2話 冒険者登録(中)
どうやら待っている間に人が増えてきたわね…。どうやら注目されてるようだった。
「あの槍千本のグフタス自ら手合わせするらしいぞ!あの少女一体何者だ?」
「え?ギルドマスターが!?こりゃ見に行くしかねぇ!」
「うちのパーティーに入ってくれないかなぁ?」
「うおおおおぉ燃えてきたアアアァァァ!」
気付いた冒険者たちは大騒ぎしている。やめてちょうだい。
「俺は槍千本に賭けるぞ!」
「そりゃそっちが勝つだろうな。体格を見れば一目瞭然だろ。特別登用されるような腕でも流石に勝てんよ」
「だったら俺は大穴のあの子に賭けてやるぜ!」
うわぁ…賭けの対象にすらなってるよ…。まぁ破産しても私のせいにはしないでね…。
「え?特別登用?」
「しかもギルドマスターが見極めるって何しでかしたんだ?」
「将来有望だな」
事情に気づいた人たちも面白げにこちらを見ている。ここのギルドマスター、予想はしてたけど相当な人物ね…。
「ハッハッハッ!若いもんは血の気が多いのぅ!さぁあいつ等の熱気が冷めん内にやるぞ。こっちに来い!」
そうして私はギルドの訓練場に連行されていった。折角だからあの3人にも見せてあげたかったなぁ…。
訓練場に着くなり私はグフタスと向かい合った。彼は異名通り槍使いだった。使ってる槍は大身槍だった。しかも大身槍にしても刃渡りがやたら長い。つまり特注武器である。そんなもん出てくるなんて思いもしなかった。この爺さんなかなか変わった武人のようね…。
「刃は潰してある。恐れることはない、さぁ来いっ!嬢ちゃんの実力、見極めてやる!」
いや、特注品の槍の刃を潰してるのか…。なんというか勿体ない…。
「刃は潰してあってもその槍を使う槍使いはちょっと怖いわね。まぁこっちから仕掛けさせてもらうわ」
とは言ってもグフタスは槍を正面に構えてる。狙いはカウンターと見て良いだろう。突っ込んできたところを突き刺す上手くかわそうとも斬撃を浴びせるつもりなのだろう。グフタスの見た目通りの贅力ならかなり厄介ね。さて、どうやって懐に潜ろうかしらね…。
まずは槍の穂先を無力化するか…。
私は躊躇うことなく突っ込んだ。無論予測通りグフタスは私に突きを繰り出してきた。予測通りなら避けるのは容易い、小柄なのを利用して避け、その穂先に刀を振り下ろした。
目的は穂を低くすること、そして突きの直後に繰り出されるであろう斬撃を阻止するためである。
でもどうやら刀だけでは地に穂先を落とすには足りなかったらしい。私は足で槍を踏みつけて穂先を地に縫わせた。
どうやらグフタスは後退しつつ弾かれた槍を振り上げて斬るつもりでいたらしく、槍を踏みつけられたことで予定通りに動けずバランスを崩しかけた。
私はそれを見逃さず飛び込んだ。しかし、グフタスの復帰の方が早かった。彼の体にも身体強化がかかっている。流石に手強い。
「ッ!」
「まだまだ動けるわい!」
槍で叩かれ打上げられた私は空中での体勢変換を余儀なくされた。
仕方無い、魔法を使うか…。
「むっ!浮遊魔法か、そんな便利なもん隠し持っていたとは…」
「無くてもなんとかなったかもしれないけどね!流石に真面目にいきます!」
「これで本気じゃないとは…どんな底知らずだ…」
浮遊魔法を使ってる間は反動を受けやすい為、物理攻撃の威力が少し下がってしまう。槍を避けつつ着地するとそのまま踏込みグフタスの首を目掛けて刃を振るった。が、間一髪で防がれてしまった。
「ぬぅッ!」
そのまま私は弾き飛ばされた。
「上手くいったと思ったのに…」
「危うかったな…これは老骨には厳しいが仕方あるまい」
雰囲気が変わったことを察した。今度はグフタスの方から仕掛けてきた。
「ぬんッ!」
凄まじい速度で突きが繰り出される。ちょっと捌くのが大変だ。一歩間違えれば普通に突き刺されるわ…。これが、この高速の連続突きが、彼の異名たる槍千本の由来ね…恐ろしい。
流石に捌くのが辛くなってきた私は弾かれた形をとって距離をとった。
グフタスが追撃の為にかけてくる、私も迎え撃つ為に駆け出した。ここで決める!
私は滑り込むように鋭く突き出された槍の下を潜り抜けると槍を掴み槍を無力化した。そのまま槍を支えにして腹に蹴りを食らわせグフタスを倒した。
その瞬間、周りにいた冒険者たちが大きな歓声を上げた。
「うおー!良いぞぉー!」
「すげー!マジすげー!」
「まさか槍千本が新人に負ける日が来るとは…」
なんとか立ち上がったグフタスはなんとも痛そうにしていた。
「ふぅ…まさか儂を倒そうとは…問題はなかろう。C級での特別登用を認めよう。いだだだだ…」
「年寄りなのに無理をするからですよ!ギルドマスター!自業自得です!」
「ミノちゃん酷いのぅ…」
「ジャンヌさん、すみませんがもう少しお待ち下さい。特別登用認証のライセンスカード作成に少し時間をいただきます」
「分かったわ。ギルドの待合で待ってるわ」
しかしグフタスは待合に戻ろうとした私を止めた。
「待て、お主の剣術、どこで習った?」
「気になるかしら?」
「当然だ、ここ数年でまったく話を聞かぬ流派の剣術だ。この国では完全に絶滅したと思われていた剣術だぞ。一応尋ねるが、お主は一体何者なのだ?」
「少なくとも他国の間者ではなく、純粋なこの国の人間とだけ言っておきましょう。これに嘘偽りは無いわ。まぁ私の事情に巻き込まれたいのなら人払いをした上で話すことはできるけど、どうする?」
「ほう、特殊な事情だな。まぁ良い、冒険者になら秘密の1つや2つ、誰でも抱えておる。詳しくは問わぬ」
「あら?あっさり引き下がるのね」
「人払いをした上でなら話すと言ったからだ。人には安易に話せぬが、人を選び場所を選べば話せる事がわかったからな。それで今は十分だ」
「話は終わりね。私は待合に戻るわ」
こうして私の力を見極めるための模擬戦は終わり待合に戻ることができた。
グフタスの大身槍の設定ですが、刃渡り約三尺、柄が大体五尺半という想定です。
まさに超人グフタス!




