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5話 貴族と平民

 翌朝、私はギルドにこの町を発つことを伝え、ハルタルの町を出て東へと足を運んだ。


 ギルドマスターのグフタスは仕方ないと言う顔をしていた。それくらい私の争奪戦が激しかったのだ。


 目的地はクリエルマ伯爵領の迷宮都市であるパステル市、だいたい歩いて2日くらいと言われている。とは言っても私はまだ子供と言って良い、3日は見ておいた方が良さそうね。

 目的は高い戦闘力を活かして迷宮で荒稼ぎするつもりだった。活動資金は大切である。


 途中に小さな町があるのでギルドがあれば少し顔を出しておこうと思っている。毎晩野宿は辛いので宿に泊まりたいのもあるけど、情報収集も大事なのだ。

因みに町と町を移動する場合に効率的なのは護衛依頼だけど、それには期待していない。まずピンポイントで狙うのは余程本数の多いルートしか狙えないからだ。今回は距離も短いし期待できないケースの筆頭である。


 この当たりは草原地帯で所々に農村や小規模な林がある。林の中で食料調達も可能なので食費は比較的浮きやすい。一応私も獲物の解体は出来るので素材化しておけば買取価格が上がると言う追加メリットもある。


 なんてことを考えながら街道を歩いていたら貴族の馬車が反対側からやってきた。貴族の近くで隠蔽魔法を下手に使うと暗殺者の疑いを持たれ、死刑の対象になるのでその選択肢は取れない、周りに遮蔽物はない、もはや隠れることは叶わなさそうね。仕方ない、頭を低くしてバレないことを祈りつつ通り過ぎるのを待とう…。

 私が王女だとバレたら非常に面倒なことになる、連れ戻されてしまう、それは勘弁してほしかった。


馬車が近づいてきた。より近くに来たことで馬車に紋章が刻まれていることに気がついた。さらに近づいてきたところで紋章は家紋だと分かり、どの家かが判別がついた。両手に弩弓を持つ騎兵の紋章、間違いない、ネリマン子爵家ね。ネリマン子爵家とは関わりが無いため、多分なんとかなるわね…。


 そしてその馬車は私の前で停止した。うーん、嫌な予感、バレることはないとは思うけど面倒な予感…。

 そして中から貴婦人が降りてきた。


「あら?こんな小さい子供が1人で…。孤児かしら?大丈夫?」


 あぁ、孤児の保護を申出てきたと、あり溢れた傲慢な申出ね。


「孤児ではないわ、冒険者よ」

「その歳で?」

「ありえなくはないですよ?規定上は10歳からなれるのですから」


 驚いてるわね。まぁこの程度驚いていても仕方ないと思うんだけどね…。それだけ貴族として生活してきて、社会を知る機会が無かったのね…。前世の私だって10歳で冒険者登録してたし、冒険者に憧れて幼くしてなる者もいれば、孤児になって仕方がなく稼ぐ為に冒険者になることもある。特に平民は幼くても働く場合は少なからずある、でも貴族は違う、当主になるにしても官僚になるにしてもかなり早めで大体15歳くらい、住むところがあまりにも違い過ぎて貴族と平民の常識や生活の違いを理解してない人たちが多いのよね。貴族も平民も…。


「それに貴族とは違って平民は子供の時から親の手伝いをしつつ仕事を覚えていきます。早い子だと10歳になる前から一人前とまでいかずとも十分な働きをします」

「そ、それは…」

「私は故あっての貴族にも伝がありますので平民でありながら貴族のことを知っていますが、基本平民は貴族のことなど知ったことでは無いと言うのが基本ですし、貴族も貴族で平民を知ろうとはしませんので」

「でも本当に大丈夫?つい最近まで物騒な話があったのよ?」

「大丈夫です。私はこの年で既に実力者です」


 さて、彼女は何を考えてるのかな?ここまで言っても保護しようとするとは…


「おい、パール夫人の好意を無下にするつもりか?」


 どうやら護衛騎士の1人が口を出してきた。どうやら私と主のやり取りが非常に気に食わなかったらしい。

 それにしても貴婦人はパール夫人と言うのね。これで私が裏社会の人間だったりしようものなら主人を危険に晒した事になるんだけど、騎士としてちょっと常識を疑うわ。


「そもそも要りませんので、それに私の目的地は東側、あなた達は西に向かわれています。態々必要もないのに戻る人がいますか?それに何の権限があって会話に横入りしてるのかな?本当に馬鹿なの?」

「貴様、そんなに首を刎ねられたいか!」

「お待ちなさい!ここで殺せば汚名になります!それに子供の命を奪うなど騎士として問題でしょう!」


 この騎士、本当に馬鹿だね。護衛対象たる主の会話に口出して挙句の果てに主から注意を受けるとか無いわぁ…。


「しかし、パール夫人、この者は明らかに貴族を舐めております」

「舐めてるのはあなた達の方じゃない?誰が助けを求めた?求めてもいない助けを押し付けるとか喧嘩を売ってるだけよ?弱者救済、とても美しい響きね。でもそれが必ずしも正しいとは思わないことね。貴族は民に支えてもらってる立場にある、故にその立場に即した振舞や行動が求められるのよ。流石に相手してられないわ、私は行くわ」

「おい!貴様ッ!」


 私が歩き出した瞬間、彼は剣を抜いた。


「あー抜いちゃうんだ…。死にたいのかな?」


 私は挑発しつつ身体強化を掛けつつ刀に手を掛けた。


「このアマァッ!減らず口を!」


 そして彼は挑発に乗り斬りかかってきた。

 私は素早く反転し居合でそれを受けた。

 私の攻撃のあまりの重さに彼が驚いてるのが分かる。先程の居合の一閃の圧力で彼の剣が欠けた上に弾かれてしまったのだ。

 彼は弱い、恐らく王国騎士団に入れるような腕では無かった為に貴族の護衛騎士になる道を選び、職探しの末、ネリマン子爵家に雇われたのだろう。恐らく上級貴族からも見向きもされなかったはずだ。このプライドの高さと実力の無さでは話になるわけがない。


 この攻防でパール夫人は怯えている。まさか護衛騎士が子供を襲うなんて思わなかったのだろう。恐らく刃傷沙汰にも抵抗があるわね。世間知らずの貴族そのものなのがよく分かる。

 パール夫人をここから去る理由にしよう。


「アンタの主が怯えてるわよ。護衛としてやるべきことを考えたほうが良いんじゃない?私は去らせてもらうわ」


 他の護衛騎士たちはパール夫人を護り私には手を出してこない。私に手を出せば夫人の機嫌を損ねることになるのは明白、余計なことをしないのが一番だ。よく理解しているわね。

 多分私に斬りかかってきた奴は解雇されるか、解雇を回避しても冷遇されるだろう。私の知ったことではない。


「待たれよ!」

「まだ何か?」


 他の護衛騎士が声を上げた。いや、服装が良いから隊長クラスか。


「部下が不用意に剣を抜いた件は詫びよう。護衛騎士としてあるまじき行動だ。上役としてしっかり指導する、それで駄目ならそこのアホは解雇する。それで手を打ってはもらえぬか?」


 なるほど、不満はあれど部下が不用意に剣を抜いたことで立場が悪くなったことを理解しているわね。どうやら隊長クラスはマトモらしい。


「受け入れるわ。そこに立ってる愚か者がどうなろうと私の知ったことではない、ネリマン子爵家の家内人事の問題だからね。私が干渉すべきでは無いわ」

「ご理解いただき感謝する。先程の一撃を見れば分かる、お前は強い、私よりもな。保護を要らないと言ったのも頷ける、パール夫人には私から説明しておく、だから安心すると良い。だが油断だけは絶対にするなよ。油断すれば強かろうが弱かろうが死ぬからな。それと貴族に対してだな。傲慢な貴族だとすぐ首を刎ねたがるからな」

「確かにそうね。では失礼するわ」


 こうしてこの場を立ち去ることができた。護衛隊長が話の分かる人で助かった。

 その後はこの旅路で問題が起こることはなかった。順調な旅だったと言って良い。


 2日後、予定通り私はパステル市に辿り着いた。

 だけど、この都市…不穏な気配がするわね。

次回は来週月曜日6月24日19:30更新となります。

これからも理を越える剣姫を宜しくお願いします。

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