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16話 迷宮入口の賑わい

 休暇最終日、治癒魔法の乱用と積極的な養生で体はだいぶ楽になっていた。となればやることは1つ、迷宮に潜ることにした。


 そう、この街は迷宮都市、迷宮を中心に発展した街なのだ。迷宮で採れる鉱物や魔物素材と言った資源が街を潤わしている。何しろ街の中に迷宮があり、迷宮を出ればそこは街なのだ。迷宮で得た商品をすぐに売ることができる。そう、ここは迷宮に潜る冒険者にとっては金稼ぎをしやすい街でもある。



 迷宮とは何か、人気の少ない洞窟や森林、廃墟等に自然に存在する魔力が集まることで空間が歪み、異次元化することによって形成される空間なのだ。空間が歪んでることからより魔力が集まりやすく様々な現象が起こる。例を挙げると魔物の発生や魔法素材の出現、超常的な力場の形成が起こり得る。迷宮はこの世界の神秘の1つである。



 因みにパステル市の迷宮は使われなくなり廃墟になった砦が異空間化したものだった。街道からも離れてなかったことから迷宮になると同時に注目され、一気に開発が進み、街道すら引き寄せるように逸らし取り込んで発展した。それが今の迷宮を中心に据えたパステル市だ


 私がこの街に来た目的は迷宮での荒稼ぎ、なのでどうやったら稼げるかの調査も必要だ。やたらめったら動いても死んでは遅いからね。それに本調子じゃないから、今日はあまり無理は出来ないので表層でやれることだけになる。


「うわぁ!」


 迷宮の入口の付近はギルドの迷宮支部や数多の飲食店をはじめとする商業地区になっていた。

 この街の名物料理であるパステランなどを提供する屋台も多数見かけた。

 パステラン、食べてみたかったのよね。こういう屋台でね。

 屋台の面白いところは、やっぱり当たり外れがあることにある。新たな珍味を探す楽しさこそ屋台の醍醐味であり、ロマンだと私は思っている。


「へい!らっしゃい!特濃パステランはいかがかな?」

「うちのパステランはパンチが効いてるぜ!是非是非食べっててくれよな!」

「さっぱりヘルシーな王道パステランと言えば当店一択だ!」


 各屋台の店主が声を張り上げている。凄まじい熱気ね。ここ、普通に観光地化しても十分すぎる収益が上がるんじゃないかしら?あ、今は周辺の治安が悪すぎるわね…。


 ま、取り敢えず今は食べることを考えよう。

 正直長い王宮暮らしであっさり系に味に慣れてしまったのよね。なのでそっち系の店を探すことにした。腹拵えは大切だからね。

 ふと歩いていると目立たないように構える屋台があった。しかしそれはよく見てみると年季が入っており、よく手入れされた屋台だった。暖簾には古風な字であっさりパステランとあった。店主は逞しい顔つきと体躯を持つ老人、恐らくはホンモノの老舗だろう。気になった私はその屋台を選んだ。


「幼い嬢ちゃんだな。その歳でソロの冒険者とは変わってるな。しかし何故だろう、どこか懐かしいものを感じるな」

「変わり者で結構よ。懐かしいってことは若い頃はソロの冒険者だったんじゃない?それに商売人なのに目立たないと言うのもかなりの変わり者ね。余程自信があるんでしょ?」

「ハッハッハッ!これは傑作だ!で、嬢ちゃん、注文は何かな?」

「パステラン1つ頼むわ」

「おうよ!」


 この店主、料理の手つきが独特だ。これは見込めるわね。

 調理しながら彼は話してきた。


「俺はぁ、昔しゃあお前さんの言う通り、ソロでやってたさ。実家は豪商でな、堅苦しいのが嫌で飛び出したんだ。イキってたさ、だからソロの道を選んだ」


 ある意味では私と似たようなことをしてたのね。客に昔の自分を見ていたのね。それは懐かしいと思うわけだわ。


「でもな、それなりには成功はしてたがな、冒険者稼業なんざ何時までも続けられるわけがねぇ。大怪我しちゃ死なずともおしまいだしな。俺は手先は器用で料理が好きだったんだよ。オリジナリティ出すのが好きでな、似たようなもんで異なるモノを好んだんだ。だから幅の広いパステランを選んだって訳さ。ま、冒険者稼業の蓄えは幾らかは使ったがね」

「人生経験あって良いわね。そこらの店よりよっぽど信頼できるわ」

「そう言ってくれりゃ助かるわい。お前さんも身なりは良いし動きが洗練されとる。俺と同じく実家はそれなりに力はあるんだろ?」

「それもそうね」


 やはりこの店主、見る目がある。


「この店に注目できただけでもお前さんがよく見てるのが分かる。実力者だろ?この店の顧客の大半は冒険者の中でも実力者と言える奴らばっかりさ、お陰様で良い商売させてもらっとる」


 巧い、この店主は店の外観を利用して客を選定してる、普通はこんなことはしない。ブランド化の才覚を感じた。確かに豪商の血を引いてるのも頷ける。


「よっ!いっちょ上がりだ!どうだ美味いか?」

「奥が深いわね。これだけの腕前があれば貴族の屋敷とかでも雇ってもらえるほどよ。まぁ貴方は嫌でしょうけどね」

「そうだな、士官話も昔はあったな。わざわざ貴族の使者が頭を下げてきたが『やりてぇようにやる、行きてぇように行く』と言って断っちまったがな」

「やっぱりね。そこで引き下がる貴族家もしっかりしてるわね。この前、私のところに押し掛けてきて指名依頼を無理矢理受けさせようとした連中に爪の垢を煎じて飲ませたいわ」

「そりゃ災難だったな。災難と言えば…ワルカリアの話だが…ワートン男爵はワルカリアに頭を垂れたそうだ。討伐に失敗した結果、降伏してウラミア侯爵家の仲介で娘をワルカリア幹部に嫁がせて息子の嫁にワルカリア関係者たる豪商の娘を迎えたそうだ」


 どこまでも救いようの無い話だった。証拠を握れば面倒くさいマフィアを支持する貴族を叩き潰すことができる。特にウラミア家は方策考えても逃げられ続けているので何処かで会心の一撃を加える事を王国政府は望んでいた。これはタイミングを見てリークしよう。


「確かに災難ね…。マフィアに負けて扱き使われてるのだから…。しかしそれは証拠が欲しいわね。巧いことリークすれば王国貴族の闇の一端を完膚なきまでに潰せると思うわ」

「あるにはある。だが、中央に送れないんだ。理由はわかるだろ?と言うか嬢ちゃん、結構色々と知ってるんだな」

「えぇ、色々と繋がりがあるんです」


 流通妨害かぁ…。これは何か処置対策が必要かもしれないわね。出奔する前に先に調査しておけば良かったわ…。まぁ今からでも大神官ミハイルを通じて密告することもできるけど。


 雑談も楽しかいけどやることがある。食事をしつつ店長からここの迷宮について色々と話を聞かせてもらった。


「情報ありがとう、料理も美味しかったわ」

「おう、また来いよ!」


 さて、ここの迷宮はどうなのだろう?

 私は期待してその入口に向かった。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。


さて、7月14日(日)にサイと様(X:アットマークsait3110c)より配信にて当小説が紹介されることになりました事を連絡させていただきます。


これからも理を越える剣姫を宜しくお願いします。

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