3話 冒険者登録(下)
「お!帰ってきたぞ!」
「小さな英雄だ!」
「うちのパーティー来てくれ!君なら歓迎だ!」
「さっきの試合は凄かったな!」
待合に戻るなり私は注目の的だった。
パーティーへの勧誘やら何やら、もう大騒ぎである。
だから私は宣言してやった。
「私はあくまでもソロで活動する。目的のある旅の為に冒険者になったに過ぎない。だからパーティーと言う枷は要らない」
ほとんどの者は今の宣言で勧誘は諦めてくれた。
まぁ、だけどそんなもん知ったことかって奴は少なからずいた。
「いや、ソロは危険だって!考え直すんだ、ほらっ!うちなら経験を積むのに最適だよ!」
「オメェんところは使い潰す気だろ!利用されん前にうちに来い!」
あぁ、もう、こいつ等本当に馬鹿だな。私を利用しようとしてることくらい丸わかり、特に酷い奴らだ。遠慮は要らないな。
「もう一度言います。パーティーに加入する気はありません。目的への支障へのなるのであれば容赦はしませんよ」
今度は容赦なく殺気を放った。
「やんのか、このクソガキァ!」
「人の好意をなんだと思って!」
案の定殺気に反応してキレだしたわ。敵意丸出しも良いところ、煽られただけで暴走するその根性、身の程知らずなところを直さないとこいつ等は上は目指せなさそうね。さぁ手を出してきなさい。こっちは正当防衛の名目が欲しいのよ。
「おい!そこまでにしろ!女の子虐めて何が楽しいんだ!お前等のところに行きたくないって言ってるじゃないか!しかもちょっと挑発してきたからってそれに乗るとかお前等大人か?どうしてもって言うんなら相手してやる。来いやっ!クズども!」
どうやら4人組のベテランパーティーが介入してきてくれた。彼らは私の前に立ち私を殴ろうとした冒険者たちと対峙している。こいつ等はそこそこ強そうね。
「君、大丈夫?怖くなかった?」
さらに優しいお姉さん冒険者2人が私の方に来てくれた。
まぁ介入は要らなかったんだけどね。でもありがたく受けておこう。
「え?アイツ等のどう見ても弱いわよね?全然怖くないよ。むしろ手を出してきてくれれば正当防衛になるからボッコボコにしてもそこまで怒られないしね。でも来てくれて助かってるわ、あいつ等をブチのめす手間が減ったから」
「この子、結構ヤンチャね…」
「無理しちゃ駄目よ〜?喧嘩なんて良いことないんだから」
「と言うか、あいつ等、さっき博打で負けてなかったっけ?」
あぁ、なるほど、賭けに負けたのを私のせいにして私に働けと言いたいね。ただの自業自得じゃない、まぁこの手の輩は言っても聞かないから相手するだけ無駄なのよね…。
これは大人しくしていた方が良さそう…。それはそうと馬鹿どもは止まらなさそうね。実力差も測れないなんて冒険者としてどうなのって思ってしまう。
私を庇って出てきた男性4人は彼らより強い。姿勢を見ればだいたい分かるものなんだけど…。
ドカッ!
あっ!やっちゃった。これはボコボココース確定したわね。
「邪魔だ、どけ!そんなにやられてぇんか!」
「やったな…覚悟しやがれ!」
男同士の取っ組み合いが始まった。うん、私が出ない方が良さそうね。
「うおー!」
「イケイケー!」
「やっちまえ!」
外野は完全に盛り上がってる。と言うか熱が冷めていないから余計盛り上がってる…。これ、普通にやばくなってきたわね…。仕方無い、チクリをしますか…。
「あれ?何処行くの?」
「ギルド職員呼んで来る。あれ、放置しておくとどうにもならなくなるわよ」
「それはそうね…」
「私たちも一緒に行くわ。今のあなたを1人にしておくと危ないからね。さぁ行きましょう」
うん、確かに絡んでくる馬鹿が出てきてもおかしくない。馬鹿どもが落ち着くまで同行をしてもらった方が安全ね。
「お願いします」
「良いよ〜。可愛い子が襲われても目覚めが悪いからね」
受付に向かったらちょうどライセンスカードができたタイミングだったらしい。とは言ってもライセンスカードは後にせざるおえないけどね。
「ジャンヌさん、ちょうど今完成しましたよ。こちらがあなたのライセンスカードになります」
「うん、ありがとう。それとちょっと待合で問題が起きてて…」
「?」
案の定、受付嬢が眉をひそめ首を傾げてた。その様子を見て一緒に来てくれたお姉さんが説明してくれた。
「ここからは私が説明するわ。ちょっとガラの悪い冒険者がこの子を脅してね。今は庇って入った別の冒険者と喧嘩になってしまってます」
「え!?ちょっとマスター呼んできます!」
そうして受付嬢はギルドマスターのグフタスを連れて来た。
「何が起きたかはある程度想像がつく、とりあえず現場に向かうぞ」
そのままグフタスに連れられて喧嘩が起きてる待合に戻った。
喧嘩を見るなりグフタスの雰囲気が変わった。文字通り激怒している。
「オメェ等!何しとんじゃあ!」
グフタスが怒鳴りつけた。あまりの大声に多くの人が怯んだ。逆らう者はいない、怒鳴りつけるだけで黙らせるとは流石は歴戦の武人である。
「んで、無理な勧誘してたクズは誰だ?先に手を出した馬鹿は何処のどいつだ?」
「両方ともあの4人です」
「おぅ、分かった。テメー等全員こっちに来い、喧嘩してた奴ら全員だ」
ほとんどの者は従った。
と言うか一見理不尽である、が、現行犯で目撃者多数なら話が変わる。確実な情報収集を行った上で指導方針を決めているのだからある意味合理的なやり方である。
しかし1人だけ、諦めきれない者がいた。
「なんでお前の指示に従わなきゃなんねぇだよ!こっちの話だろ」
「テメーは冒険者ライセンス剥奪してブタ箱に送ってやる!」
「なんだとぅ!死にやがれ!」
賭けに負けて大損こいた男がキレた。なんとギルドの建屋の中であろうことか不必要な戦闘目的で剣を抜いてしまった。もう完全に赦されることはない。もう殺されても問題にならないレベルのやらかしだった。
「ほう、実力行使に出たか」
「私がやるわ。私も頭にきてるの。ぶっ殺しても問題ないわよね?」
「ちょっと待て、確かに被害者の嬢ちゃんがアイツを殺しても問題はないが…、いやそういう問題じゃないぞ!」
私が刀を抜こうとしたその瞬間、電撃魔法が飛んできた。そして剣を抜いた男に命中した。男は麻痺して倒れた。流石にこれにとどめを刺すのは些か問題がある。誰かにちゃちゃを入れられたようだ。
それにしてもかなりスマートな鎮圧方法ね〜。関心関心♪
「貴女、血の気が多いのね。剣を収めたところを見る限りヤバい娘ではないことはわかるけどね」
何事かと思ったら私の斜め後方に一人の女性魔道士がいた。
「これからは安易に抜いちゃ駄目よ〜」
私に釘を刺して彼女は元の椅子に戻っていった。
麻痺した男は他の冒険者がギルドマスターの指示を受け、身ぐるみを剥いで禁制品とかの類がないかとかを検索して衛兵に突き出していた。
私を庇って喧嘩した冒険者たちは1週間の冒険者ライセンス停止とハルタルから出る事を禁じる処分が下りた。
私に無理矢理勧誘を迫った冒険者にはライセンス停止1年の処分になった。まぁこいつ等は引退するしかないだろうね。
そして私は被害者であり、手を出さずに終わった為、一切お咎めは無かった。
何がともあれ無事に冒険者ライセンスを手に入れる事ができて良かったわ。




