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27話 狂剣の花

「さて、よく来てくれたわね。瑞匠の弟子、ヤツスナ殿」

「あんな詩を持ち出されりゃ出ざるおえん。あの詩は師の至高の客が師の前で読んだ詩だ。お前、一体何者だ?何故知っている?」


 少し殺気を感じる…

 あまりにも無礼な物言いに後ろに控える侍女達は切れる寸前だった。私が待ての合図をしなければ即座に手が出そうな雰囲気だった。


「その詩を知っているが答えなんだけどね」

「おかしなことを言う奴だ。彼女は死んだ、大厄災で殿を務めてな」

「私だって驚いてるさ。まさかこんなことになるなんてね」

「何が言いたい?」

「少し待ちなさい」


 私は侍女達を外に出るよう命じた。

 彼女たちは困惑していたが退出させた。

 過去を知られるのはリスクになる。


「召使いどもを部屋の外に出して何を話したい?」

「さて、残歴転生と言うのは知ってる?」

「フンッ!あんなもの神官共の出鱈目に過ぎん。信ずるに値しない」

「まぁそうでしょうね。私も実体験を伴うまで神官の出鱈目だと思ってたからね…」

「何?」


 困惑が見て取れる。

 追討ちをかけてやろう。


「信じられないなら模擬戦でもしてみる?」

「頭でもイカれてるのかと思ったがな。まぁ良いだろう。打ち合えば見えるものもある、剣技に嘘は無い」


ーーーーーーーーーー


 模擬戦の承諾を得た私は彼を騎士団の訓練場に通した。

 因みに騎士団長のお説教じみた抗議は右から左へと流した。彼が反対しようとやるつもりだから。


 私達は模擬戦用の木剣を手に取り、向き合った。


「見せてもらおうか、剣技は嘘をつかぬ」

「そうさせてもらうわ」


 先手は私がとった。


「荒々しい剣だな」


 私は初手から大振りをお見舞いした。

 彼はそれを一歩横に動いて避けると横ぶりの一撃を放ってきた。私はそれを木剣で受け止めた。


「なかなかの剣技だな」

「お褒めいただき光栄です!」


さらに私達は剣を合わせ続けた。


 そうしてる中で余裕ぶっていた彼の顔が少しずつ変わっていく、まるで化物を見るかのような目をしていた。そしてその動揺は剣技にも現れていた。


「迷いがあるわね」

「確かにその技術を以てすれば見破れるか…懐かしい感覚だ。未熟だったあの頃を思い出す」

「あなたは言ったわよね。剣技に嘘は無いと」

「あぁ、言ったな」


 模擬戦の様子を観てた騎士たちは驚いていた。

本来剣を握ることの少ない王女がこれだけ打ち込めてるのは異常だ。普通は打ち込んでいるうちに体力が尽きて倒れる。しかし私はこっそり行っていたトレーニングのお陰で王侯貴族の女性としてはかなり体力がある上に、身体強化魔法で負荷を軽減してるので難なく出来てしまう。

 さらに言えば驚く対象は私だけではなくヤツスナもだった。そもそも彼らはヤツスナのことを戦士ではなく鍛冶師、戦闘技術の無い人間だと思い込んでいたらしい。しかし鍛冶屋シュウソウは相手を見極めて商売をする。見極める手段の1つに模擬戦が含まれている。故に彼も剣術は相当な腕前だった。


 騎士たちから見てもかなりハイレベルな模擬戦と言っても過言じゃなかった。


「そろそろ本気で往く!」

「おいおい、マジかよ!」


 私は身体強化のレベルを引き上げた上で手加減を止めた。

 ヤツスナに「狂剣の花」と知らしめるために、そしてこの模擬戦に勝つ為に!


 空気が変わった。

 私の攻勢は強まりヤツスナは防戦一方になり始めた。

 騎士たちがドン引きしている。


 私はヤツスナの木剣を払い、そのまま首に剣先を突きつけた。

 私の勝利が確定した。


「ハハハ…ハハハハ…参ったわ。トーイス流に違いねぇ!見間違えようが無いわ」

「でしょう?話は部屋でするわよ」


ーーーーーーーーーー


「さてと、これで文句は無いでしょ」


 部屋に戻るなり開口一番に言ってやった。

 因みに今も部屋にいるのは二人だけだ。


「あぁ、文句はねぇよ。俺があれを見間違える訳が無い、あれは狂剣の花、アンの剣術だ。まさか神官の出鱈目が本当だとは思わなんだ」

「なら言いたいことは分かるわね?」

「あぁ、刀の製造は請け負う。大太刀と打刀それぞれ一振りで良いな?」

「頼んだわ」

「それと…良いのか?長時間召使いどもを放置して…」

「そうだったわね」


 私は侍女達を呼び戻した。前世の話をしないのなら聞かれても問題はないはず…。


「内密にするべき話は終わったわ。あれを出してちょうだい」


 戻ってきた侍女のうちの1人に命じて一通の手紙を持ってこさせた。


「これを渡しておくわ。帰ってから読みなさい。内容は内密にね」

「わかったわかった、後でゆっくり読ませてもらうとするか」


 言い終わると彼は意を決した様にこちらを見てきた。話があると踏んで促したらマジックバッグから布で覆われた一振りの剣を出した。

 布の覆いを外すとそこにあったのは折れたかつての私の愛刀だった。


「大厄災の後、竜に突き刺さり折れたこの一振りがうちの店に届けられてな、剣を研ぎ一振りの刀として再生して御守にしていた。だが、これはお前が持つべきだ」

「良いのですか?」

「あぁ」


 侍女が代わりに愛刀を受け取り私の前に置いてくれた。

 実に36年ぶりに私の下にこの刀が還ってきた。そう思うと感慨深いものがあった。


 前世の私は10歳で冒険者になり5年でC級になった。我流の剣術に限界を感じて1つの道場に出入りするようになった。それがトーイス流の道場だった。当時は打刀を使ってたけど、若手らしく派手な大剣には魅せられていた。

 トーイス流を身につけ、一定の技量を持った頃、私はそこそこの実力者になっていた。当時18歳、自身のトレードマークとなるような装備を探していた。そこで出会ったのが鍛冶屋シュウソウの先代モリトナだった。

 彼は正に職人の中の職人だった。芸術家が真の芸術を求めるが如く、武芸者が武芸の極みを目指すが如く、彼は武器作成に生命をかけていた。切掛は何処かの酒場で意気投合したことだった。親しくなり友人となった。彼とは生涯の付き合いとなった。そうして打ってもらったのがこの大太刀だった。それから死ぬまで約10年間、私はこの剣を振るい続けた。

 狂ったように若い女が大剣を使い、狂ったように敵を切り裂き、華々しく花のように美しく活躍する。そうして付けられた異名が「狂剣の花」だった。そう、武器が異名とトレンドとなったのだった。


「この剣は…もしかして『大輪花』?」

「あら?あなた知ってるの?」

「はい、親に止められて王宮の侍女にされてしまいましたが、昔は冒険者に憧れてたんですよ!しかもこれは『狂剣の花』と呼ばれたアンのトレードマークですよ!特に憧れてた冒険者の装備を知らないわけがないじゃないですか!」


 どうやらここにいた侍女は前世の私のファンだったらしい。地味に嬉しい。


 この後は円満に話が続いて代金を支払いお開きとなった。

 ただヤツスナは騎士団の詰め所に連行され御用工房を押し付けられそうになっていた。無論押し付けと言う喧嘩を売るような行為に対してその書類をその場で破り捨てると言う完全に喧嘩を買うスタイルを見せつけていた。

 彼曰く


「量産に意味は無い。その様な商法は儲けたいものにやらせれば良い。俺は良い剣を打つことを信念としている。それを求める客もいる。あいつ等を裏切ることは出来ない」


 とのことだった。


 商売人として職人としても完成された論理だった。

私の依頼を受けてる以上牢屋にブチ込むわけにも行かず彼は解放された。

 騎士団長は非常に悔しそうな顔をしていたが…。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

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