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36話 戦況悪化

 市内へ指揮所が移転することが決まった夜は徹夜になった。久しぶりの徹夜は非常に眠かった。体はまだ幼いらしく、転生前の体ほどは耐性はついていなかった。

 戦闘自体は大した敵も居なかったので眠たくとも何とかなった。周りからはめちゃくちゃ心配されたけど。


 そして今、


「まだ子供なんだから、無理した以上はしっかり寝ておきなさい」


 移動開始の直前に女性兵士数人によって荷馬車に運び込まれ、そのまま仮眠することになった。うん、眠たい。


「しかしこんな子供を無理させないといけないなんてね……」

「志願した、は言い訳に過ぎないわ。私たち大人が頑張るべきところなのに司令官は特段何もしなかった。夜間体制に入る前から何度も襲撃されていたのにね」

「こんな生き方ではすぐに命を落とすわ。これだけ才能を持った子を失うのは世界の損失よ。何とかして保護しないと……。皆、協力してくれる?」

「えぇ、せめてこの子が平穏な生活を送れるようにね」


 今にも落ちそうだけど聞こえているわよ。弱々しい存在と見られるのは腹立たしいわ。

 貴女方に心配される筋合はないし、使命の為に命を捧ぐのも神使として当然だから。どの道、戦いからは逃れられない。それにそもそも弱くないし。


 まぁ何にせよ使命を果たすまでは命を落とすつもりは無いけどね。


ーーーーーーーーーー


「ぐああぁぁぁ!」

「大丈夫か!今助けに……」

「おい、逃げろ!そんな余裕はないぞ」

「魔物どもが急に強くなったぞ!?奴らに一体何が起きている!」


 その頃、最前線は大混乱に陥っていた。


 日の出の少し前から魔物の攻勢が強くなって、押され始めたのだった。


 魔物の攻勢が強くなったのは、死んだ魔族から流れた魔力によって強化された魔物たちが最前線へと辿り着いたからだった。

 しかも上位種の魔物が現れたわけではない。これまでと同じランクの魔物が異常な強さを得て、そして数を増して現れたのだ。もはやこれまでの戦い方は通用せず、被害は増大。前線も後退し始めた。


「戦況は最悪だな。だが少しでも踏みとどまるぞ!指揮所が移転し、ジャンヌ殿が戦線に復帰するまでの辛抱だ!死に物狂いで戦え!」


 最前線の指揮官の一人は気炎を上げ、味方を鼓舞しながら魔物の軍勢に突撃した。


 ここで踏みとどまらなければ前線は完全に崩壊するのは誰の目にも明らかだった。街を、市民を、そして仲間を護る為にはどこか一箇所でも抜かれる訳にはいかない、そんな覚悟が彼を動かしていた。


 昨日までは善戦に善戦を重ねてツタカキ市の城壁から魔物を引き剥がすことに成功していたが、日の出辺りから一気に押し返されて城壁付近まで下がる羽目になっている。抜かれると部隊が包囲されたり街に被害が出る恐れもあるのだ。


 それに大魔法を詠唱無しでポンポン使う少女の存在は今や救世の英雄として崇められている状態で、彼女が離脱していることも士気が下がる要因にもなっていた。

 しかし希望はある。最前線への復帰の予告がされている。指揮官はそれを巧みに利用した。


「おりゃあ!」

「小隊長!」

「俺らも続け!少しでも時間稼ぐぞ!」

「彼女が戻るまでの辛抱だ」


 何とか部隊としての士気を維持して最前線に展開するこの部隊は踏みとどまっていた。



 しかし限界は存在する。

 士気が戻っても徐々に押され削られ部隊はボロボロになっていた。

 昼が過ぎ、太陽が傾き出す頃には絶望としか言えない状況になっていた。


「ぐ……これ以上は……」

「間に合わないのか……」

「捨身で削るぞ……少しでも!」


 まさに満身創痍、全員が力尽き、諦めかけたその時だった。


ドーン!


 希望の炎が炸裂したのだった。


ーーーーーーーーーー


 朝早く馬車に運び込まれて寝かされ、起きたら昼になっていた。差し込む日差しが眩しい。


「んん〜」

「あら、起きましたか?体は大丈夫ですか?」


 話しかけてきたのは私を馬車に運び込んだ女性兵士の一人だった。

 それにしてもここにいる女性兵士全員から完全に子供扱いされている。幾ら世間の成人年齢が15歳とは言え、もうすぐ12歳で冒険者として活動しているのにこの子供扱いはちょっと辛い。


「体は問題ない。前線は?指揮所の移転は終わったの?」

「どうしてそれを?」

「勿論、今回の作戦に参加する冒険者として知っておくべき情報だからよ。それに今回は対魔族戦を考慮する必要があるの。そして魔族と正面から戦えるのは私だけ、これだけ言えばわかるでしょ」

「正気なの!?倒れる寸前まで無理をして……」


 子供に頼ることに違和感を感じるのは理解する。でも敵は子供がいるからと手は抜いてくれない。子供でも戦えるなら戦うしか無いのだ。生き残り勝利するためにはね。


「私は逃げるわけにはいかないの、人類の未来のために。この戦場もそう、魔族が関わる戦場で高い戦闘力を持つ聖人が逃げることは赦されない。貴女たちが答えないなら私自身で確認してくるわ」


 それが私の答えだ。


 馬車はまだ動いている。外を見る限りではまだ街の城壁の中には入っていない。

 私の乗せられた荷馬車は後ろの方だったので先頭は既に城壁内部の市街地に入ってるはずだ。この時点で移転はほぼ完了と見て良い。尤もどこまで私が拘束されるかは不透明だけど……。それと馬車の外で活動している兵士たちの様子がおかしい、どうにも楽観視できないわね……。


 やはり私の予想は当たったのかもしれない。



 しばらくして、市街地内部の展開予定地に辿り着くなり私はすぐに司令官に呼び出された。


「すぐに前線に出てほしい。今朝からどの部隊も押されて後退しつつある。戦線の維持が困難になりつつある。頼めるか?」

「やっぱりですか……一番の激戦区は?」

「迷宮の方面だ」


 悪い予想は的中した。


「すぐに出ます」

「待ちなさい!」


 止めてきたのは私の世話をしていた女性兵士たちだ。私を前線に出したくないのだろう、でもそうは言ってられない。


「前線が崩れれば立て直しは効かない。出るしか無いわ。貴女たちは下がってなさい」


 そう言い残して私は前線へと向かった。

 それを見て私と一緒に動いていた全員が動き出した。止まってる余裕はない。



 辿り着いた前線は酷いものだった。

 崩壊寸前、ギリギリだったわね。


 さぁ反撃を始めよう。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

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