46話 実力
「えへへ」
「えへへじゃありません!ここに来てくれたことは感謝しますが、その自分勝手なところをどうにかしなさい!」
突如として私の前に現れたナミと言う少女、どうやら自制心の効かない存在だった上に、無駄に行動力があるらしい。何を仕出かすか判らない危険な存在だね。
遭遇したあの場では彼女のことをどうするかは決められなかったのでそのまま司令部まで連行することになった。
そして司令部で事情聴取が行われ、その結果姫将軍がプンスカ怒っているわけだ。
私としては彼女とはあまり関わりたくない、でもある意味近い存在である為、私の与りになりそうな気がするんだよね。聖気を扱うのは輝巫女も聖女も変わらない。輝巫女は聖人の一種なのは確実だ。
「姫様、彼女の動向はともかく、来てくれた以上は戦力化するべきかと」
「はい!結局実践が一番の学習方法ですから異議はありません!」
「貴女が答えてどうするのよ……」
本人はやる気満々らしい。良いことなのだろうけど……はぁ……。
あっ!そうか!
「街の守りは任せる。私は打って出るわ。彼女も魔族に対抗できる力があるのだから、街の防衛と反攻は両立できるはずよ。だったら突破力のある私の方が反攻に適しているわ」
「え〜、私も一緒に行きたい〜」
「駄目!戦力構成を考えなさい!余裕は無いわよ」
本当は一緒にいたくないだけ何だけどね。
でも実際に余裕は無い。聖人であり、魔族に効く聖気を扱えるアステリアやレインはまだ強いとは言えない。一般的な冒険者としてならば十分な実力と技術を身に付けているのは認める。でも魔族が相手では明らかに実力が足りておらず、魔族と相対すれば二人がかりでも長くは保たないだろう。
でもここにもう一人、それなりの戦闘力を持ちつつ聖気を扱える人材が入れば魔族と戦っても対抗は出来ると考えている。私としては彼女にその枠に入ってほしいと考えている。
彼女の実力次第ではそうはいかないのは分かってるけどね。
「レイカ殿下、1つ良いでしょうか?」
「えぇ、構いませんわ」
「我々はナミ殿の実力を知らない。戦い方を合わせられない者に背中は任せられません。ナミ殿の実力を測る機会を要求します」
私が確認する前にレインが動いたか。
彼もようやく戦闘というものが理解できるようになってきたわね。まぁそれだけ私との旅路はそれ以前より遥かに過酷な日々だったのは間違いないんだろうけどね。
「えぇ、確かにお互いの戦い方を理解しておくことは重要なことだわ。隅々まで確認してもらって大丈夫よ。彼女の才能は個人の戦闘面だけじゃない、勿論そちらもだけど実力は保証するわ」
ほう?期待しても良いのかな?
ーーーーーーーーーー
結局彼女の取扱いは決まらなかった。というのも彼女の実力を正しく理解していたのは姫将軍だけであり、軍高官たちもその真価を知らないらしい。そもそも面識が無い者ばかりだそうだ。
よって作戦立案する上で重要な情報が欠けていると判断され、彼女の実力把握が最優先とされた。
この国の神官や巫女が扱う聖気の業を道術と呼ぶらしい。当初、輝巫女としての実力を測るために道術の実演を行ってもらう予定だった。しかし姫将軍の「彼女の道術は強力よ」の一言で不要の扱いとなった。その代わりに剣術や魔法もできると本人が言った為にそちらのテストを行うことになったのだ。
剣術は模擬戦で見るらしい。
それ自体は良い、だけど私を超える実力者がいないらしいく、そのまま私が相手することになった。
はぁ……。
「いきなり手合わせ願えるとは僥倖です。その胸を借りさせていただきます」
既に模擬戦用の魔道具は装着済だ。
これなら斬られることがないので真剣で全力で戦うことができる。
故にこの獰猛な笑みとこの台詞だ。
こちらは無言で頷き構えた。
こちらに合わせて彼女も太刀を構えた。太刀の装飾は鞘を含めて少なく武骨で実用的に見える。少なくとも神官や貴族に見られる見栄は感じられない。これは本当に強いのかもしれないわね。
先手は譲った。
相手を観察するのなら受ける側に立つほうが都合が良い。
最初の一手は上段からの袈裟斬りだった。
選択は順当、このくらいなら避けるのも難しくない。剣筋は鋭く、確かに良い斬撃だ。初心者ではありえない一撃、姫将軍が実力を保証したのも納得した。
左に避けたところで振り抜いた刀を取って返して振り上げてきたので刀で防いだ。何と言うか、剣筋は良いけど型通りっぽくて読みやすく順当な気がする。もしかしたらこの子、実戦経験が少ないのかもしれない。
何度か打ち合ったことで予感は確信へと変わっていった。この子、実戦経験は少ないどころか下手すれば皆無かもしれない。こちらが余裕な様子を見て焦ってるし、戦い方が綺麗過ぎる。
そろそろ試してやるか。
一度間合いを離し大きな打込みを誘ったところ、案の定誘いに乗ってきた。
最初の一撃に匹敵する斬撃を避けると同時に足元に蹴りを入れてやった。
「ゔっ……」
蹴りに対応できず大きな隙を見せたところでこちらから首元に刃を振り下ろした。
実戦では武器だけが攻撃手段とは限らない、体術等も織り混ぜて戦うのが普通だ。当然不意を撃つような悪辣なやり方も使われる。
「カハッ……」
もう十分かな。
「実戦経験が乏しいわね」
「師匠が外に出してくれなかったんです〜」
それは言い訳でしかない。口には出さないけど。
周囲から聞こえてくる評価も似たようなものだ。
筋は悪くないけど実戦経験が乏しく、不測の手に弱い。それが結論のようね。
しかしコレをどう戦力化させるか、難しい課題になるかもしれない。今は戦時中であり、短期での戦力化を図らなければならないのだから。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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