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26話 追手

「まったく、余計なことをしてくれる」


 俺は揺れる船の上で呟いた。


 半年前、王国政府より腹違いの妹が出奔したと連絡があった。


 俺はバーナランド・アローニア、今は亡き現グレイシア王国国王の側妃の息子で神官をしている。

 王の庶子ではあるが既に王位継承権は無い。それは教国並びに教会勢力との破滅的決裂を防ぐ為に出家して神官になったからだ。出家した王族が王位継承権を失うのは王国と教会の関係が悪化する前からの制度でもある。


 俺は王位に興味はないし、庶子では王位継承順序は低い。持っていたのは第二種王位継承権である。

 これは王の庶子並びに王位を継がなかった第一種継承権保有者の正嫡の孫までが持つと規定されており、事実上の隠居となれば継承権を失う立場でもある。因みに第一種継承権保有者は隠居すると第三種継承権として優先度は第二種王位継承権保有者より低くはなるが継承権は残る。


 因みに妹は聖人ではあるが神官にはなっていないので継承権は残っている。


「卿、抑えてください」


 俺を諌めるのはテルンガと言う名の側近の神官だ。平民出身ではあるが、修行している内に仲良くなり共に行動するようになった男だ。苦楽を共にし、今も共に東の地へと向かっている。


「出家していながら今更王国の為ではなく王家の為に動いているのだ。愚痴の一つや二つはでるわ。テルンガも堅いことを言うな。こっちとて呆れているのだ」


 俺は自身の出家の意味を深く理解していた。だからこそ教会内部に人脈の網を構築して情報収集を行っていたのだ。そしてその網に奇跡的にアリシアの動向が引っ掛かったのだ。

 だが出家した王族が王国政府に接近するには限界がある。王国政府は教会の干渉を受けるつもりかと非難を受けかねないし、教会内部でも俗世に屈するのかと声が挙がりかねない。


 それに王国政府も今は容易に人を出せない。


 つい先日、王弟の教国訪問に同行した貴族籍を持つ冒険者数名がボロボロにされて返されている。それも外政卿では相手されず、宰相のマンノルディー公爵自身が赴いたと聞いている。王国の信用が損なわれている証拠であり、下手に人を出せば余計なことを疑われかねないのだ。


 そうなると宙に浮いた存在の俺が独断で動く方がマシなのだ。

 宙に浮いた存在故にどこからも文句が言い辛く、独断なら関係各所に迷惑が行き難い。


 正直に言えば損な立場ではある。だが王族である以上は国益を放棄するわけにも行くまい。たとえ出家していたとしても王族とは国益の為に動かなければならない存在である。


 何もかも放り捨てて逃げ出したあの妹には一言くれてやれねばならん。


「能力があり、聡明でもありながら、己の好む道を直走ろうとする根性には羨ましくもあるが、赦せはしないな。やはり王族たる意味を理解してもらわなくてはな」

「寧ろ、能力がある故に出奔されたのでは?」

「有り得る話ではあるか。だが、そうであるならば許されることではないことくらいは認識できるであろう。全く解せぬ。とは言え問題しか起こさぬ無能よりはマシか……」


 あの妹が己の能力を見誤る事は無い。

 本来であれば王太子だったマイラスーンが持つべき能力だ。国王が自身の、そして国の力を見誤れば国家運営は破綻しうる。アレの失脚は必然であり、庇う余地はない。妹の姿を追えば良いものを、と、思わなくもないが、アレは馬鹿過ぎた。


 その点、あの妹には信頼できた。期待していたとすら言って良い、それを国の為に役立ててくれることを。

 まぁ全てぶち壊されたが……。


「ともかく今はアイツを捜さねばならない。国の為にな」

「その点、偽名と行き先が早期に明らかになったのは僥倖でした。明らかに無ければ途方に暮れていたことでしょう。あの御方は王国と教会を繋ぐ重要な橋となれますゆえ」

「さて、どうかな?」


 確かに偽名と行き先が解ったのは良い。

 だがその先が楽かと言われれば怪しいだろう。イナキ王国は魔族や魔族信仰の民族と直接的な戦火を繰り広げている。危険地帯とすら言って良い。向かう我々も危険なことにだ。


 それにあの妹は教会を嫌っている。と言うか権力機関全般に関して好んでいない。余計な束縛を嫌うからな。

 だからあれが大聖女として聖人の一人になったと聞いたときには驚いた。報告してきた相手に聞き返すくらいには驚いたのだ。

 それを思えば王国と教会を繋ぐ橋にはなりますまい。


「危険地帯に妙な自由人気質、何も無ければ良いがな……」

「まさかそんな……」


 こういった旅はまさかと言える事態に対処しなければならない。

 まぁ全ては向こうに着いてからだがな。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

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