39話 軍議
「最前線は氷漬けで一段落と……これ、危ういのではありませんか?所詮は足止めに過ぎないのですのよね」
「まぁもう少し保つとは思う。アレはそんな短時間で対処しきれるような甘い魔法じゃないわ。それにここでの会議が終わったら別の魔法で粉砕してくる予定よ」
姫将軍からの評価は最悪の事態からは逃れたものの情勢は好転していないというものだった。
彼女は氷漬けにした魔物のほぼ全てが生き残ってると予想したらしい。
だけどアレだけ派手に凍り付かせれば即死する個体も少なくないはずだ。それに体温低下や氷から発せられる魔力波で衰弱しする可能性も十分にある。最低でも3体に1体は確実に死滅しているでしょう。
正直私もこの環境では読み切れないけどね。魔族の動きが読めないから。
兵力に関してはこれから増える予定だ。
元々のこの街の戦力が1500程度、最初に来た公爵軍を中心とした初期の救援軍が1500、国から総大将を命ぜられた姫将軍と一緒に先行してきた手勢が500、彼女の指揮下でまだここに到着してない主力部隊が約3000、既に総勢6000を超える兵力が確保できている。それに増援は他にもいるらしい。既に国単位で動いてることが判る。
小規模なスタンピードなら500も動員すればなんとかなると言われてる。
流石にこの規模だと数千単位で動員しても押し負けることはあるけれど、都市城壁という地形的優位性があるのでそれを考慮すると数的には足りそうな状況だ。
それに私のこともある。大魔法の使い手を戦力として数えられる以上はさらに優位に戦闘を押し進められることが想定される。
とは言え、私がグレイシア王国の王女と知る彼女は私は城壁の上から攻撃すればよいと考えてるようだった。はっきり言えば他の援軍が到着降るまでは基本的に籠城して戦うつもりらしい。まぁ完全に封鎖させるつもりはないらしいけど。
「どの道打って出る必要があるわ。守勢に徹せればではジリ貧、打開を図る必要がある。だから私は打って出るわよ。大本の魔族の脅威に対処するためにね」
「確かにジリ貧だけど……って魔族ですって?」
「既に魔族絡みなことは解ってるわよ。私が一匹始末してるからね」
「これはしくじったかしら、流石に魔族などという存在は想定外よ……。社に圧力かけて神官や巫女を動員するべきだったわね……」
ん?この国の神官やら巫女は魔族に対抗する力があるのか。こちらとしてはそっちの方が驚きだわ。
「しかし魔族なんて厄介な存在、神官や巫女無しにどうやって倒したのかしら?」
「お忘れかしら?私は聖女よ。聖気を扱う聖人は魔族に対して有効な攻撃を繰り出せるわ。流石に聖気無しで戦えと言われたら私では少し厳しいかな」
「あぁ……そうでしたわね。って聖気無しで魔族倒せる算段があるの!?」
「倒せないことは無いと思う。以前、実際に戦ってみて思ったことだけど、極めて壊れにくい素材の武器さえあれば可能性はあるわ。それこそ伝説とかそういう次元だけど少なくとも不可能ではないわね」
まぁ聖気無しで勝とうと思ったら余程強くないと無理だけどね。因みに今の私ではほぼ不可能だ。
体が成長すれば話は変わってくるけどやりたいとは思わない。そんな賭けは絶対にやりたくない。
「魔族は極力こっちで引き受けるつもりよ」
「わかったわ。流石にあんなバケモノの相手はしたくない。他国の王族を前に出すなんて考えたくもないけどそうも言ってられないわね」
彼女は不承不承ながらも私が打って出ることを認めてくれた。しかし……
「私は反対です。今からでも社に戦力を出させるべきでしょう。他国の王族ならば前に出すわけにはいきません」
「左様、もし表沙汰になれば我らの威信は地に落ちまする。姫様、お考え直しくださいませ」
やはり反対意見は多い。
特に私の正体を知って余計に私を前に出さないようにしておきたいらしい。
「間に合うかしら?」
「は?」
「今から社に要求したとして魔族の襲来に間に合うのかしらね?」
「うっ……それは……」
「恥も外聞も関係ない、間に合わなければそれまでよ。当然間に合わなければここに居る私たち全員が死ぬわ。その意味は理解できるでしょう?」
政治的要素より情勢をよく考慮した合理的判断、そしてそれを解説し周りを黙らせることにも成功してる。やはりこの姫将軍、只者じゃ無いわね。
ボンクラだったらここで迷ってしまう。そして何も決まらない。
彼女のおかけで軍議はより効率的に進むようになった。もはや一国の王女という立場だけでは言い表せない程の求心力だ。素晴らしい。私より少し歳上であることを考えれば将として一流と言って良い。
「概ねこんなところかしらね」
「はっ!姫様の策で問題ないかと」
「あぁ、言い忘れていたわね。アリシア姫が打って出るつもりなのは止めないわ。しかし私の指揮下の部隊が到着するまでは打って出るのは認めません」
あらら、止めると言い切られてしまった。
とは言え、言いたいことはわかる。この街の護りを強化してから攻勢に出てくれってことでしょ。その部隊も明後日には到着するらしいので、それを待ってからでも遅くはないだろう。
「確かにある程度護りを固めるのは定石、必須とすら言って良い。貴女の部隊が来るまでは待つわ。流石に全てを擲ってまでやる博打ではないからね」
「分かってるようで何よりだわ」
彼女は苦笑いで返してきた。
このやり取りを最後に軍議は終わった。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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