34話 予想外
今回の魔族戦、初手は決まっている。
風の大魔法である『デストロイトルネード』は破壊の暴風の渦である。単純な吹き荒れる風に加えて風の刃が暴風の中で暴れるという破壊に特化した大魔法である。
この魔法を使うのは風の暴威で木々を薙ぎ払い、仕掛けを乱して魔族の策を砕くのが目的だ。
魔法を発動させると途轍も無い風が吹き荒れ、一点に集中する。一点に集まった風の塊は渦を巻くように拡散し、轟音と共に周囲を徹底的に破壊し尽くしていく。
木々が薙ぎ倒され粉々になり、仕掛けられた罠や術式が壊れていく。粉塵や黒い魔力が渦巻く暴風に漂っているのが見えた。
「あの黒い魔力は魔族の魔力か」
仕掛けられた術式が壊れたことで魔族の魔力が流出、黒い靄として実体化したのでは無いかという考えは合ってると思う。正直こんな事が起こるなんて驚きでしか無い。
「ぬぅ……」
暴風の渦の中から呻き声が聞こえてきた。
魔族でもこの暴威は苦しいらしい。自身が苦しいだけではなく仕掛けも破壊されて、魔族としては踏んだり蹴ったりだろう。こちらとしては好機でしかないのだけどね。
暴風が晴れるとそこには傷だらけの魔族がいた。
この程度の攻撃では本来なら魔族には傷を与えることは叶わない。だけど既に傷だらけなのだ。
「罠を張って待ち構えていたがまさか裏目に出るとはな……」
答えは魔族が口にした。こちらを怖い瞳で睨み付けながら。
魔族の魔力が暴風に巻き込まれたことで魔族のやたら高い防御力を越えることが出来たという見解は正しいと思う。これは私としても予想外の事態であったけど嬉しい誤算でもある。
因みに魔族の姿を見て二人はすぐに身を隠した。二人では狙われてはマズイからね。
私も秘蔵のカンナ鋼製の太刀を構えて戦闘態勢に入っている。聖気を漲らせ、魔族の攻撃に備えることも忘れない。既に戦闘は始まっているのだ、ただ両者共に出方を伺ってるだけに過ぎない。
対峙する中で先に焦れたのは魔族だった。傷付いた翼を広げ飛び立つ体制に入った。当然私の方を警戒し、私が飛び込んで邪魔できないように戦闘用の魔法を幾つか展開している。
飛ばれると厳しい、そう感じたけど杞憂だった。
「ぐあぁっ!」
なんと魔族は飛び立つことに失敗したことでバランスを崩し、前のめりに倒れたのだ。
良く見たら羽もボロボロだ。飛行能力を発揮できなかったのは羽がやられているからだろう。
バランスを崩して倒れたことで魔法はキャンセルされている。好機は逃さない!
一気に駆け寄り、太刀を上段から振り下ろした。当然外すわけもない。
しかし……
「ぐっ……」
なんと転げてる状態から結界魔法で身を守ってみせたのだ。なんて奴だ……。
「何とか防げたか……何重にも備えはしてたが全く無意味だな」
「あら、わかってるじゃない。そこまで理解できてればわかるでしょ?アンタを滅ぼすわ」
「ふん、守勢が死への道筋ならば手を打つまでだ」
え……?
ここで攻撃魔法!?
まさか、魔法で自爆するつもり……?
本当に洒落にならないわね……。
すぐに飛び退いて『防御結界』を張った。これは巻き込まれたら危な過ぎる。
何とか退避は間に合ったけど、少し遅れていたら大怪我していたわ。
飛び退いた瞬間に闇の瘴気が起こり、爆発したのだ。本当に巻き込まれていたら即死だったかもしれない。自分自身が頑丈だからって捨て身の自爆攻撃は予想外にも程がある。
「まさか……ね……」
「この状態では堪えるか……」
自爆をしてよりボロボロになった魔族が煙の中から出てきた。羽はもはや機能していなさそうだし、そこら中から出血もしている。よく立てているなと感心する程の負傷だ。
敵ながら見事な精神力だけど赦す理由にはならない。これ以上は生死に関わるだろうから自爆も無いと考えて良い。だったら斬り込むまで!
「斬り込んでも無駄だ!我が肉体は斬り裂けぬ!」
「どうかしらね?」
ボロボロの腕で防ごうとしているけど、聖気を持つ武器には意味はあるのかしらね?
カンナ鋼製の太刀を振り下ろすと盾代わりの腕が綺麗に切断された。
「ぐああぁぁぁ!」
魔族は恐怖と激痛に襲われているのか急に叫びだした。と言うか叫び声にも魔力が混じってるせいか私もくらくらする。これ、一種の攻撃として成立してるよね。
魔族は必死に痛みを堪えてるらしく、こちらを睨み付けながらも震えている。
もはや魔族は動くことはできない。
「これで終わりよ」
動けない敵などただの置物、外すなんてありえない。アッサリと首を切断して討伐完了した。
「ふう……手間が掛かったわね。……ん?」
でも異常事態はその後起きた。
魔族の死体から膨大な魔力が湧き起こり、何処かへ流れていった。
あの方角はまさか……
「迷宮の魔物の強化?もしく復活でもするの?」
ちょっと考えたくはないわね。最後の最後までしっかり抵抗されるとは思わなかったわ。
「大丈夫か!」
レインが慌ててこちらに寄ってきた。
「魔族の気配が消えたと思ったら急に魔族の魔力が暴発して……」
「膨大な魔力が迷宮に流れていったわ。すぐに戻りましょう。今は情報が欲しい」
すぐにアステリアとも合流し、三人で急いで野営地へと帰還した。
私が魔族と戦っている間、二人は遠距離から魔法や聖術で援護をしてくれていた。今思えば魔族が飛べなかった一因はそれかもしれない。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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