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11話 死闘

 どこからどう見てもヤバい。

 本能的に私は悟った。

 名乗りも不気味、容姿は如何にも豪傑と言わんばかりの姿をしており、その瞳は闇を宿していた。さらに纏う魔力は不穏なモノ、どこからどう見ても完全に異常者だった。

 だけど、これだけは言える。転生してから遭遇した敵の中ではまず間違いなく最強であり最凶な相手であり、転生前に比べて体力の無い今の私で勝てるかは正直怪しい、そう言うレベルの相手だと言うことは。


「これは…思った以上にヤバそうなのが出てきたわね」


 思わず漏らしてしまった。


「余裕があるのは今だけだ。間もなくお前は命を失う」


 どうやら私のことを軽蔑しているらしい。あの異常な力を以てすれば私なぞ瞬殺できるとでも考えているのはすぐに察せられた。いや、演技かもしれない。

私は集中力を限界まで高めた。如何なる攻撃が来ようとも対応できるように。そして大太刀をしまい、腰に下げている打刀を抜いた。大太刀は派手で威力はあるけど小回りは効きにくい、特に今の私は幼いため長大な大太刀の欠点の影響が大きくなる。


「凄い自信ね。フディーサランとか言ったわね。その自信の源はその異質な悍ましい力を持つからかしら?」

「ほう、私を前にして平常心を保つとは大したものだ。だがそれも些事、ブーアクルバ様の加護を受けし圧倒的な力の前ではその威勢の良さは無意味である」

「『山より見て地を知らぬ』とはよく言ったものね。私とて…」


 会話の途中で彼は魔法攻撃を放ってきた。幸い気づけたので横に躱し事無きを得た。私を通り過ぎた魔法は後ろの建屋を爆砕した。私が言うことじゃないけど、とんでもない威力だわ。


 コイツの手口、無法、悪逆、傲慢、独善の成せる業ね。


「ほう、避けるか」


 私が避けたことに関してどうやら驚き関心を抱いたらしい。しかし顔から驚きが消えると同時に踏み込み私に突撃してきた。


早い…


 私は身体強化を最大出力で展開して大上段から振り下ろされる剣を刀で受け止めた。刃がぶつかり鍔迫り合いになった。


重い…


 身体強化ありでも押し切られそう…。

 全力で受け止めているが少しずつ押されていくのが分かる。一撃で仕留めようとしていたのがよくわかる。


 異質なだけじゃなくて異常なパワー、こんな恐ろしい事があるのかと戦慄していた。


「クッ!」

「ほう…苦し紛れとは言え耐えるか、大したものだな。だが……グハッ!」


 私もやられっ放しでいられる訳が無い。腹に炎魔法を叩き込んだ。ギリギリだった。多分奴も放出系の魔法を撃つか、身体強化の出力を上げるかして押し潰すつもりだったのだろう。

 フディーサランは私の魔法が直撃すると反動を利用して巧いこと後退した。その後退すら隙が少ない。分かっていたことだけど、鍔迫り合いに魔力のリソースを持ってかれてるので威力が出せなかった。


「ハァ…ハァ…ハァ…」

「ぐぬっ…!」


 僅か一瞬のやり取りで両者が一気に消耗したのが分かる。私はあの異常としか言いようがない威力の攻撃に耐えて消耗していた。マジックポーションを飲んでなかったら力尽きて死んでいた。

 それに対して彼は私の魔法を腹部に受け怪我を負っている。威力が低かろうと至近距離での直撃は即死するリスクがある。異常な魔力の膜で減衰したからこそ腹部の怪我だけで済んだのね。でも私に向かい合ってる中で大きな隙になるリスクのある治癒魔法は使いにくいのも事実、かと言って私も消耗してて体が思うように動く保証もない、彼も私と似たような状況ね。


 戦いは膠着した。両者とも満足に動けるわけではない、その状態で下手な手に出れば致命的な隙を晒しかねない。幾らなんでも致命的な隙を晒せば如何に疲労していようと強烈なカウンターを受けかねない。流石にそのリスクを軽視は出来なかった。


 私は一度深呼吸を挟むと刀を構え、敵の魔力や体の動きに注意しつつ間合いを詰めていく。呼吸の乱れはもうどうにならない。相手も怪我でマトモに動けない。ならば間合いを詰めることでチキンレースに持ち込むことにした。

 間合いが少なければ少ない程、攻撃到達時間が短くなり対処は難しくなる。余裕があると思わせることで精神的な圧力を加える事も出来るはず…。


「おのれぇ…小娘如きがぁ…」


 どうやら彼も怪我し痛む体にムチを打って無理矢理近接戦の構えを見せた。


「ここで、終わらせる。この街のワルカリアの横暴を!」


 私も体の痛みに耐えていた。痛みを堪え奴を倒す為に気炎を上げた。

 そうでなくても小さい体で身体強化を全力で行使していた。つまり完全な無茶だった。


 もう余力はあまりない、そう長くは打ち合えない、早く決めねば私はここで死ぬ。でもここで死ぬのは許容できない。私だけが、大厄災で殿を務めた者の中で、私だけが、この世界に残ってしまった。

 ここで務めを果たさずして先に理に乗った者たちに顔向けができるのか?いや、できる訳が無い。

 私は生き残り進むしかない。


「うぐっ……!」


 私は痛みで膝をつきそうになった。でもここでつく訳にはいかない。


「ブーアクルバ様の加護を受けて敗けるなど…ありえん!俺は、俺はぁ!お前を殺す!」


 その瞬間、彼の魔力が急激に膨れ上がった。

 膨れ上がると同時に爆風が吹き付けた。


「キャアアァァァ!」


 私は吹き飛ばされ地面を何度もバウンドした。何回したかは分からない、そんな数える余裕なんて無くなっている。当然手に持っていた打刀は何処か更に離れた場所に吹き飛ばされてしまっていた。何処にあるのかすら分からない。

 気絶はしていない。だけど体中に激痛が走る。切り傷や擦り傷なんて当たり前、身体強化のお陰で奇跡的に五体満足でいられた。本当に体の一部が千切れず気絶しなかっただけまだマシね…。

 根性で治癒魔法を使い痛みを抑えた。それでもまだ痛みは残っている。私は痛む体を起こし立ち上がった。


 彼は私より先に傷を癒やし、こっちに歩いてきた。その足取りは傷を癒したとは思えないほど重かった。その瞳には憤怒、いや、憎悪が宿っていた。


「小娘よ、ここまでだな」


 そして彼は爆炎球を発動した。その爆炎球はあまりにも絶大な密度と大きさを持っていた。これは避けようがない。防御魔法を構築する。しかし体の魔力が底を突きかけているのがよくわかる。


 でもこれは1つのチャンスだった。この至近距離であの規模の魔法を叩きつけたら余波で自分自身をも焦がしかねない、ハッキリ言えば自滅行為と言って良かった。

 つまり極限の防御魔法で何とか耐えることができたとすればこちらに勝機が移る、それに賭けるしかない!


 彼は遂に異次元の爆炎球を放とうとする。

 しかしその瞬間…


「うっ…………ぐっ…グアァァァァ!」


 爆炎球は霧散した。それと同時に彼の魔力が急激に萎んでいく。

 彼は膝をついた。恐らく体がもう保たないのだろう。手の先が灰になりかけていた。己の体で扱い切れるわけのない強すぎる魔力の代償ね。


 爆炎球が霧散した以上防御魔法を構築する意味はない。魔法をキャンセルし魔力を回収して魔力を循環させて体力の底を上げを図った。そしてマジックバッグから予備の打刀を取り出した。

 この予備の刀は王太子代理時代に戦う機会が増え、万が一武器が壊れた時の対策としてヤツスナにお願いして何本か打ってもらっていたものだった。まさか攻撃を受けて瀕死の状態で取り出すことになるとは思わなかったけど。


「これで終わりね…」


 私は力を振り絞って刀を構えた。


「グッ…!これで終わると思うなよ。我々ブーアクルバ様を信奉するワルカリアはお前を付け狙うだろう。お前は何れ生贄にされる」


 される訳が無いでしょう。

 そんな野暮なツッコミはしない。するだけ体力の無駄。

 私はアッサリとフディーサランの首を落とした。


「ようやく終わった…!」


 流石に疲れた。少し休んでから宿に戻ろう…。


 本当に死ぬかと思った。

 でも何とか生き残り勝てた。

 分かっていたけど私はまだ弱い、身体的スペックは仕方ない面はある。でも技術面が十分だったのか?いや、十分とは言えない。

 この迷宮都市では金だけではなく、本気の修行が必要なのかもしれないわね…。

 いつも本作を読んでいただき誠にありがとうございます。

 現在投稿時間並びにジャンルの変更を検討しています。

やるかもしれませんしやらないかもしれません。

 行う際は必ずX(旧twitter)、活動報告で事前に連絡いたします。


 また、評価やブックマーク、感想やレビュー等していただけると幸いです。

 これからも理を越える剣姫を宜しくお願いします。

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