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22話 動き出す英雄

 その夜、王都のヘルヴィルム伯爵邸に2人の来客が来た。いや、招かれた。


「失礼するぞ」

「よくぞお越しになられた。フリード爺、そしてグレン殿」

「ネーコフ殿もお変わりなく」


 そう、招かれたのはドリビア子爵たる儂と孫で養子のグレンだった。

 両家は元々武人の出であることからジャンが表舞台に出るまでは極めて仲が良かった。ジャンの武人軽蔑の思想により関係が冷えたが彼が処刑された今、再び友好関係が構築されていた。


「今回は呼び出す形になってしまった。申し訳ない。しかし急を要する事態故、逸早く情報共有する為に呼ばせてもらった」

「ほう、軍務卿を務めるお主がそこまで言うか、何があったのだ?」

「今朝、緊急の国務卿会合が開かれた。目的はアリシア殿下の出奔に関する件だった。夜が明けた時点で既に王宮どころか王都の外に行ってしまったらしい」


 遂に動き出したか…。儂は声にこそ出さなかったがアリシアの計画の一端を知っていた。何なら裏から手助けをしていたくらいだからな。


「なるほどの、王族の出奔ともなれば一大事、国務卿会合も頷ける。だが儂を呼んだのはそれだけではあるまい」

「その通りだ。フリード爺、あなたはアリシア殿下とも誼を結んでいたと聞いている。何か知っていることはあるか?宰相が妙な事を言っていたのでな」

「宰相?あのマンノルディー公が?」

「あぁ、残歴転生の疑惑についてだ。殿下とヤツスナの模擬戦で殿下の剣術がおかしいことに気がついたらしい。あれはこの国では消えた流派だとか」


 宰相が知っているとは正直思わなかった。トーイス流は冒険者の間では知られていたが貴族社会や騎士階級、軍では広まらなかった剣術だ。宰相は案外武闘派なのかもしれない、少なくとも武術の心得ぐらいはあるだろう。

 まぁアレを知っていたのなら、宰相ならその答えに辿り着くのも必然か…。


「意外だな。まさか宰相トーイス流を知っていらっしゃったとは…」

「トーイス流?その名は耳にしたことがありますが詳細は存じておりません。どの様な剣術なのですか?」

「あれは東の国から流れてきた片刃の曲剣を用いる剣術だな。かなりクセが強いぞ?まぁそんな事情もあってか、この国では民の気質と合わなかったこともあり広がることなく消えていたはずの剣術だな。あまりにもマイナーすぎて貴族社会ではまず耳にすることはないはずだ」

「なるほど、使い手のいないはずの剣術を使う殿下を怪しんでいたのか。納得だな」


 やはりネーコフも根は武人なのだろう。興味があることが窺える。機会があれば殿下と打ち合いたかったのだろう。


「だが今は殿下の捜索が先だ。宰相の分析は気になるところではあるが…。フリード爺、グレン殿、心当たりはあるか?」

「あるわけが無かろう」

「ありません。文通はしておりましたが出奔を仄めかす様なことは書いてありませんでしたので」

「で、あろうな」

「だが儂のところに王宮からの使者は来ておらぬぞ、良いのか?」

「構わない。調査の為とでも友好関係にある貴族家同士の交流とでも何とでも言い訳はできよう。フリード爺、あなたでなければ無理だったが…」


 なるほど、確かに言われてみれば儂とネーコフ殿ならば怪しまれにくいか。同じ武闘派で武人、交流があるのも広く知られている。さらに儂はアリシア殿下とも関係が深く、調査の為に直々に会ったという言い訳も使える。巧いこと動いたものだな。


「ところでグレン殿、アリシア殿下の手紙は残っているのか?」

「いえ、王族が下級貴族の、それも継承権順序を下げられた人物との文通は望ましくないので隠すために返事をしたら焼却処分をしてました」

「それは残念だ」


 ネーコフは残念さを隠しもしなかった。情報は大切であり、事実殿下の手紙には出奔絡みのことも書かれてた。期待するのは当然と言えよう。

 まぁ我が子爵家が隠蔽のために殿下の外聞を理由にして焼却処分していたのは事実だが…。


「ふむ、情報に感謝する。改めて後日になるが、必ず礼をする」

「何、お主の頼みよ。少しくらいなら問題あるまい」


 儂とネーコフは互いに笑い合い会談は終了した。


ーーーーーーーーーー


 王都の邸宅に帰ってからすぐにグレンに指示を出した。


「分かっておろうな」

「1週間後に大聖堂だな」

「それと、殿下の件は一切漏らすなよ」

「爺ちゃん!僕だってそれくらいは心得てますよー!」

「ふん、お前は口が軽いところがあるからな。十二分に気をつけよ」


 儂から見ればまだまだ未熟、世に揉まれて人は成長するもの、孫の成長が楽しみだ。

 だがそうも言ってはおれん、殿下が動かれた以上、儂らも動き出さねばならぬ。

 この世界を守る為に。




 しかし1週間後、ジャンヌと名を変えたアリシアから王都にとんでもないない特報が飛んでくる事をこの時は予測すら出来なかった。

 そして儂が軍務に駆り出されることになろうとは予想することは不可能であった。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

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