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50話 統率された混沌

 ツタカキの大洞は案内役を買って出たベテランさんの言う通り鬼系の魔物ばかりだった。


 見渡すばかり、ゴブリンやらオーガやら見たことのない鬼種やら……。

 何がなんであれ系統がほぼ統一されている。


 まぁ迷宮とはそういうもんだ。ただ深い階層は少し違ってくるけどね。


「ん?なんだコレ?幻惑かな……」

「おい!ソイツはメヒトツだ!1つしか無い目から幻惑の魔法を放ってくる厄介な奴だぞ。掛かったら簡単には抜け出せねぇぞ!」

「ふーん、なるほどね」


 幻惑と言いつつ、視覚と聴覚にしか影響が無いので、魔力探知は惑わせないらしい。なので私にとっては見失うことは無い。


 魔力探知で探ってサクッと斬り捨ててやった。


「おい!大丈夫か!」

「問題ないわ、倒せば影響も消えるのね。確かに対策とれない人にはキツいけど、その特殊能力さえどうにかできればただの雑魚よ」

「おいおいウソだろ?」


 実際に鬼系として明らかに遅いし、力も弱い。だから脅威になりえない。そんな奴はハッキリ言って問題にならない。


 他にも御当地魔物はいる。というか、大半が御当地魔物だった。しかも御当地魔物は鬼系しか居ないという偏りっぷりだ。


「あれは人食鬼だな。食べた人に化ける特性を持っているぞ。化けられると見分けるのが難しいから特定危険種に指定されてるぞ。この辺にしか生息しない上に個体数も少ないから知られてないけどな」

「悪腕までいるぞ。腕の本数が多い分、手数が多いから気をつけろよ」


 人食鬼は顎が強いらしい。他は普通のオーガとあまり大差は無いけど顎と化けると言う特性が恐ろしい。噛みつかれないようにすれば良いけど。


 悪腕は腕が左右それぞれ5本もあるもんなぁ……。

 これは一本づつ潰していくのが正解かな?初めて見る魔物だけど、10本の腕が成す手数は馬鹿にはならないことはすぐに分かる。


「まったく、この地域特有の魔物が多過ぎて嫌になるわ」

「これは精神的に辛いですね」


 冒険者としてキャリアを持つ私とアステリアは既にウンザリしていた。当然逃げるわけにはいかないけど、ここまで初見の魔物が多いのは辛い。


「恐らく魔族は強めの魔物や厄介な特性を持つ魔物を迷宮内に残してるな」

「あぁ間違いない、大方魔族を守り抜く為だろう」


 ん?


 ちょっと待って、ベテランたちが言うことが本当なら迷宮の外に出てきていた奴等は弱めの魔物だったってこと?


「本来なら迷宮で起こるスタンピードではその迷宮に現れうる魔物が満遍なく出てくる。しかし今回はそうではない。間違いなく奥には魔族が構えているだろう、でなければ説明がつかない」

「しかし何故地域特有の魔物が多いのでしょう?」

「アステリアと言ったな。お前さんは知らぬだろうから説明するぞ。この国にしか生息しない魔物の大半は特殊な能力を持つ個体なのだよ。魔族もそれは承知のはずだ。それにお前たちの存在も問題だ」

「つまり、この国出身ではない私たちの存在を嗅ぎ付けたってこと?」

「これまでの流れからしてその可能性が高い」


 アステリアや私の疑問に対する回答は的を得ている。確かにその通りかもしれない。


 今回の戦いでは既に何度か魔族と遭遇している。

 その時の情報を魔族同士で何等かの形で共有していたのだろう。


 勿論こちらの手札が全部知られてるとは思えないけど、こちらの情報を持っていると言うのは非常に脅威だ。少なくとも戦い方を再考する必要があるかもしれない。


「一度退却するしか無いわね。情報不足のままで突き進むわけには行かないわ。少なくともこの迷宮で現れうる魔物の情報を把握しておきたい。殿は私がやるわ」

「分かった」


 退却に向けて私以外の全員が少し下がった。


 退却時は私が使う大魔法で後方を吹き飛ばしながら退くことになっている。これも事前に取り決めておいたことだ。


「しかし4階層でリタイアか……まだ半分も進めていないぞ」

「今の状態でここまで進めたのなら十分よ。再突入は明後日、私たちがしっかり知識をつけた後にするわ。次はもっと効率良く戦えるからもっと先に進めるはずだわ」

「あぁ、そうだな」


 退却は進むよりは遥かに楽だ。

 後方にいる魔物の数は前方に比べてかなり少ないからだ。まぁそれでも普段の迷宮よりはかなり多いし、魔物一体一体の強さは上ではあるけど……。


 それでもここの迷宮の適正ランクはCとされており、全員がC以上なので危うげなく戦えており、苦戦してる様子はない。当然と言えば当然だけど。


「おい!味方も魔物の密度が減ったのに合わせて前に出てきてるぞ」

「後少しで退却完了だ!ガキ共!最後の一押しだ、踏ん張れ!」


 殿として撃破している魔物も外に出ていた弱めのものが増えてきている。どうやら退却はほぼほぼ終わったようね。


「おい!戻ってきたぞ!」

「どうだった!」


 私たちを発見した味方からだ。


 下がるところまで下がってから誠実に全てを話した。


「そりゃ残念だったな。こちらの想定を越えてきてるわけか。仕方があるまい」


 悔しい、慰められるような目線を向けられるのは悔しい。


 次は確実に突破する。こんな目線は懲り懲りだ。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

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