31話 指揮所の危機
「それっ!」
私は飛行魔法を使って飛び回り、『爆炎球』で味方部隊を支援していた。
『爆炎球』程度の魔法なら使える魔道士はいないことはないけど、私と同レベルの威力を出せる者はいないのだ。
「ただの『爆炎球』があの威力だぞ。ホント馬鹿げてるよなぁ。俺じゃあんな威力出せねぇや」
「黄昏れてないで戦え!戦場では気を抜くな!」
あ、私の魔法に呆然としていた兵士が怒られているわね。私はちょっと特別なのよ?それを基準にしなくても良いのにね。
「支援攻撃の着弾を確認!戻って来てください!」
「分かったわ」
護衛部隊の指揮官からの指示に従い、皆の元に降下する。
「ここまでの戦いでツタカキ市の包囲は解けたと見て良いでしょう」
「つまり都市近郊の掃討戦と迷宮方面の鎮圧とで部隊が分かれるということかしら?」
「そうなりますな。恐らく我々は迷宮方面に回されるでしょう。魔力はまだ保ちますか?」
「まだまだ大魔法は撃てるけど流石に魔力の残量も減ってきてるわ。幾らマジックポーションを飲んで回復速度を上げてると言っても限度はあるわよ。少しペースを落とした方が良い。もし接近戦を強いられた時に魔法無しだと危険性が増すからね」
「では一度指揮所まで戻りますか?」
「もう少し粘るわ。とは言え伝令は出しておきましょう。さっきも言ったけどいざという時に私が魔法が使えないのは痛いわ」
最初に護衛の指揮官と戦況について話をする。
作戦初日で街の城壁の東半分は解放に成功していた。この状態なら包囲されてる状態とは言い難いだろう。
今回の戦いでは私の大魔法による範囲攻撃で魔物の軍団を壊滅させているので討伐ペースは異常なまでに早い。辛うじて生き残った魔物も統率の取れた軍によって綺麗サッパリ刈り取られていく。戦死者も非常に少なくて済んでいるのでこの国の未来に影を落とさなくて済んでいるのだ。
「あの、一度ツタカキ市に入城するべきでは無いでしょうか?援軍による優勢の象徴に出来ると思います」
ここで意見を出したのはレテシアだった。
腰抜けの様な意見ではあるけれど、理には適っている部分もあるわね。
ツタカキ市の城門が閉じられているのは当然のことだ。
開ければ魔物が市街地に侵入してこないとは限らない。それを防ぐ為にも閉じられている。
それを一時でも開けるのは褒められた行為ではない。無駄な労力を使うことにもなる。それに入城の指令は出ていない。下手すると軍令違反に当たる。
だけど、今の情勢だと話が変わってくる。
魔物が多いのは街の西側、東側は少ないのだ。だから一時的に開けても魔物の侵入は無いと考えて良いだろう。つまり最大のデメリットは無いと見なせる。
代わって入城するメリットは籠城している市民への鼓舞となることが第一に挙げられる。これはレテシアも気がついていた。領主貴族としては正しい思考回路であり、ボールトネス子爵家の教育がしっかりしているとも言える。
そしてレテシアは気づけなかったが、戦局を考えても私が入城するのは大きな意味を持つ。戦線と戦線の移動が街を迂回する必要があるので非効率的なのだ。それを緩和できることによって討伐戦の効率化が図れる。
有りか無しかと言われたらこの選択は有りだと私も思う。
「伝令にはこの件について意見具申させた方が良さそうね」
「それをするなら指揮所も市内に移動させた方が良いだろう。本部と前線の距離が短くなればそれだけ情報伝達が容易になる。不測の事態への対処も容易になるはずだ」
「それにあの野営地は簡易的な柵しかなく防御面に不安があります。商隊の非戦闘員や指揮所を彼処に置き続けるのは危険だと思います」
あら意外、レインとアステリアは積極的に賛成するどころか指揮所の移転までさせるべきと考えてたらしい。そこまですると人手が取られるので戦線にも影響が出る恐れもあるからね。
でもあの野営地の防御力は確かに低すぎる。彼処に向けて魔物たちが動けば指揮所や商隊は壊滅してしまう。街の方が最前線だけどまだ城壁があるのでまだ護りやすい。
「分かった、伝令を出そう」
指揮官は私達の意見を聞いて伝令を出す決断をした。この言葉に嘘偽りを感じさせない誠実さが感じられた。
「伝令には指揮所や商隊も完全に市内に入れる方向で意見具申させましょう。通ったとしても、恐らくは少しづつ移転を進める形となると考えられます。一気に移転することは不可能ですからな。ひとまずもう一度攻撃をしたら休息を兼ねて野営地に戻ると報告しましょう」
妥当な見方だね。徐々に機能を移していくしかないだろう。そして人手がとられる分の埋め合わせとして私たちが赴くのも理解できる。既に一般兵だけで戦線は維持できているので私が出なければいけないわけでもないからね。
そして反対側に回って魔物の集団をもう一つ吹き飛ばしたところで指揮所からの伝令が来た。
「明日より指揮所の移転を始める。3日程の日程で市内へ移ることになった。諸君らは警備の為に帰陣されたし」
こちらの予想がものの見事に的中したわね。
これでなんの憂いもなく戻ることが出来る。
ーーーーーーーーーー
指揮所のある野営地に戻って警備を始めて早々だった。
「ん?この気配は……」
「もしや、魔物ですか?」
「確かに魔物ではあるけど……」
何やら魔族の魔力を感じた。でもある意味魔族らしくない魔力でもあった。つまりこれが意味するのは……。
「このスタンピード、裏に魔族がいるかもしれないわね」
「なんですと!?」
「魔力の気配が近づいているわ。恐らく魔族から加護で強化された魔物よ。この感じだと隠れているようだけど、近くに魔族もいるはずだわ。非常に危険だから気をつけて!」
「わかりました。貴殿らはお下がりを、ここは我々が引き受けます」
本当に真摯な指揮官ね。でも今回ばかりは考えが甘い。
「これは私の、いや、私たちの仕事よ。魔族が相手なら聖人が出るのが筋よ。アステリア、レイン、わかってるわよね?」
「あぁ、軍の作戦はおじゃんだな。魔族がいるならば修正が必要だ。俺も前に出る」
「えぇ、分かっております。武力を持つ聖人の務めは必ずや果たします。共に参りましょう」
流石は二人、肝が座っている。
指揮官?貴方はポカンとしていては駄目よ?私たちは聖人、聖人にはその務めがあるのだからね。理解してちょうだい。
「3人は下がってて、今のあなたたちでは実力不足よ」
「分かった」
「承知しました」
「魔族が相手では仕方が有りませんわね」
3人とも理解していて助かった。物わかりが悪ければどうにかしなければならなかったからね。
それにしてもここに来てこんな大物が釣れるなんて思わなかったわ。でも居ると判ったからにはやることはやらないとね。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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