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28話 軍の作戦

 軍統制下に入って一夜明けた所で私たちは軍の指揮所に連れて行かれた。


「昨日の状況を教えてもらおう」

「諸君らがここで開示する情報が今後の作戦行動に大きく影響することを念頭に置いていただきたい」


 目の前には如何にも豪華な鎧を纏う大男がいた。間違いなくここの司令官だ。そして周囲にはその側近や他の軍高官と思われる軍人が並んでいる。

 司令官の目配りを以て周りの軍人たちがこちらに問いかけてきたのだ。


 彼らの言う通り、私たちがここで話す内容が作戦に影響するのは間違いないわね。軍が到達する前に単独で立ち向かい生還した部隊からの情報は軍部にとって喉から手が出るほどに、そして何としてでも早く欲しかった情報だったはずだ。

 それこそ即日訊かずに昨晩休ませてくれたことが不自然とも思えるくらいに……。


 回答するのは商隊の代表だ。


「昨日、我々は本格的な戦闘は避ける方向で活動しました。偵察を最優先事項とし、奇襲と離脱繰り返す形の戦闘行動を実施しました」

「詳しく話せ」

「スタンピードとしての規模はかなり大きいと思われます。既にツタカキの都市城壁は完全に包囲されております。魔物の密度が濃く、布陣範囲も広めであり、魔物の種類も多種多様であることを確認しております。気になる点としてはほとんどの魔物の意識が街に向いていることです。我々がかなり近づいても、仕掛けない限りは意識してくるような特殊個体がいない限りは見つかりませんでした」

「概ねの状態は理解した。最後に諸君らの戦技について伺いたい」


 大体の状況は理解してくれたようね。これでしっかりとした作戦を立ててくれることでしょう。


 最後の質問は戦力の把握が目的なんだろうね。特級戦力と言えるような実力者がいたら作戦に影響を及ぼすこともあるしね。それに軍への勧誘も兼ねてるはずだ。まぁ私自身が特級戦力になっちゃうから笑い事じゃないんだけど……。


 そして私は大太刀を使う剣士と言って特級戦力扱いから逃げようとしたけど失敗した。周りが上級魔法を戦闘で実用できる存在であることをバラしてしまったのだ。

 軍の入隊年齢には達してないので即入隊の勧誘は来なかったけど将来的な入隊を要求された。当然のように「数年以内に祖国に帰る」と言って断ってやった。解放されたけど渋い顔をしてたから軍は諦めないわね、これは。


ーーーーーーーーーー


 昼過ぎ、軍の指揮所から作戦が発表された。


 簡単に言えば私の大魔法で開戦、魔物たちの注意を私に向け軍で抑えるというもの。

 軍と魔物が激突したら私は前線の少し後方を大魔法で潰すと言う任務が与えられている。魔力が乏しくなってきたら護衛を連れて引き下がるらしい。もう完全に高位魔道士を活用した運用だった。


 私は魔道士として扱われる為、つまらない役を回されてしまった形になる。せっかくだから前線で暴れたかったのに……。


 でもこうなったのには理由がある。


 無論、私の近接戦闘能力は極めて高く評価されている。港付近にあった道場の師範代を越える戦闘能力の持ち主として最低でもAランクと同格と思われているらしい。


 近接戦闘なら他にも代わりが沢山いる。軍としては効率は落ちようとも私でなくても良いのだ。

 それに対して魔道士はそもそもの絶対数が少ないのだ。さらに大魔法を使えるとなると、その希少性と戦略的価値は極めて大きくなる。そしてこれは私以外に代わりがいない。


 理解はできるけど面白くない、それが本音だ。


 私の場合、対集団戦なら大魔法で敵を蹂躙しつつ突撃し、大太刀で生き残りを刎ねていくと言う戦い方も可能だ。会戦で敵陣制圧するなら先陣切ってコレをするが一番早いんだけどね。

 まぁスタンピードでやるのは危険かな。読めないからね。


 無論、私の立場はかなり特殊なので作戦発表後に呼び出されてしまった。


 通されたのは司令官の前だった。

 先程とは異なり指揮所にいたのは司令官と側付き数人だけ、それも側付きは後方に整列していた。つまり司令官自ら対応するつもりだということだ。


「分かってると思うが君が作戦の肝だ。絶対に前に出るなよ。君に死なれては困る。前衛は替えがいるのだ、陣形の後方でしっかりと構えててくれ」

「前線で戦いたかったわ……」

「君は替えが効かないのだ。今回は我慢してくれたまえ。それと君の仲間たちは我が軍の精鋭とともに君の側に付ける」

「こちらとしても、あの子たちにあまり経験できないことを経験させられるのはありがたいと言えばありがたいわ。何しろ前ドリビア子爵からあの子たちの修行を付けてくれと頼まれてるのでね。妥協しましょう」

「他国の貴族が絡む案件だったか……前線に配置しなくて良かった……」


 まぁ私たちを過酷な前線に配置すればリーマリド公爵夫人は喜びそうではあるけれどね。それをしたら彼女以外の関係者が怒り出しかねないから禁じ手だけど……。


「今回特殊な役割を担う君には特別報酬を支払う予定だ。これを見てくれ」


 渡されたのは今回の戦いに関する契約書だった。

 内容に不備は無い。


 それにしても契約書を出してくるとは本気も本気だ。こんな場で普通は即座には作らない。それだけ重視されている証拠ではある。まぁイロ付けて引抜きたい意思が透けて見えるけど……。

 見え見えの野心を見せてきたのでしっかりと釘は刺しておく。


「契約書の内容には同意するわ。ま、契約書なんて無くてもしっかり戦うつもりだけどね。あぁ、それと余計な事はしない方が良いわよ?」


 ほら、司令官、私の付け加えに引き攣ってるのはなぜですかねー?


 ものの見事に後ろで控えてた側付きたちも引き攣っている。それくらいで引き攣るなら余計なこと考えなければ良いのに……。


 まぁこんな失礼な提案来るのは私の素性を知らないからなんだろうけどね。グレイシア王国貴族と関わりのある庶民出身の大聖女と思われてることは想像できる。実際は教国の要人に近い存在であり、舐めてはいけない相手なんだけどね。

 それに父もまだ私のことは諦めてないらしいから下手するとグレイシア国王の逆鱗買っちゃうよー?

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

来週は作者の都合でお休みさせていただきます。次回更新は9月1日(月)となります。

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