35話 害獣大繁殖
帰り道、やっぱりと言うべきか魔物の群れに遭遇した。まぁ王都周辺の在来種でザコな小型の魔物なだけマシと言えばマシなのかもしれない。遭遇した相手は、耳が刃になっているウサギの魔物、リッパーラビットの群れだった。
ただ魔力濃度が高いせいか、その数も恐ろしく多い。その数およそ250羽、明らかに異常な数だった。数が多ければ多いほど耳の刃を避けるのは難しくなってくるのがこの魔物の特徴とも言える。見た目は可愛くとも洒落にならない魔物だった。
「怖っ!」
「これ、いくらなんでも多過ぎるでしょ」
「足元に注意しないとね…」
「王都周辺が荒れ地になる前に駆除せねばならんな…」
「ウサギしかいない…なんなんだこれ?」
このウサギ、背丈の低い草が好きで作物の芽を食べてしまったり、毒が含まれてる糞で大地を汚したりするので普通に害獣なのだ。見た目は可愛いけどね…。
この群れ、群とは言うものの統率はあまり執れていないらしい。こちらに気づいた20匹程がかけてきた。
「ピュイピュイ!」
スパッ!
サクッ!
20匹なら大したことはないのでリーネの風魔法とリンネの矢だけで蹴散らされた。
「この群れ、どうしましょう?流石に人数少なすぎて危ないですよね…」
「少しずつ削るにしても何処かで気づかれるから限界あるし…」
フリードは1つの策を思いついたようだった。
「リーネや、水魔法で我らの周囲を泥濘化できないか?」
「なんでなの?」
「あのウサギは泥での機動力は落ちる、ならば機動力を失ったところならば斬れるであろう?」
「わかったの!」
リーネは魔法で私たちの周囲を泥濘化させた。これで囲まれても大丈夫だ。
水魔法に気づいた200羽を超えるリッパーラビットがこちらにかけてくる。何の仕掛けもなしにあの群れとぶつかれば私たちは斬り刻まれていただろう。
しかしウサギたちは何も考えず突撃し泥沼に嵌った。先頭の50羽近くが後ろからの突撃で尻を斬られ絶命した。
「あれ?」
「後ろの個体が勢い余って前の個体を殺しちゃったみたいだね」
「こんな同士討ち見たことない!」
盛り上がってるのもつかの間、ウサギたちもおかしいことに気がついたのか迂回を始めた。それでも私たちの周りは泥だらけなので迂回を試みた個体も多くが脚をとられたようだった。結果迂回した個体もかなりの数が事故で死んでいった。
そうしてるうちにもリーネとリンネが遠距離から数を減らしていた。
仲間の死体を乗り越え、泥の中を必死に進み泥濘帯を越える直前にはウサギたちは46羽まで減っていた。
ただ泥濘帯は乗り越えたものの分散しているので近接戦でも仕留められる程度でしかなかった。
「征くぞ!一気に仕留め上げろ!」
フリードの号令で一気に斬り込んだ。
私もフリードに許可をとって斬り込んだ。
まさに一方的な戦いとなった。
5分もしないうちに全てのウサギが絶命した。一匹を除いて…
その一匹は急に巨大化した。デビルソードラビット、なんと群れの長はリッパーラビットに偽装する上位種のより危険なウサギだった。
コイツは硬い表皮と毛を持ち、鋭い牙と鋭い爪、岩すら切り裂く切れ味と破壊力の耳を持つウサギである。もはや見た目は可愛くない。
「いやはや、まさかこれがボスだったとはな…」
「何このウサギ…可愛くないんだけど…」
「こんなサイズを変えれる魔物なんて聞いたことないよ!」
「この子、嫌な予感がするの!」
リーネやツバキの言うことは事実だ。コイツは全身凶器がいっぱいある上に、体毛ですら体当たりの速度によっては普通に殺傷力を持つ。そして本来王都周辺では見かけない、グランリア周辺にしか生息していないはずの魔物なのだから。まぁサイズが変わる魔物はこれ以外にも沢山いるから気にしてはいけない。
あ、うん、でもこれは確かに戦いたくない相手ね…。皆が怯えるのもよく分かる、わかりすぎて嫌なんだけど…。
さて、如何にして戦うか…。
そういえばコイツは臭いに弱かったわね…。
確かポーチに…あったあった!匂い付きの煙玉!
これを使えば…。
ポイッ!ポシュッ!ポンッ!
「くっさーい!」
「何使うんですかー!」
うん、なかなか効くわね…。この臭さは確かにキツイ…。
でも効果はバツグンだった。
ウサギはもがき苦しんでいる。
フリードもグレンもマリンもこんな酷い隙は見逃さない。ただやはり3人とも辛そうだ。
前脚が切り落とされ、呆気なく頭を砕かれ絶命した。これでデビルソードラビットに率いられたリッパーラビットの群れ、総勢246羽の討伐が完了した。
うん、いろんな意味でこんな戦い二度としたくないわね…。二度とね…。
この後は在来種のザコが時々来たくらいで済んだ。あの臭いは一定時間で消えるので便利な便利だった。あの臭さはやはりキツイけど…。
王都の門を通り、冒険者ギルドに向かった。
私たちが入るなり道がすぐに空けられた。すぐに受付まで行けたのは楽だったわ。朝の騒動はかなり大きかったらしい。顔から汗が滝のように流れてる人もいる。何もしなければ私たちは手を出さないのにね…。
「アリシア殿下とドリビア子爵の御一行ですね。今回はどの様な要件ですか?」
「ふむ、幾つかあるがな…。まずは彼女たちについてだな。彼女たちの護衛依頼は問題なく完遂だ。規定の報奨金を支払ってやってくれ」
「分かりました。白い徒花の皆さん、こちらにどうぞ」
白い徒花の4人組は大金を受け取って喜んでいた。
ただ、フリードの顔は暗くなった。
「ド、ドリビア子爵?どうされましたか?」
「あぁ、悪い報告をしよう。新たにデビルソードラビットが出現した。しかもリッパーラビットの群れの長としてな。だが弱点がないわけではない。奴の弱点は臭いだな、悪臭に滅法弱い」
「あ、悪臭ですか…」
「悪臭だ。顔を顰めるのも分かるがな」
そこでこっちを見ないでほしい…だって仕方ないじゃん!
「悪臭に弱いとは言っても仕留められるわけではない。つまり何らかの攻撃でとどめを刺すことが求められる。その意味が判るな?」
「えぇ…想像したくありません」
「ならば良し!それと今回の訓練で狩った魔物も次いでに頼みたい」
「あ、ハイ!分かりました!」
次々と魔物が引き取られていく、それは良い、余りにも多過ぎる。
「いつになったら終わるのでしょうか?」
「うむ、もう少しかかりそうだな」
「はぁ…これでは皆残業確定じゃないですか…」
「ご苦労」
全ての素材を引き取り終わった頃には既にギルドの通常窓口は終了の時間だった。余りにも長過ぎて他の窓口の担当が集まってきて仕事を手伝っていた。
「はぁ…ようやく終わりました。合計で30692ムルですね」
受付嬢たちの目が完全に死んでいる…。確かにこの残業は辛いわね…。
「ご苦労さま、これは無理を言ったお詫びです」
そうして私は飾りに使っていたサファイアのネックレスを贈った。今回は壊れても良いように王族が普通使わない様な安物にしたけど、壊れることもなく傷がつくこともなかったので贈るには丁度良かった。ただ受付嬢の顔は一気に青ざめていたけど…。
「あら、ミリー!良かったじゃない!ネックレスを下賜されるなんて!」
「羨ましいわ」
あの受付嬢はミリーって言うのね。なんか凄く弄られてるわね。
流石に遅すぎてお腹も空いたので夕食は外の大衆酒場で食べてから王宮に帰った。久しぶりに庶民の食事を摂ったけど懐かしかったわ。帰った時間が遅くなったこと、酒場で夕食を食べてきたことで物凄く怒られた。特に酒場で食べてきたことは暗殺のリスクから推奨はされないし、それが遅くなった原因と思われたらしい。実際は多過ぎた素材の売払に時間がかかり過ぎだけなんだけどね。
因みにお金は単純に山分けになった。
今月も理を越える剣姫を宜しくお願いします




