6話 パステル市の冒険者ギルド(上)
パステル市に着いた私はとりあえず宿屋を探すためにギルドに入った。
なんか雰囲気がくらい、迷宮都市とは思えないくらいに暗い、これは明らかに何かがおかしい。怪しさ満点と言える。場合によっては別の迷宮都市に移動することを考えるレベルの状況だわ。
「おい、聞いたか?ワルカリアがまた役所を襲撃したらしいぞ…」
「本当に治安が悪くなったよなぁ…」
「迷宮がすぐ底にあって儲かるからここに来たけど、別の場所を拠点にすべきだったのかもなぁ」
「この近くだとワルカリアの勢力圏だから王国北東部まで行くか?」
噂話を聞いて納得してしまった。
ワルカリア・ファミリー、クリエルマ伯爵領の南にあるワートン男爵領に本拠を置き、王国南東部を主な活動地域とする国内最大のマフィアである。
ここの領主、クリエルマ伯爵家は2年前、領内に拠点を持つマフィアであるワルカリアを大規模に攻撃した。奴らが麻薬やら禁制品やらヤバイものを流して暴利をあげたり、違法な人身売買をしていたりした為だった。
主な拠点を何箇所も潰され、大規模な損害を被ったワルカリアは大々的にクリエルマ伯爵家に反旗を翻し抵抗活動を行っていた。具体的には伯爵家の統治機構に攻撃したり、要人の拉致や暗殺、流通破壊、果てには友好的な貴族家の手引の元、王都に潜伏し領主の娘を捕らえて人質にする為に襲撃事件を起こした事もあった。
流石に王都ではその襲撃事件をキッカケに大規模な捜査が行われ、マフィアというマフィアがどんどん潰され、ワルカリアは王都から完全撤退を余儀なくされた。当然マフィアの温床になりやすいスラム街では治安対策として衛兵巡回強化や、犯罪に走らないようにする為の職業斡旋等の対応が取られている。王都への再進出は困難を極めるだろう。
だけど地元では今でも抗争は続いている。王太子代理として、奴等が王都での損失を埋めるべくより活発に動いてるという報告は受けていた。
私は思い切って情報を集めることにして、先程の会話をしていた冒険者に声をかけた。
「少し詳しく教えてもらえるかしら?」
「何だ嬢ちゃん?」
「さっきのワルカリア・ファミリーの話についてよ」
「あんなヤベー奴等について知ろうとするなんて物好きだねぇ…」
「世の中知らなくても良いこともあるのさ。ま、この町は危ういから君も冒険者なら他の町に退避した方が良いと思うぞ」
うん、本当にヤバそうね。でも今回は情報は無いよりある方がマシだ。
「情報はあるに越したことはないわ。王国南東部は奴等の活動地域よ。この地域に用事がある以上、彼等を知らないのは逆に危険なのよ」
「どういう用事かは知らねぇが本当にヤバい、今や一部の町や村では統治機構が乗っ取られてる始末だ。一部の貴族家を傀儡にしたという噂も流れてたな。一部地域では連中のことを歓迎し一蓮托生で悪事を働いていることも分かってる」
「深刻ね…。もしかしてこの街の雰囲気が暗いのは…」
「あぁ、そうだ。領主が負けてこの町が乗っ取られる可能性があるからだ」
これは本当にマズい、地域が乗っ取られてるということだよね?大々的に犯罪組織が活動してるのはなんとかしなければならない。これ、実質反乱では?と思ってしまった。
「住民拉致とかの情報は?」
「あるな、無理矢理働かせたりとか、人身売買したりとかな…」
うん、一刻も早く対処する必要があるわね。
私の様な存在は攫う対象として狙われやすい、つまり身の危険があるということ、さぁどうしたものかね。
「情報ありがとう、確かに想定してたより危険な連中ね。ちょっと身の回りには気をつけるわ」
「あぁ、嬢ちゃんのようなのは狙われやすいからな」
とりあえずギルドの依頼を確認しておこう。いくら迷宮都市とはいえ、依頼がないわけではない。それに前の町で依頼をこなしてないので、ここでは受注しておきたい都合もある。何しろ依頼をまったく受けない冒険者は非常に印象が悪かったりするからね。なので迷宮に潜るより先に依頼を受けておくのだ。
物色してたら面白い依頼を見つけたわ。
内容は近くの鉱山の鉱物資源の輸送護衛、金額や募集人数を増やし、必須ランクを下げたらしい。なんとDランクまで対象だ。護衛依頼でDクラスまで動員はあまり見かけない、それくらい危険だからね。でも募集がかかるということはそれだけ治安が悪化してる証である。
「これ、受けさせてください!」
受付窓口に依頼の紙を持って受注を申出た。
受付嬢は依頼を見て青褪めた。
「本気でこれを受けるつもりですか?マフィアの襲撃を想定してのものですよ?」
「わかってるわ。ワルカリアの連中をブチのめしたい気分だったから調度良いのよ」
「正気ですか?奴等尋常じゃない程に狂った連中なのですよ!?どうしてもと言うのなら止めませんけども」
「正気よ。来るなら来いっ!って感じよ。無論負けるつもりも無いしね」
「わかりました。依頼受注書を発行します。少々お待ち下さい」
受付嬢が裏で手続きをしている間に背後から声がした。
「ほう?それを受けるか。俺達をナメてるようだな。こっちに来い、可愛がってやる」
「身の程知らずはどちらかしらね?」
振り向くと明らかに闇社会の用心棒と思われる3人組がいた。胸につけてるバッチは…ワルカリアのバッチ、早速来たみたいね。
この国には反乱阻止法と言う法律があり、マフィアの様な犯罪組織や反乱武装勢力に対しての殺人行為は罪にはならないと言う法律がある。それは犯罪組織拡大防止や反乱防止の為の法律だった。当然だけど余計な犠牲を生まない為に認定された組織と証明できた場合と言う但書はある。どうやら上手く目的どおりに機能していなかったみたいようね。
ワルカリアはあまりにも悪名名高すぎるので当然認定されている。なので躊躇うことなく刀を抜いた。
「小娘よ、本当に身の程知らずのようだな。俺達ワルカリアに喧嘩を売るとはな」
ガタイは良いし、そこそこの実力はありそうな感じがする。
なるほど、自分たちを標的にした依頼を受けるような冒険者を始末する目的にするならば良い感じの実力者を用意してたと…、このマフィアなかなか手強いわね。
「口先だけ威勢よく暗殺にしか頼れないマフィアが勝てる理由がないわ」
敢えて挑発をしてやった。予想通り奴らは激怒しだした。
これはかなり暴れられそうね。
反乱阻止法ですが、対象の討伐で一定以上の活躍を示せば褒賞がもらえる他、大型組織のトップや反逆した貴族本人を捕縛・抹殺すれば確定で男爵以上の爵位が与えられるシステムになっています。一応爵位は辞退も可能です。
当に中世でございと言わんばかりの国体維持政策です。とは言っても抑止力にはなれど実際に対象が発生した際に有効かは微妙です。そんなことやらかす連中はマトモではないのでそいつ等に立ち向かって行くのはかなりの難業ですので実際にこれで立身出世を狙う人はほぼ0です。
◯お知らせ
6月26日については臨時休載とします。ご注意ください。
これからも理を越える剣姫をよろしくお願いします。




