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40話 突撃

 姫将軍が到着して3日後、遂に準備が整った。


「本当なら貴女には前に出ないでいただきたいのですけど……」


 彼女は私を軍に引き入れることに未練があるらしい。

 それでも私が打って出る利を理解して止めはしなかった。


「あくまでも行けるところまでしか行かないわ。流石に今回は単騎で行かせてもらう。あの子たちでは着いて来られないはずだから」


 今回は単独行動を採るしか無かった。


 レインやアステリアどころか、グレンでも今回の私の戦いに同行するのは少し難しい。敵の軍勢の真ん中を遡っていくようなものだ。こんなのをやれるのは大魔法を連発できる私ぐらいだ。


「これから出るのか」


 私たちが話してるところにやってきたのはウィルスだった。

 明らかに重武装、私と共に出撃するつもりだったと見える。


「いつでも行ける」


 予想通りだった。


「貴方、自分の実力を理解していて?」


 止めたのは姫将軍だった。

 厳しい目を突きつけている。


「捨て駒を要する情勢ではなくてよ。確実に犬死すると分かってて送り出すほど私は愚かではありませんわよ。彼女だけで行ってもらうのも彼女だけなら生還可能と判断したからですわ」


 言葉こそ貴族女性のものだけど言ってることは軍人のソレそのものだ。


 騎士志願である以上は軍事については知る必要がある。犬死と捨て駒の違い、残酷だけど理解してもらうしか無い。今の彼では大事な仲間や自分を犬死させてしまう。


「え……?」


 仕方がない。

 まだ彼はこの道を本格的に歩み始めて日が浅い。理解できないのも致し方無い。

 介入しよう。


「今の貴方では今回の作戦には致命的な足手纏でしか無いの、まずそれを理解しなさい。騎士志望なんでしょ。個々の力量を見極め最適な戦術を組む、それも騎士の仕事なのよ。良い経験になるわ。彼女から色々と学びなさい」

「え?私に押し付けるのですか?」


 最後の一言に姫将軍が驚いている。


 押し付けと言えば感じは悪いけど、今回ばかりは私が近くに居れないし、見学するだけでも十分学べるからね。無理に世話をしろとは言っていない。


 冒険者志願の子もいること、そして世話しろとは言っていないことを説明したら納得してくれた。


「では彼等は私が預かっておきますわ。しっかりと躾けておきます。軍に入ることを望む子にはその意味を徹底的に叩きこまないといけませんわね」

「済まないけど頼むわ」


 ウィルスを姫将軍に預けて私は前線へと足を向けた。

 彼女のことだ、宣言通りあの二人は徹底的に躾けるだろうね。帰った時が楽しみだ。


 眼中には兵士たちが魔物とぶつかっている風景が広がっている。兵士が増えたことで休息を取りやすくなったのか士気は低くない。果敢に戦い戦線を維持しているのが判る。これなら私の支援がなくてもある程度は保つはずだ。


「どこまでやれるかしらね?」


 まずは道を切り開く。行けるところまで行くにしても道がなくては進めない。確実に進める道を構築しなければ押しつぶされてしまう。


 派手に蹂躙していこう。かつてバルテシア王国軍を蹂躙し『流炎の虐殺者』と呼ばれる切掛となったあの時と同じ様に、全てを焼き流す。


 まずは駆け出した。

 走り出さなければ始まらない。

 眼の前の兵士を追抜き先頭へと躍り出た。


 さぁ始めよう。

 複数の魔法を展開する。単純な『爆炎球』に始まり、広範囲を焼くことに特化した『フレイムウェーブ』、さらには無差別に破壊の炎の雨を注ぐ『バーニングスコール』まで用意している。


 これらの魔法は発動されると同時に圧倒的高火力で攻撃範囲の魔物どもを滅ぼし尽くす。


 しかし一度発動して終わりではない。

 何度も発動し戦場を蹂躙し焦土へと変えるのだ。


 焼き尽くしながら進もうと炎に耐性のある魔物は稀に生き残る。とは言っても爆発に巻き込まれたりして無傷なわけではない。

 そんな魔物は抵抗される前に大太刀で斬り捨てて進む。


 前に、そして前に。

 焼き尽くして斬り捨てて進む。


 これが対集団における本来の私の戦闘スタイルである。

 神の加護を受け、前世で培った技術を活かし、今世で磨き上げた魔法を最大限活用した、現時点で私にしか出来ない突破攻撃だ。


 一気に突き抜けていくうちに覚えのある感覚に包まれた。


「やはりいるわね」


 予想していただけに驚きはない。だけど方角は迷宮の方から少しズレている。もしかしたら複数残っているのかもしれない。


 私が優先すべきは魔族の討伐だ。スタンピードの収束も大切だけど魔族は現状私にしか倒せない。なので進路を迷宮の方角からずらし、魔族の方へと変えた。


 進路を変えたことで魔物との遭遇は減った。

 どうやら魔族の護衛はいないらしい。


 こちらとしては好都合だ。

 魔族ほどの強力な敵を相手にしている状態で雑魚までは構っていられない。


 魔族の気配がすぐそこまで迫る頃には魔物の気配は全くしない。それに向こうもゆっくりとこちらに近づくように動き始めている。


 つまり一騎討ちだ。この前倒した奴とは違い自信があるのだろう。


 そして不意打ちとかはなく正面から魔族が姿を現した。


「ここまで来るとは、このシャペル、感心した。いや、アイツがやられている時点で想定すべきだったかな?アイツは慎重過ぎるところが祟ったのだろう」


 恐らく野営地に偵察に来た奴のことを話してるのだろうけど確かに慎重過ぎた。


 それに正面からこんな話をするなんて不意討ちは効かないと理解しているのだろう。それにすぐ仕掛けてくるわけでも無さそうだ。


 このシャペルとか言う魔族は良くわからない、あまり大胆には攻め込め無いか。


「名乗れ、興が湧いた」

「ジャンヌよ」


 名乗るくらいなら問題はあるまい。


「ほう、面白い名だ。姿を見れば判る。やはり西の者であろう。あの地は我等が救世主の眠る場所に近いのだったな。お前の首を手土産に墓参りに行くとしようか」

「生憎死ぬつもりは無いのでね」


 敵が笑みを深めると同時にこちらも臨戦態勢に入った。コイツ、魔族としては本当に変わり者なのかもしれない。


「そうか、始めるとしよう」


 その台詞と共に向こうが先に踏み込んできた。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

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