43話 軍の懸念
「まぁ仕方があるまい、戦死で軍令違反は隠蔽するしかなかろう」
「いや、それよりも複数の魔族が確認されたことの方が問題でありましょう!」
「彼女の運用方針を改めるべきだ!あの突破力を巧く活かせばスタンピードの早期集結を狙える」
私は帰還して早々に司令部に呼び出され軍議の場で今日の戦果を報告した。
その結果がこれだ。
司令部に詰めていた軍の高官たちの議論が紛糾したのだ。あまりにも処理すべきことが多過ぎて先に進まない状況に陥ってしまった。……この際戦死した軍令違反者の始末は後にしろや。
個人的には魔族が複数確認された時点でその対策を強化すべきだと思う。私一人ではやれることに限界がある。その点、この国には独自の魔族対策があるので、そちらを重点的に押し進めるべきだ。
幸いにして魔物の攻勢は私が2体目の魔族を撃破して以降、弱まっていると報告が上がっていた。
しかし、ここで決断を下せる人物は沈黙を貫いていた。
「姫様、如何致しましょう。このままでは埒が明きませぬ。ここはいっそ姫様に……」
しかし当の姫将軍は何も答えない。右手で頭を抑えながら溜息をついていた。多分考えが纏まっていないわね。情報が多過ぎて困るのは理解するよ。
とは言ってもこの状況では何も進展しない。
仕方がない、助けを出してやろう。
「さて、皆さん。私一人の身では出来ることに限りがあります。御存知の通り今回の偵察において、私は予定より早く戻ってきています。それも限界点が近づいていたからです」
この軍議の参加者全員が私を向いている。沈黙を破る形になったので注目を浴びてる状態だ。まぁ目的通りでしかないんだけどね。
「たった魔族1体、たった1体なんです。それだけで私は消耗したのです。あの時、追加の魔族が現れていたら私は死んでいたでしょう。私が単独で処理できる魔族の数には限りがあります。まずは魔族対策を固めるべきです」
まずは魔族対策、それが私の意見だ。
大きな武功を挙げた私の発言は重い。皆が真剣に考え出した。
「しかし社は今回の件には消極的です。連中は『魔族が後方に現るなど決してありえない』等と言っております。果たして神官や巫女が来てくれるでしょうか?先に明らかなところから決めるべきかと」
「こればかりは先送りに出来ない。幸い死体は確保できてる、証拠としてはこれ以上のものは無いわ。これを見せて文句言うほど社とやらも愚かでは無いと思うけど」
「奴等の事だ、何かと言い訳をしてくるんだろうなぁ……やってられん」
「何にせよ積極的になるとは思えんな」
どうやら社に対する軍人たちからの評価は非常に低いらしい。先程から否定的な意見が多数を占めている。もはや社に接触するだけ無駄と言わんばかりに……。
ここまでの言われるってことは過去に何かやらかしてるわね。単に派閥闘争に近いものかもしれないけど、少なくともこの国では宗教勢力と軍部の相性は最悪だと言うことは判った。
ここで姫将軍の方に顔を向けると目があった。
何故か助けを求めるような目線を向けてくる。いや、アンタが責任者でしょ……。
仕方がないのでこちらから促してやったらようやく話した。
「私も魔族対策が最優先と考えていたわ。ただ、社を如何にして頷かせるかが問題よ」
やはりそれが問題らしい。
「極端な解釈になっても良いから縛り付ける事が可能になるような法は無いの?」
「無いわね」
無いのか。
後使えるものと言ったら……あっ……!
「社とチバンガの繋がりってどうなの?強い繋がりがあれば私の名が効くかもしれない」
「え?確かに表沙汰にはならないけど交流は盛んですわね。ある程度の立場なら向こうの知識も豊富と聞きますが……」
十分だ。
聖人、それも大聖女、それも神使となるような私からの密書を受け取ってどう動くのかは試してみる価値がある。西の聖人がどういう扱いになるかは分からないけど無下にはしないと思う。
「なら私が手紙を書きましょう。関係があるなら十分です。大聖女である私の名であれば通用するかもしれません」
「貴女、隠してたのね……」
驚きの目をそこら中から集めることになった。一人だけ呆れの目線を向けてる人がいるけど……。
「流石に上級聖人の言の葉ともなれば少しは期待出来るだろう」
「武に長けた聖女とは聞いておったが、まさか大聖女であったとは……」
「いや、何故大聖女ともあろう者がこの国にいるのだ?チバンガがよく出国を許したものだ」
部屋がザワザワしだした。
だけど参加者全員が多少は希望を持った。
どうやら上級聖人は社での扱いが変わるらしい。
とりあえず社は私が受け持てそうね。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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