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13話 束の間の凪の日(上)

 うーん…眩しい…

 うー筋肉痛だー…


 痛む体を起こした。よく分からないけど何故か体中に手当の跡があった。そして時計を見た。


「え!?寝坊してるじゃん!」


 ま、不味い…。

 昼過ぎには依頼の集合がある。それまでにミハイル宛の手紙を書いて教会に配送を託す予定だったのに…。


 嘆いていても仕方はない。昨日の件を放置しておくわけにはいかない。さっそく机に向かい手紙を書き始めた。急がないと強制チェックアウトの時間が来てしまう。


 この街のワルカリアのトップだったフディーサランの言っていた『ブーアクルバ』とやらについては調査が必要だし、ワルカリアの宗教団体疑惑もある。下手な新手の宗教団体を放置しておくわけにはいかない。

 宗教は民の根っこを掌握できるシステムなのだから施政者の立場に近づけば近づくほど警戒しなければいけない。


 しかし単刀直入に書いても理解は出来ない、

 なのでこの街であったことをまず伝えなければならない。

 街がマフィアに支配されかけていたこと、到着初日のトラブル、聞いた噂話、そしてフディーサランとの決闘、そして最終的に街からワルカリアが締め出されつつある現状を……と、書くことがとても多い。


 手紙を書いてる途中、扉がノックされ女性従業員が入ってきた。


「あの、体は大丈夫なのですか?」

「大丈夫…と言って良いのかな…。手当をしてくれたのは宿の方かしら?」

「えぇ、その通りです。支配人から貴女の体調には気を使えと全従業員に指示が降りております」

「そうなのね」


 どうやら支配人が配慮してくれたらしい。こんなサービス受けるの初めてだなぁ…。ちょっと気まずい。


「それと支配人からの伝言ですが、お客様の宿泊に関して特待料金への変更となります。それとチェックアウト時間を過ぎても構わないとのことです」

「料金の件は助かるわ。チェックアウトは間に合わせる。依頼の集合時間もあるからね」

「それについても連絡がありまして、現在街全体で暴動などが起きており混乱している状況です。依頼主の方から連絡があり、依頼受注者向けに追加の部屋の手配の要請が届きました。どうやら3日ほど出発を遅らせるそうです」

「へぇ…そんなことがあったのね…。体は動かせるけど結構ボロボロだから本当に助かるわね」


 依頼も延期か…体の調子次第では迷宮潜るのもありかな…。


「説明は以上になります。明日からの宿泊は商会持ちなのでお支払いは必要ありません。それと割引価格との差額分は返金になりますので後でフロント受付までお越しください」

「ありがとね」


 部屋から従業員が去ったのを確認してから手紙を書くのを再開した。

 お昼前には何とか書き終えることができた。

 よし、フロントに行こう。


 フロントですべきことは何か、まずは返金の受取だね。

 他には目をくれず真っ先に受付に向かった。


「あ、ジャンヌさんですね!では返金の精算をさせていただきす」


ーーーーーーーーーー


 うん、すごく安い宿泊になったわね。

 ホクホク顔で振り返ってみるとフロント中がざわついている。何故だろうと思いつつも取り敢えず新聞を手にとって適当なソファーに腰を下ろした。

 ざわめきは静かになっていく、何だったんだろう?と思いつつ新聞に目を通した。そして驚愕した。


 なんと大見出しで『ワルカリア壊滅』とあった。

 他にも『フディーサラン、待ち望まれた死』とか『英雄少女現る』とか昨日一昨日のことがめちゃくちゃ書かれてた。この様子では世間の話題は私のことで一色になってるかもしれないわね。さっきの目線とざわめきはそういうことか…。

 これは想定外だった。私の名前と冒険者ランクも公開されており、突如街に現れた英雄の扱いになっていた。もう街で私を知らない者はいないんじゃないかしら?

 指名依頼対策でBランクへの昇格はするつもりは無いけど、ここまで有名になってしまうとギルドから圧力がかかるかもしれない。これも今後の懸念要素として考慮する必要がある。下手な指名依頼受けて身バレなんてするわけにいかないしね。


 新聞を読み終わったところで宿の食堂で昼食をとることにした。


「いらっしゃいませ!お好きな席にどうぞ~」


 目立たない席…目立たない席…お好きな席にと言われたので目立たない席を探すことにした。今の私は居るだけで目立つ恐れがある。食事は静かに食べたい。

 結局奥の隅っこの席に座った。


 メニューはどうやら日替わりで4種類用意されてるらしい。今日のメニューは…


オーク肉のハンバーグ

リッパーラビット肉と野菜の炒め物

グラウンドサーモンのムニエル

パステラン


 昨日の今日だからガッツリ食べたいのよね。

 何にするかは決まった。ベルを鳴らして店員さんを呼んだ。


「注文はお決まりですか?」

「はい、オーク肉のハンバーグ2枚盛りでお願いします」

「え?2枚盛りですか!?」

「えぇ、大人サイズで2枚盛りで大丈夫よ。沢山食べたい気分なの」

「しょ、承知しました…」


 まだ子供だからね。普通は私の歳で2枚盛りなんてやらないからビックリするのは仕方ない。

 因みに寝坊して朝食抜いてる分、お金に余裕はあるので2枚にしても経済的には問題無かった(健康には良くないけど)


 少しして料理が運ばれてきた。


「お待たせしました〜。オーク肉のハンバーグ2枚盛りです」


 うわぁ、アッツアツで美味しそう!

 ナイフを入れれば肉汁が滲み出てくる。

 口に運べば…美味しい…口に広がる肉汁が本当に幸せね。正直、これだけでこの食堂のレベルの高さが分かる程に美味しかった。

 お腹が空いていた分、どんどん食が進む、これは沢山食べられる。偶には贅沢もするものね。


「あら、お上品な食べ方ですわね」

「だーれ?」


 美味しく食べていたら他のお姉さんに話しかけられた。それを避けるために目立たない席を探したのに…。


「私はサラ・フォン・ヘルヴィルムと申します。婚約破棄をされて貴族生活に嫌気がさして今は冒険者をしております」


 普通に貴族令嬢だった。ヘルヴィルム伯爵家は武闘派で有名な家門、現当主は軍務卿を務めてる。正直あそこの令嬢が冒険者をやっていくだけの実力を持ってると言われても何も疑問に思えない家なんだよね…。それでも冒険者によくなれたとは思うけどね。幾らなんでも貴族令嬢が冒険者は普通はあり得ない。武闘派の家でも令嬢を鍛えはしても華々しくあれとされるのが普通だから。


「婚約破棄って…はぁ…。それでもヘルヴィルム伯爵家ともなれば面子もあるでしょうから冒険者になるのに父親を説得するのは難しかったのではないですか?」

「フフフ、お父様は最後の最後まで反対しておりましたけど隙をついて冒険者登録して実績を作ることで黙らせました」


 なるほど、実績で黙らせたのか…。あの父親の隙を突くとはなかなかの女傑っぷりだわ。と言うかいつの間にか対面になってるし、彼女はかなり強引な性格をしてるのね。


 思い出した。確か軍務卿がヘルヴィルム伯爵で外政卿がソンムスティ侯爵と、あまり関係の良く無い家同士が国務卿の中に入ることになって問題になったんだった。それで関係改善を図る為にヘルヴィルム伯爵家令嬢とソンムスティ侯爵家嫡男の婚約が結ばれた。原因までは覚えてないけど結局破談したのは覚えてる。


 しかし国務卿の娘か…。会いたくない相手に会ってしまったわね…。

 理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。

 さて話に出てきたパステランですが、パステル市の名物料理の1つで麺料理です。きしめんの幅を半分くらいにしたような麺を茹でてスープで味付けした料理と思っていただければ結構です。食べやすいように比較的アッサリした味付けが多いですが、エネルギー源としての性質を高めるために脂っ濃いスープで味付けるケースもあります。迷宮攻略者のことを考えたこの街ならではの料理という設定です。



 良ければブックマーク、評価、感想、レビュー等お願いします。これからも理を越える剣姫を宜しくお願いします。

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