41話 死闘
どうやら月曜日の投稿を忘れていたみたいです。申し訳ありません。
先手は取られたけどその動きは追える。
繰り出される拳を躱して至近距離で聖気を叩き付けた。
しかしこれも読まれていたようで闇の魔力を編んで形成された盾で防がれ、追加攻撃として回し蹴りを入れてきた。
無論、回し蹴りを避けることも受け止めることも出来ないので飛ばされることで受け流し、反撃として『リバーフレイム』を放つことで対抗した。
「ぬぅ!」
奴は先程と同じく放出型の攻撃に対して闇の魔力で盾を作り防いできた。邪気は敢えて使わないらしい。確かに邪気だと聖気で易々と貫けるからね。
でも今回に限っては意味が無く、結果は盾の縁から漏れだす形で炎が拡散され、その魔族を焼くことに成功した。読み通りだね。
使用したこの魔法は正直あまり好きじゃない。だけどこれを選択したのには理由がある。それは盾対策だ。
この魔法は水が流れるが如く炎が流れる魔法である。しかし問題点があり、とにかく魔力の消費量が馬鹿にならない。そもそも複雑で発動するのも面倒な上に必要な魔力量も多い。この魔法は継続的に発動し続けることで効果を最大限発揮できるのだけど発動しているだけで魔力を消費すると言う問題もある。
まぁこんな魔法でも痛い思いはさせられても大きな傷は与えられなかったはずだ。
「クックック……まさか我がこの程度の魔法如きで傷を負うとはな」
「やはり不意討ち程度にしかならないか……」
魔族とは何度か戦ってきてる。
当然と言えば当然だけど、どいつもこいつも文字通りバケモノばかり、簡単に勝てる相手では無かった。
だけどコイツは今まで戦ってきた魔族とは全然異なる存在だ。異質、戦い方や感性が完全に他の魔族と比べて異質なのだ。戦い方も独特で訓練の末に身に着けたと思われるものだし、感性も何と言うか人間に近い。
バケモノ並の力を持つ人間と戦っているような感触、あまりにも気味が悪過ぎる。
「いや、かつて我が大いなる存在より祝福を受け、人から魔族へと至ってより長らく傷を付けられることはついぞ無かった。今この時までな。魔族やかつての我の同類と常に向き合うこの国の者共ですら我を捉える事もできずにいた。だが異邦より来たお前は我に傷を与えてみせた。実に愉快だ」
コイツ、頭がオカシイんじゃないか?
「あぁ、生きてる感触がする。久しく味わってなかった感触だ。礼を言う」
かつて人だった、だけど今は魔族、そんな存在がこの世に存在したとしてもコイツは危な過ぎる。感性がおかしい人間ほど犯罪に走る。仮に人間だったとしても生かしておくわけにはいかない。
武器を変えようにも隙がない。どうしたものか。
「お前とは正面から戦いたい。準備は良いか?まだなら少しは待ってやる」
「まさか魔族からそんな言葉が出るとはね……」
「何、我の美意識だ、気にするな」
ならばありがたくその隙を利用させてもらおう。
大太刀をマジックバッグにしまい、代わりに礼の太刀を取り出した。
その上で聖気を体内で循環させる。より効率良く使えるようにするために。
本来なら戦場でこんなことをしている暇はないんだけど、敵が待ってくれるならこちらも万全の体制で行こうじゃないかしらね。
「ほう、見たところ加護持ちとやらの武器に持ち替えたか。持っていたとは驚きだ。それに同種の力を循環させたのも想定を越えてきたな。そもそも巫女どもが前に出てくるところなど初めて見たぞ」
「巫女?知らないわね。私は聖女よ」
「巫女を知らぬとはな。恐らく聖女とやらは巫女と同種なのだろう。どの程度やれるか楽しみにさせてもらおうか」
やはりコイツ戦い慣れてる。経験も豊富だ。初見で何をしているのか見抜いてきたと言うことは対処法も考えてあるのだろう。ここまで知ってるのは想定外だった。
とは言え別の手は存在しない。対策されようともこのまま最高の状態になって戦うしか無いのだ。
それでも勝てるか怪しいけど。
準備を整えたところですぐに動いた。この状態では先手を取るしかないのだ。準備を整えたことを知らせるのは愚策、向こうに先手を取らせればその瞬間に弱点を突きにくる。
それを防ぐ為にも先手を取るのだ。まぁ後の先を構えてる可能性も高いけど先手を取られるよりはマシだ。
太刀を上段に構え、袈裟斬りの姿勢を取る。
これは単純かつ高威力の攻撃と見せかけるのが主旨、本命は敵の自由を奪う『氷散弾』だ。
幾ら聖気の対策をしていようと私の上段からの袈裟斬りは止められるとは思えない。しかも助走の勢いも乗ってるから尚更高威力なのだ。そうなると奴は避けるしか無い。カウンターを仕掛けようにも相討ちになる可能性が高い以上、生き残るためには避けるしか無いのだ。
避けた先には『氷散弾』が炸裂し、氷漬けにすることで動きを奪う。
それが私の策だ。
「でりゃああぁぁああ!」
「チィッ!」
予想通り奴は私の斬撃を避けた。苦い状態なのに楽しそうな顔を見せながら。
そして反撃の体勢へと移行したところで本命が飛んできた。
「何ッ!?」
全ての腕、羽、脚を氷漬けにしたのだ。もはや反撃どころではないのは明らか。すぐに追加の斬撃を与えて左腕一本と羽を斬り落とした。
奴は腕を斬り落とされたのとほぼ同時に凍りついた脚で無理矢理跳んで距離を取ってきた。
「グ……。まさか全力の、一撃必殺としか言えない斬撃が囮とな!面白い!強くなりすぎたと思っていたがそうでは無かったようだな!」
痛みを堪えながら笑顔を向けてくる様子は気味が悪い。さらに厄介なのは奴の体から魔力が溢れていることだ。奴も本気の本気で戦うつもりなのだろう。それだけの強敵と認めてきたのは判る、判るが余計に面倒な状態になった。
溢れる魔力と邪気が闇の波動として周囲を吹き荒れる。
「お遊び半分じゃあ、話にならねぇ。体の自由を奪われた今、本気を出しても勝てるかは五分にも満たねぇ。こんなのいつ以来かねぇ……」
「まだそんなこと言ってる余裕があるとはね」
こっちも強がっておかないと格好がつかないし、虚勢でも張っておかないと相手を勢い付けることになりかねない。柄じゃないんだけど……。
確実なのは奴の方が私より強いと言う事実と、奴は自由に体を動かせないことだけだ。どちらが優位かは何とも言えない。拮抗していると言うべきなのだろう。
ただ、動けるのは私だけである。こちらから仕掛ける他無い。
魔法を使い吹き荒れる闇の波動を淀め、太刀の斬撃と魔法で攻め立てる。無論聖気も織り交ぜての猛攻を仕掛けた。
それに対して奴も魔法だけで応戦してくる。
幾らマトモに動けないとは言え、アレだけの魔力量と高過ぎる戦闘技術を持つ存在だけあって強かった。まさに一進一退、私の魔力もただの一騎討ちとは思えないほどの恐ろしい勢いで減ってるし、奴は私以上に消耗しているはずだ。
簡単には追い込めないのは承知だ。実際になかなか勝負が決まらない。
そんな激しい激闘にも終わりは訪れる。
切掛は奴の腕一本が凍結状態から脱し、動かせるようになったことだった。
「クックックッ……運は我に味方したようだ」
腕の凍結状態が解けたことを理解した私は咄嗟に距離を取った。
魔族の体は硬い、その皮膚を貫くのは難しい。
奴は行動を変えてきた。
腕を犠牲にして身を守るようにして攻勢を強化してきたのだった。
「ぐっ……」
遂に私の方が押されるようになったのだ。
「オラオラッ!どうしたんだ!?さっきまでの威勢はよぉ!」
相変わらず私の魔法をボロボロになった腕で防ぎつつ煽ってくる。本当に腹立たしい奴だわ。
その時ふと気が付いた。
レインがやっていた技ならどうか、と。
私自身でやったことはない、でも不可能なわけでは無い、現に彼がやれてるのだから。
試してみよう。
魔力に聖気を混ぜつつ術式を展開した。聖気と魔力、本来は混じりにくいこの2つの力を練り合わせて使うのだ。調整は難しい。
太刀で防戦を始めることとなった。
攻撃を削げきれない、傷が増えていく。それでもなんとか術式の構築には間に合った。ぶっつけ本番で成功したのだ。
「ハァッ!『シャイニングバースト』ッ!」
光系の魔法なら比較的聖気との相性は悪くない。
あまり使わない魔法だけど今回ばかりは選択肢がこれしか思いつかなかった。威力も十分、光系の魔法であり、比較的単純な術式の魔法だ。
「無駄だぜ!……グハッ……」
奴は聖気に気が付かず腕で身を庇ってしまい、腕が砕けて体までボロボロになっていた。
「ば、馬鹿な……」
「成功して良かったわ……」
「そうか、そういうことか。完敗だ。我の首を持っていけ、アドクウ家のシャペルの首だと言えば良いだろう。さっさと首を落としてくれ」
これも彼の美意識なのだろう。
「介錯はするわ」
抵抗すること無くこの魔族は死を受け入れたのだった。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
次回は11月7日金曜日更新となります。
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