18話 悪代官へのカウンター(上)
ゴーレムは撃破したものの、私の予想通り戦利品は悲しいことになった。
「やっぱりこれっぽっちの素材しか手に入らなかったわ…」
ため息が出てしまった。
ほんの少しの、それもあまり人気のない宝石と、割れたゴーレムコアだけだった。本当に悲しい戦利品だった。
まぁ武器が破損したわけでも無いのでこれで良しとするしかない。
気分も乗らないので今日はここで切り上げることにした。
戻る途中、何度かアンデットに襲われたけど難なく返り討ちにして戦利品を漁った。
程なくして砦を出るとちょっとした騒ぎが起きていた。
「王国はあの子を貴族に取り立てる気じゃねぇのか?」
「そ、そんな…私たちの女神様がぁ…」
「おいおい、そりゃねぇだろ!幾らなんでも幼すぎる!それに女だぞ!」
「おい、テメー、彼女に手を出そうって言うんか!容赦しねぇぞ!」
なんかやばい雰囲気がするんだけど…
目立たないように抜けると軽食でお世話になった屋台に入った。
「お?嬢ちゃんじゃないか!迷宮はどうだったか?」
「そこそこって感じかしらね…。表層で出るとは思えないタイプのゴーレムを見て今日はやる気なくしたわ。なんで重心にコアが無いんだか…」
「ん?今からでも何つった?スマンがもう一回頼む」
「表層で出るとは思えない重心にコアがないゴーレムは出ましたけど…」
店主は大きく目を見開いた。
「おい、まさかあのデビルウォールを倒したのか!?あれ問題になってたんだよ!」
「低級冒険者が表層で無駄に返り討ちに遭うからかしら?」
「まぁそんなこった。通路の壁に擬態し見分けるのは困難、そのクセ本来ある位置にコアがなく力も強い。だからやられる奴が多発したんだ。今やギルドの賞金付き指名個体さ!」
いい情報が貰えたわね。実入りの少ない嫌な個体だと思ってたらまさかそんな美味しい案件だったとは…
「そうだったんだ、売れるものがあまり採れなかったから実入りの少ないハズレだと思ってたわ」
「知らなかったんかい…まぁ詳しいことはギルドの窓口で頼む。思わぬラッキーだったな」
「アハハハ、確かにそうね。それとちょっと気になることがあるんだけど…」
私が表情を変えたことで店主の目つきも鋭くなっていった。
「ほぅ、どんな話だ?」
「今、迷宮の入口で騒いでる奴等の話していたことよ。タイミング的に私の話題の可能性があるからちょっと気になったの」
「あれか…なるほどな…。つまり嬢ちゃんの名は『ジャンヌ』だろ?」
「そうよ、それを確認したってことは本当に私に関する話題なのね」
「そうだ、あの騒ぎの発端はクリエルマ伯爵家の代官が来たことに始まる」
そこから始まった真相は極めて遺憾で腹立たしい話だった。
簡単に言うと私のところに押し掛けてきた悪代官が私を離すまいと余計な工作をしてたのだった。
外道め…私は赦さんぞ。
「そう、そう言うことね…。本当に、舐めた真似をしてくれたわ…」
「お、おう…殺気が漏れてんぜ…嬢ちゃん…」
「私もここまでやられて引き下がるワケにはいかないわ。新聞の発行元は何処かしら?声明文を叩きつけて奴等の非道を世に知らしめるわ」
「本気か!?」
「本気よ」
店主は呆れた顔をして私を見てきた。
「嬢ちゃん、あまり無茶をするもんじゃねぇぞ。まぁ教えるくらいなら構わん。街の北の商業地区に販売と取材の拠点があったはずだ」
へぇ…そこに垂れ込めば良いのね…。
奴等は本当に社会的に殺してやる。報道権力を舐めてはいけない。正直奴等は前世でも今世でも邪魔してくることが多々あって鬱陶しいけど利用できるところは利用する。
「良い情報ありがとう。これで奴等の目論見を完全に潰せるわね」
「本当に嬢ちゃんは物騒だなぁ…見てるこちらがヒヤヒヤする」
「色々と引っ掻き回して楽しませてあげるわ」
顔が引き攣ってるわね。でも不満を漏らさないところからこの人の能力の程が伺える。本当に敵じゃなくて良かったわ。こんなの敵に回したら厄介過ぎるわ。
「これからも贔屓にさせてもらうわ」
「おう!いつでも来いよ!美味い飯、用意してるぜ!」
さあ、リークしにいきましょう!
私に嫌がらせしてタダで済ませないわよ!
ーーーーーーーーーー
「すみませーん」
「なんだ〜?」
パステル市の新聞として有名なパステル日報を発刊しているパステル日報商会に突撃訪問した。
目的はクリエルマ伯爵家家臣の悪行のリーク、だから躊躇うことなく単刀直入に要件を言ってしまおう。
「私はジャンヌと言います。先日ワルカリアに壊滅的な打撃を与えた者です。クリエルマ伯爵家の代官に嫌がらせをされたのでそのリークに来ました!」
「嫌がらせ?」
「えぇ、私を無理矢理手中に収めようと暗躍してまして、貴族に引き取られるだの指名依頼を受けろだの、ひたすらデマを流されたり脅迫を受けたりしました」
「ん?あぁ、なんかうちにも来たなぁ…恰も本人が言ったかのようにな。あまりにも怪しいもんでこっちから本人に取材をしようかと思ってたところだったんだ」
「やはりですか、私がここに来たのはあなた達にとっては渡りに船ですね」
「その通りだ、良いぜ答えてやる。お前さんは知る権利がある」
なんと新聞という報道機関にまで押し掛けていたようだった。そして報道機関特有の嗅覚でその怪しさを嗅ぎ取ったらしい。既にクリエルマ伯爵家が私を確保したかのような記事を出させて私の行動範囲を狭めようとしたらしい。
これは特大ブーメランが刺さりそうな案件ね。
「どうだ?なかなか怪しさ満点だったろ?」
「怪しさどころかデマを流せって言ってるんでしょ?普通に代官として許される話じゃないわ。逸早く悪行を止めるためにも教会を通じて即座にクリエルマ伯爵家に抗議するべきね。もう口コミが広がるのを待つだけでは駄目みたいね」
「生憎、我々も忙しくてね。自分で行ってもらうぞ」
「分かったわ。それと明日の朝刊に私の声明文を載せて欲しいんだけど…」
「良いぜ!あの悪代官を追い詰めてやろうぜ!」
相手がデマを使うなら私は事実を以て対抗してやる。負けるつもりはない。こうしてやればデマはブーメランとして機能する。完全勝利を狙えるわね。
声明文は以下の通りにしました。
私、ジャンヌはクリエルマ伯爵家との取引には応じないことをここに宣言します。
先日、伯爵家の代官はCランクに過ぎない私に指名依頼を強制させようとしました。受けていた依頼の依頼主を脅して断らせようとした形跡もあります。ギルド規約上も許されてはいない行為です。当然私は断りました。
断った私に対して彼等はクリエルマ伯爵家で引き取ると言うデマを流し、私を拘束しようと試みていました。そしてパステル日報に嘘の声明文を掲載させようとパステル日報商会に乗り込んだことも知っています。
私は決して悪質なこれらの行為を許しません。不当に拘束しようとする行為を強く非難します。
この声明文を読んだ記者はニヤリと笑った。
「これは使えるぜ!アイツらが慌てふためくところを拝みたいものだな」
「そうね。アイツらには地獄を見てもらうわ!」
「後は任せときな!さぁ特大スクープだぜ!」
そして彼は机に向き合い記事を急ぎ書き出した。
私はパステル日報商会を出るとすぐに教会へと急ぎ向かった。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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