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24話 和気藹々

 私の配属された馬車の人員は私含めて8人、商会員3人と冒険者5人だった。


 キャラバンの馬車に乗って最初にやるべきことは1つ、まずは乗ってる仲間たちの間での自己紹介である。


 まず商会員でこの馬車の車長が最初に挨拶をした。


「私は商会員のレディアと申します。この馬車の車長を任されております。4泊5日の間ですが、宜しくお願いします」


 非常に礼儀正しい大人の女性だった。車長を任されたのもわかる気がする。

 どうやら商会員から挨拶をしていくらしい。


「私はレンです。元冒険者です!足に怪我して引退しました。でも経理に強かったのでバズテル商会に雇ってもらえました!私の武器は弓です!宜しくお願いします」

「私はミアと申します。バズテル商会所属の魔法加工技師です。一応戦闘魔法も使えるので多少は戦力になれるかと思います。何卒宜しくお願いします」


 レディアは短剣を使えるらしいけど、然程得意ではないらしいのであまり戦力としては扱えないかもしれないわね。でも残りの商会員たちは戦力に数えて良いかもしれない。

 特にレンは即戦力だと思った。馬車から弓での援護射撃は強力な戦術と言えるし、元冒険者で実戦経験も積んでいる。これは大いに頼りにして良いわね。だけどミアさんについては確かめなければならないことがある。これを知らないと自分たちの戦力を正確に把握できないからね。

 ちょうど商会員の自己紹介が終わったところで私は質問した。


「ミアさんは戦場で使える魔法は何を習得してますか?」

「マトモに使えるのは火炎弾、バーニングトラップ、ファイアアーマーくらいですね。今回の旅の性質を考えればバーニングトラップは使えませんけどね」


 なるほど、生産職らしいわ。モノの加工に熱を使うパターンは多いので炎系ばかりというのも納得ができる。そして炎魔法の習得基本中の基本たる火炎弾、生産系魔法の技術を応用できるバーニングトラップ、身を守るのに有効なファイアアーマー、最低限の備えって感じね。

 だけど生産職なら覚えやすいはずの魔法を習得してないのは気になる所だった。


「生産職なら治癒魔法の適性も低くないと思いますけど」

「使えますけど戦闘用ではありませんので省きました」

「認識が甘いです。戦場で治癒魔法の有無は結果に直結する例が少なくないです。怪我をカバーできれば戦いを優位に進めることができます」

「それは机上の空論でしょ?」


 やはり分かっていない、戦場の経験が無いのでしょうね。

 私がこの歳でここまで言えるのも大概異常だけど、少しでも戦場に出れば分かるはずのことである。しかし彼女は知らない、つまり戦場に立ったことが無いことを意味している。


「机上の空論とは言い切れないわね」


 私を援護してくれたのは私をおちょくって楽しんでいた剣士のお姉さんだった。


「負傷による戦力低下を防げるのは大きいわ。特に集団戦だとその傾向は顕著よ」


 車長のレディアは「戦いは専門外だから」と見解を述べなかったけど他のメンバーたちも同じ見解だった。


「これは戦場を経験しないと分からないわね」

「現場を知らない人の言うことを机上の空論って言うのよ」


 完全にやられてるわね。

 纏めに入った方が良さそうだ。


「まぁそう言う事よ、『現場は職人の領域』じゃないの?貴女も職人ならこの諺くらいは知ってるでしょう?」

「知っているわ」

「現場には必ずその道のプロがいる、だからそのプロの見解は実績に基づく論理的な見解なのよ。これはどの世界でも一緒、貴女が生産職のプロであるように私たちは戦闘のプロなの」

「言ってることは正しいのに幼い貴女が言っても説得力感じないのが辛いわね」


 辛い一言ね……

 でも戦闘経験と言う意味ではこの中では私が一番だと思う。転生前からずっと戦ってきてるからね。でもバラすわけにいかないのが歯がゆい…。

 あのお姉さん、私をどこまで弄くり倒せば気が済むのだ……。


「気を取り直していきましょう。私はヤーノといいます。見ての通り剣士ですので遠距離戦は苦手です。石を投げるくらいしかできませんから」


 これは私向けのパフォーマンスかな?

 私が比較的オールラウンダーに近いのは事実だけどさ。次は私がいきますか。


「私はジャンヌと言います。パステルでワルカリアが壊滅しましたが、アレは私の派手な戦いが引き金なんです。基本は剣士ですけども、戦闘で使える魔法にも自信があります」

「え?ワルカリアを壊滅させた?あの大魔法は貴女が放ったの?」

「そうよ」


 ミアの顔色が失われていくわね。自業自得ね。続いて私を見てクスクス微笑んできた2人組が自己紹介を始めた。


「私はツインラインのメルと申します。双剣の使い手です。こっちは相方のエレンです」

「エレンです。戦闘魔道士をしています」


 この2人は良いコンビネーションが期待できそうね。


 最後の1人は歴戦の猛者を感じさせた。


「私は血盟の炎に所属しているAランク冒険者のローナだ。よろしく頼む。性別の都合で私だけここに配属される形になった。ブラッドローズと言えば私のことはわかるだろう?」

「ブラッドローズ!?」

「え?マジ!?」


 ツインラインの2人がキラキラした目を向けてるわね。それにしてもまさか異名持ちだったとは思わなかった。Aランクと言うのも頷けるわね。彼女は間違いなく強い。

何故か男言葉多めなのが気になるわね…。いや、気にしちゃ駄目か。


「しかし意外だったな。まさかこんな少女が彼奴等を壊滅させたとは思いもしなかった。それに魔道士じゃなくて剣士というのもな。そう言えばお前のことを一部の者達は『厄災の魔女』とか『パステルの女神』等と呼んでるらしいな」

「なんですかその異名は…」

「知らなかったのか、あのド派手極まる大魔法はワルカリア壊滅の象徴となり、その威力から厄災を齎し得るバケモノ扱いされてたぞ」


 知らなかった。なんかとんでもない呼び方されてるわ。勘弁してほしい。

 あまり目立つとBランクに上がってくれと五月蝿くなるから異名とかは正直要らないのよね…。


「ハッハッハッ!気にすることはない。この旅、4泊5日、仲良くやっていこう」


 流石Aランク、頼りになるわね。

 さて、この4泊5日、何もないとは思えないからね。どんな敵が来ても良いように心構えだけはしておこう。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

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