬢ちゃんは血の気が多いな。ワルカリアの斥候は捕まえてくるわ、わざわざ先頭まで来てブラッドウルフを蹴散らすわ。こんなけ活躍できるんだったらそのうち俺等と同じAランクになってそうだな。現段階で下手すれば俺より強い」
そう評価してきたのはローラの相方だった。彼もAランクであり、先程の戦いでも先頭で戦っていた。その観察眼は流石と言わざるおえないわね。
「褒めてると受け取らせてもらうわ。でもランクを上げるつもりはないの。上げたところでデメリットも多いしね」
「指名依頼の類か、確かに面倒だな。それを嫌ってC留めする奴はそれなりにいるからな。ギルドからはドやされるけどな。ワッハッハ!」
楽しそうに話しているけど、そろそろ終わらせないと出発出来ない。ちょっと無理矢理だけど打ち切りますか。
「じゃあそろそろ私は戻るわね」
「おう!ローラに宜しくな!」
私が戻ったあと、ブラッドウルフの死体は焼いて処理をしたらしい。ブラッドウルフの肉はよく燃えるし、不衛生なので焼いて処理するのが一番だ。
馬車からはいい感じに燃えているブラッドウルフの焚火がよく見えた。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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