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21話 揺れる王宮

本日より連載再開となります。

約3週間、ご迷惑をおかけしました。

 日の出の共に王宮に参上した貴族がいた。

 フラジミア公爵である。それもわざわざ娘を連れて…。

 彼は余の執務室に入るなり一通の手紙を叩きつけてきた。アリシアが書いたマリア宛の手紙だった。


「陛下、アリシア殿下は一体何を考えてるのです?この様な巫山戯た手紙を我が娘宛に用意して…」


 軽く読んだが返す言葉も無い。要約すると故あって自分は王宮から離脱するから幼い弟の補佐を頼む、と言うものだ。


「アリシア殿下との面会を要求します」

「済まない…アリシアは今何処にいるかすら判っておらぬ…。少なくとも王宮の、いや王都の外に出ていってしまったことだけは判っている」

「なっ!?馬鹿な!?」

「その手紙はアリシアの部屋から見つかったものだ。宛先だけ書かれ差出人が記載されていなかった。同じ様な手紙が余に宛てられたものとローランに宛てられたものとで合計3通見つかったそうだ。その手紙の発送は余の判断である」


 フラジミア公爵の表情が固まった。

 手紙の内容からも家出した後の政治体制の構想まで娘は考えていたはずである。マリアに手紙を送ったのも国政を支える人材として娘は着目していたのだろう。自分に代わり王太子となり国を担う存在となるローランを補佐する存在として…。

 彼とてそれには気づいてたはずだ。


「今すぐにでも大規模な捜査をするべきです。王族が何の説明もなく王家の責務を放棄するなど…」

「落ち着かれよ、フラジミア公爵」

「宰相…しかし…」


 宰相はいつの間にか入室し会話に入ってきた。


「フラジミア公爵、これは1年以上前に発覚していたことだが、アリシア殿下は残歴転生をしている」

「宰相、あれは教会の御伽話では無いのか」

「そうだと言われていたな、私もそう考えていた。しかし殿下はこの国からは消えたとされるトーイス流剣術の使い手だった。アレを教えれる者などこの国は居らぬ、故に考えられる事象は残歴転生の他にない。だが私が見破ったことを知っても殿下はこの残歴転生に関して徹底的な隠蔽する意向されている。故に陛下や私ですらその使命の内容を知らぬのだ」

「どういうことですか?殿下は何故隠されたのです」

「それはわからん。だが1つ言えることは恐らく使命を果たすまで殿下が戻ることはないと言うことです。今後の王国の政治体制は彼女抜きで考えなければなりません」


 誠に遺憾ながら宰相の言う通りである。

 この状況下ではフラジミア公爵の助力は必須である。余は頭を下げた。


「済まぬ…アリシアの件はこの後開催される臨時の国務卿会合にて議論される。参考証人としてマリア嬢と共に参加してくれぬか?」

「1つ聞きたい、連れ戻せるのか?」


 フラジミア公爵はアリシアが王太子に、王位に就くことを望んでいた。その理由は圧倒的優秀さにあった。彼としては完全に目論見を外し、挙句の果てに期待していた王女から意味の分からない手紙が娘宛に届けられたのだ。怒りが湧くのも当然だろう。


「無理であろう。あまりにも手際が良過ぎる上にあの緊急脱出通路を利用されてしまった。故にアリシアの進んだ道を追うことはできん。捜索活動こそ行ってはいるが見つかる公算は極めて低いだろう」


 フラジミア公爵は天を仰いだ。

 あの脱出路を使うのは想定を超えていたのであろう。


「不可能か…国務卿会合には出る、致し方無い」

「済まないが国の為に頼むぞ」


ーーーーーーーーーー


 国務卿会合は大いに荒れた。


「外政卿は外交で不在、軍務卿は領内視察中、その状況下で国務卿会合だと!?何が起きたと言うんだ!」


 内務卿は開口一番でこう言い放った。

 財政卿も困惑気味だった。

 しかもこの会合にはオブザーバーとしてフラジミア公爵とその娘であるマリア嬢が出席している。

 誰から見ても今回の会合が普通じゃないのは確かだった。


「不平不満を言うのは後にせよ。今朝、アリシアの失踪が確認された」


 私の言葉に内務卿と財政卿は言葉を失った。だが余はそれを黙殺して続けた。


「近衛騎士団からの報告では緊急脱出通路を使って王宮を抜け出したと推測しているとあった」

「この件に関して殿下の部屋より3通の手紙が見つかった。宛先は陛下、ローラン殿下、マリア嬢の3人である。フラジミア公爵とマリア嬢がこの場にいるのはそうした事情があるからだ」


 宰相の補足に財政卿は反応を示した。


「何故その御三方が選ばれたのですか?」

「私が答えます。私宛の手紙にはアリシア殿下が御自身が抜けた後の王太子府運営の構想に基づいて選ばれたと考えられますわ。陛下はこの国の国王であるので当然であり、ローラン殿下は次の王太子として、そして私にはローラン殿下の補佐をと考えていらしたようです」


 内務卿はマリア嬢の予想を聞いて溜息をついてしまった。彼もアリシアの王太子就任を望んでいた為、完全にしてやられた形なのだ。

 本人にしてみれば、本当に王太子をやる気が無くとも、まさか逃げ出すとは思ってもいなかった、と言ったところだろう。

 王侯貴族の常識を考えれば実家の不名誉になりかねない行動は慎むのが普通だ。不名誉になりかねない行動を平然と行うアリシアはかなりの異端だった。普段の作法等に隙がないだけに今回の件はかなり目立つだろう。王家としてはかなり大きい損失が出るのは確実だろう。


「しかしこの件、どう処理いたしますか?甚大な悪影響が出ることが想定されます。必ず国内の貴族社会は混乱することでしょう。貴族社会から平民社会への波及も考えられます」


 財政卿の意見は尤もである。今回の議題の最大の焦点はそこである。


「まずは殿下の抜けた穴を塞ぐ必要があるでしょう。その非常識なところは目を瞑ってもアリシア殿下の執務能力は極めて高くその穴を塞ぐには相応の人員が必要になります。認めたくはありませんがアリシア殿下がマリア殿に提示した後任構想は一定の評価をせざるおえません」

「宰相、流石にそれは王女の悪行を肯定しかねません。連れ戻すのを最優先課題とし、他の施策を考えるべきかと」


 フラジミア公爵は本当にアリシアの家出で算を乱している。だからアリシアに振り回されてるかの様な施策を進めることに躊躇いなく反対したようだった。

 ここまで強硬に反対するからに何か案があるのだろう。確認してみるか。


「ならば代案を挙げてみよ」

「王弟ブルハクプス公爵に頼むのが筋かと」

「ヘンリーか…やってくれるかは分からぬぞ?」

「この情勢で逃げるほど愚かでは無いでしょう」


 ヘンリーか…王位継承権は破棄しておらぬしアリシアの狙いを外す意味では効果的だな。

 だがヘンリーは王位に興味はない。早期の臣籍降下を望んでいたのだ。だから臣籍降下してからも領地にいることが多く、趣味の鍛冶の活動に精を出している。

 何故鍛冶師になりたかったのかは未だに分からない。

 ただ、アリシアとは違い王位継承権の破棄は流石に言い出さなかった。そこに一縷の望みをかけるしかないのかもしれん。


「応急処置として当面は余が対策しよう。あの世捨て人のヘンリーが応じるかはわからんが呼び出すだけ呼び出してはみよう」


 この決定に異議を唱える者はいなかった。

 しかしここで己をねじ込まんとする者がいた。


「その、王太子府での仕事を希望します」

「マリア、この情勢でお前を王太子府に入るのは反対だ。お前が内政官を目指しているのは知っている。王太子府での業務を通じて実務経験を積むつもりだったのだろう?だがお前もフラジミアの一員だ。今回の件、アリシア殿下の意向を外すべきだ」


 マリアが王太子府入りを希望した。若者のやる気があることは望ましいことだ。

 しかし父親のフラジミア公爵は政治的立場からすぐさま認めない姿勢を示した。

 しかし国務卿はマリアについた。


「良いことかと、既に人手が足りておりませんので」

「志ある若者は大切だ。実務経験を積ませるべきだろう」

「聡明なマリア嬢なら歓迎する」


 こうなれば父親の公爵とてあまり強くは言えない。


「お父様、国務卿諸卿は賛成のようですわ。この状況下で反対しても仕方ありませんわよ」

「言うようになったな…」


 ひとまず優秀な人材を確保できただけでも良しとしよう。

 しかし父親のフラジミア公爵をこの場を利用して黙らせたか…。マリア嬢も強かな令嬢である。



 この日の会合は荒れに荒れ、結局王弟の呼び戻しとマリアの王太子府入りが決まっただけで終わってしまった。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

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