33話 慎重な魔族
「もしレインがダメそうならレインを引き連れて退却して」
「まぁそうなりますよね」
醒め止まぬレインを見て一つの決断を下した。
興奮して醒めなかったらレインは下げるという決断だ。アステリアはその御目付役になってもらう。腕力だけならアステリアの方が上だし。
二人の実力ならば、いないよりいた方が手数が増えるのでこの場にいてもらった方が言いの良い。だけど興奮して醒めないともなると話が変わる。
興奮している状態では正常な判断ができない恐れがあるからだ。
特に今のレインは興奮して好戦的になっている。明らかに調子に乗って危険な状態だ。油断しているとも言う。
なのでいざという時には退却してもらう。何やらレインは文句を言ってるけど認めはしない。
そして討伐する上で肝心の敵となる魔族の位置はほぼ変わっていない。つまり攻めるのは危険と判断して迎撃の姿勢をとっていると言うことだ。つまり策を弄せば勝てると思われているので慎重を期さねばならない。
「さて、魔族は迎撃を選んだみたいね。何もせず待機してるとは考えにくい、罠とか仕掛けて待っていてもおかしくないわね。どうする?」
「魔族が罠ですか……聞いたことのない話ですね」
「知能が高い以上はその様な高度な手を使ってきてもおかしくはないだろう。我々は魔族のことを侮っていたのかもしれない。過去に例が無いからと可能性を排除してきたのは人類の失態だな」
魔族が罠を使った可能性というだけでレインの顔が引き締まったよ……。最初からそうあってくれ。
それはさておき、危険要素が多いと二人も判断しているようだった。討伐しないという選択肢は存在しないけど、安易な突撃はできない。下手すれば全滅も十分に考えられるからだ。
「敵の動き、周辺状況は五感や魔力探知で常に気をつけておくべきだろう。でなければ奇襲を許してしまう」
「でしょうね。探知はレインに頼むわ」
「あぁ、そうする。戦闘に関しては俺とアステリアではお荷物だろうしな。接敵直前で離脱する」
「離脱後は周辺の警戒に注力します」
接敵までの流れは決まった。
ハッキリと二人は自分たちを足手纏と認めたのも大きい。それが理解できるだけでも十分だけど。
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道中に罠はなかった。道中に仕掛けても無駄、とでも予測したのだろう。しかし魔族の周囲には妙な魔力反応がいくつか存在する。つまり罠を含め、仕込んだものは指定した戦場で刃を交える際に使用するものだと想定できる。
魔族は素でも身体スペックが非常に高い、その上で小細工までしてくるのは本当に厄介だわ……。
「本当に小細工仕込んで待ってやがった……」
「うーん、纏めて吹き飛ばして炙り出すのが早いかな。先手も取れるしね」
「ですが罠の性質が分からない以上は迂闊な手は打てないのでは?」
かなり近い位置にいるけどまだ動きがない。なのでこちらから仕掛けるしか無いのだけど、アステリアの指摘通り迂闊な手は打てない。
とは言え、大魔法で先手を打つのは不意打ちの側面もある。そしてそれに勝算はある。何故なら敵の偵察に対して敢えて大魔法を使用していない。つまり大魔法が想定外になるようにしていたからだ。
仮に私が大魔法を使ってくる想定なら魔族からしたら仕掛けてくるか逃げ出すかの2択にのる。
「仕方が無い、もう少し敵の仕掛けを探ってみるしか無いわね。問題なさそうなら風の大魔法で吹き飛ばす」
強引ではあるけど、やはり大魔法は一番確実な手ではある。安全は無視しないけどね。
ということで、まずは敵の周囲を一周することにした。動かないなら全方位から観察し、弱点や仕掛けを暴くけば良い。逆に襲ってくるならそのまま戦闘開始、後退しつつ仕掛けを使わせないようにすれば良い。どうせ仕掛けた場所で戦うことしか考えられていないだろうからこっちとしては好都合だ。
仕掛けとの距離を縮めたことで仕掛けについて、詳しいことが分かってきた。
中身は予想通り戦闘補助系のものばかりだったのだ。
麻痺させるものや、魔法の阻害に関するもの、さらには選択対象以外の生物の動きを鈍らせる代物まで仕掛けられている。他にも複数のタイプのものが仕掛けられていた。
直接的な被害を与える罠は仕掛けられていなかったのは、強者を相手にするには意味がないと判断されたからだろう。油断のゆの字も無い。
「予定通り大魔法で先手を取るわ。『デストロイトルネード』で一気に粉砕するから二人は破壊しきれなかった仕掛けの解除を頼むわ。洒落にならないほど危険な相手だから攻撃だけは受けないようにしてね。身を守ることを最優先で」
「分かってる、今の俺たちじゃ正面からでは生き残れん。それでも出来ることはするさ」
二人とも覚悟を決めてくれたわね。
さぁ戦闘開始だ!
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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