37話 後退
私が撃ち込んだ『爆炎球』による爆発はあくまでも反撃の狼煙、そう考えていたけど、それも厳しそうだった。
「呆けてる暇は無いわ」
敢えて味方を叱咤し、爆心地に降り立った。当然煙を飛ばす為の風魔法は忘れない。
どう見ても味方は限界寸前、ならばすべきは後退の支援だ。ここで後退ても問題はない、街が完全に包囲されなければ良いのだから。
「少し黙ってもらおうか」
何をするかは決まっている。足止めの為に全てを凍てつかせるのが一番早い。
魔法を発動させると周囲一帯に極寒の吹雪が落ちてくる。
この戦場でよく使う『ブリザードフォール』は込める魔力を増やして威力を強化してやれば全てを凍てつかせる事ができる。
そして今回は範囲もかなり広げた。大規模に敵を止めるのが目的なのだから範囲は重要な要素だ。そしてこの魔法の特性として範囲が広ければ広い程、中心部での威力が向上し、解凍しにくくなる性質がある。
「ここまで派手にやるのはいつぶりかしらね」
記憶にある中では……ワルカリアの拠点を壊滅させたあの時以来か。あの時はさらに高威力かつ高効率で魔力使用量も規格外の『厄災の豪雨』と呼んでる魔法だったわね。アレも当時は1発しか撃てなかったけど今なら2発は撃てそうな気がする。まぁやらないけど……。
「おぅ……寒い……」
「こんな寒かったか?」
「威力調節可能なのか」
「あっちはもっと寒いんだろ?ここまで酷いと突っ込む気にならねぇぜ」
おっと、威力を上げすぎてしまったわね。
確かにこの魔法は冷気を叩き付ける性質上、その冷気が拡散する。なので今回みたいに威力を上げすぎると寒いのよね。私は魔法で冷気を防いでるからいいけど、他の人たちはそうではない。
今度からは気をつけないといけないわね。
私の前方は完全に止めることに成功したけど、部隊と私の間にはまだ魔物が残っている。
ならば斬る。
反転して大太刀を抜いた。遮蔽物のない平地で暴れるなら大太刀が効率が良い。
ここで魔法を使わないのは味方を巻き込む可能性を極限まで減らす為だ。本来なら軍は「支援は全て魔法でやれ」と言うだろう。だけどそれは私が認めない。この情勢で魔法による支援は味方を巻き込む可能性がある以上は避けるべきだし、そもそもここの部隊は完全に疲弊しきってこれ以上の継戦は不可能だからだ。
それにここで部隊を壊滅させるのは戦局を一気に悪化させかねない。情報が広まれば味方の士気低下を誘発するし、人材が失われることで一人あたりの負荷が増大する。将来的にも戦死者が多いのは望ましくない。
私の実力なら魔物の背後を食い破るなど余裕だ。そういう意味でも効率は良い。
「はあぁぉぁあ!」
気合を入れ、声をあげながら魔物の背後を襲撃する。これによって味方が動くと良いけど期待はしない。
最初に目をつけた魔物は振り向いたところを綺麗に真っ二つに斬り裂いた。そして返す刀で隣の魔物を斬り捨てた。背後から攻めているという利点を活かし次々と撃破していく。
そして数分でケリが付いた。
「強い……」
「魔法だけじゃなかったのか」
「何をどうしたらこうなれるんだ……」
味方は完全に呆れ返っている。剣と魔法、その両方を高い次元で扱いこなすあり得なさを理解してるからだろう。普通はどちらかしか鍛えられないし、私と同世代でこの強さなら規格外の天才と言っても良い程だ。
これは前世を持つ私の強みでもある。
剣術は腕を落とさない程度に鍛錬すれば十分な強さがあった。その分魔法の鍛錬や勉強に時間を費やすことが出来た。
確かに神々の加護でより先天的な身体的優位性は否定できない。それでも前世と今世で積み上げられた鍛錬の成果はその戦闘技術として大いに輝いているのだ。
でも今は私と彼らの違いについてアレコレ言って暇はない。
「後退するわよ。これ以上は保たない、それは理解しているでしょ?」
「しかし……」
「ここで壊滅する方が痛いわ。それにツタカキ市の城壁の前には堀が設置されている。だから後退して戦線を立て直すべきなのよ。私は他の部隊の支援に行くわ」
ここの部隊の者たちは不可思議な顔をしつつも後退の準備を始めた。
軍令違反だけど戦況を考えれば致し方ない。
「いきなり飛びなさいでください」
次を行こうとしたところで護衛部隊の指揮官から小言を言われてしまった。
そもそも私が接近戦をするのは作戦上想定されていない。故に極力避けてほしいのだろう。
だけど戦況を考えればそうするしか道はなかったのだ。あの時既に瓦解寸前だったし。
「なら全員この地で滅ぶつもり?あのままでは確実に保たなかったわよ。選択の余地は無かったわ」
戦線が一箇所でも崩れれば終わるのだ。どちらにせよこのままでは勝てない。
「私たちが今すべきことは被害を極力抑えること、上の命令だろうと関係ない。それに刀から両刃剣まで刀剣は得意なのよ。魔法よりもね」
嘘は言わない。事実、魔法よりも刀剣の方が好きだしね。
「さぁ次に行きましょう。上の命令に反しようが私たちの最終的な目的はスタンピードの鎮静、そこを間違えてはいけない」
戦いは終わっていない。勝つためには今は足掻くべき時なのだから。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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