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25話 依頼最終日 -3-

 電撃に強い魔物の大群がこちらに来るのを見て乱戦は避けられないと悟った。


「乱戦になるなお前は下れ、ここからは俺たちの出番だ」

「いや、この数なら魔法を併用すれば押し切れる。ここは踏ん張り時よ」


 流石にこれには下がるように言われてしまったけど、どうにもならないわけでも無いのよね。


 規模が大きすぎなければ炎系の魔法でも目立ちすぎることはないので十分な効果が期待できる。それに氷系の魔法で敵を凍らせて大規模な足止めなんかも有効だし、他にも手はあるのだ。多種多様な魔法に精通してるのは私の強みの1つだ。


 ここで一番効果的なのは乱戦に入る前に敵の勢いを削ぐことだろう。

 勢いが無ければこちらが圧し潰される可能性は低くなる。


 それを可能にするのが『ブリザードフォール』と言う氷系の魔法だ。この魔法は敵の頭上から強烈な雪と氷の混じった冷気の塊を叩き付ける攻撃魔法である。これを喰らわせた敵が凍りついて動けなくなるのを狙えるのも大きなメリットだ。

 当に今回のような場面でうってつけの魔法と言える。


 発動と同時に前方に白い濁流が急降下した。

 うん、迫力満点だ。


「今度は何だ?」

「これは『ブリザードフォール』よ。あまり知られていない氷系の攻撃魔法で、これも強力な大魔法の1つで足止めに使ったの」


 実際には足止めどころか、寒さに弱い魔物とかだと即死してるだろうけどね。


「噂にゃ聞いたことあるが、アレは制御が難しく発動すら困難な魔法だったはずだった。使える奴なんて初めて見たぞ?」

「どいつもこいつも大魔法ってのはとんでもねぇ威力してやがる……」

「ただただ恐ろしい……」


 皆揃いも揃って驚いてるわね。でも攻撃の手は緩めてはいけないよ。

 それにしてもまさか知ってる人がいたとは思わなかったわね。流石ノンカンジ侯爵家かしらね、知識が豊富だわ。


「相手は動きが鈍くなってるわ。ここで押し切ってここの戦線を終わらせるわよ。付いてきなさい!」

「お、おい!待て!」


 流石に私が駆け出したことで全員が現実に復帰したらしく、慌てて私を追いかけ始めた。


 敵側の先頭はほぼゴブリン種の魔物だった。

 数が多いので魔物の細かい分類までは気にしてられない。


 基本ゴブリン種は弱いので密集していれば数体同時に斬り裂くぐらいは余裕で可能だ。しかもコイツらは完全に凍り付いているので余計なことを考える必要も無く斬っていける。


「おい!あまり突出し過ぎるなよ!」


 ようやく後ろが追いついて来たわね。

 皆凍ったゴブリンを始末しながら進んでいる。


 しかし……


「凍ってて思う様に斬れねぇ」


 泣き言を言うおバカさんが1人いた。そしてそれは予想はしてたけどシバスだった。


「これくらい簡単に砕けるだろう?なんでその勢いで斬れねぇんだ」


 彼が斬ったゴブリンの数、他の人の5分の1、あまりにも少な過ぎる……。これで武の道なんてどこをどうしたら進もうと思えるのか?


「所詮は貴族の軟弱者か」

「もう見棄てようぜ」


 完全に他の冒険者たちは見捨てる方向になりつつある。もう庇うのはかなり難しいわね……。残念だけどウェスティン侯爵家の判断を待つ前にこちらで始末を付けるしか無くなる可能性も排除出来なくなってきた。


 指導を請負った身としては避けたいけど私も助けてやれる余裕はない。

 スタンピードだけあって敵の数があまりにも多いからだ。幾ら凍らせたり体温を急激に下げさせたりして動きを抑えても、あくまでも一地区での戦況を優位にしただけに過ぎない。戦局を考えると、周りから本格的に魔物が押し寄せたり、動きを抑えたここの抑えが効かなくなる前にある程度潰さないといけないのだ。


 凍り付いた魔物は出来る限り数体まとめて斬り捨てたり、他の動けている魔物の巻き添えの形で倒している。そして一人を除いて全員が動いてる魔物は鈍かろうと優先的に斬っているので優勢ではある。


 そして懸念していた最悪の事態が発生した。


「ガハッ……」


 遂に背後からリザード種の魔物の群れが押し寄せてきた。リザード種は低い姿勢で動ける魔物で見つかりにくい魔物として知られている。こちらが気づかず接近してきたのも理解できる。今回は20匹の群れで、その内4台は知能の高い二足歩行のリザードマンだった。

 数は少ないけど、そもそも実力不足のシバスではどうにもならず、遂にやられたのだ。


「チィッ!遂に後ろから来やがったぜ!」

「どうやら背後に回られていたようだな……」


 誰も彼のことは心配していない。それよりも戦況が不利になりつつあることを懸念している。普通は仲間がやられたら全く気にしないなんて事はありえない。もはや仲間と思われていないのだ。


 どちらにせよ包囲されるのだけは阻止しなければならない。彼を見殺しにするしないは別として後方が一番薄い以上、そこに突破口を作るのが妥当な戦術だ。


「後ろは私がやるわ!包囲はさせない!」


 後ろから迫りつつ、リザードマンはシバスを踏み付けて人質にしていた。まさかここまで知能が高いとは思わなかったけど、私ならこの状態でもやりようはある。単独で後方に穴を開けることができる。


「ハァッ!」


 シバスに目を向けずこっちに向かってくる四足歩行のリザードを二匹薙ぎ払う。二匹とも頭を潰して無力化した。


 戦果を確認してすかさず小規模な『爆炎球』を複数放り込み、彼の周りにいたリザードマン3匹潰した。煙が充満し、残りの一匹が動揺してる隙にソイツの喉を突き刺して絶命させた。無論煙を吸わないよう気をつけて突っ込んだわ。

 でも動揺しなかったら彼は殺されていたわね。


「た、助けてけれ……」

「自分で起き上がりなさい!私も余裕はないわ!」


 どこまで甘えてんだか……。

 命は助けてもそこから立ち上がるのは自分自身でやるべきことでしょ。それに今手を貸して片手を潰せる状況じゃない。


 彼の小さな喚きを無視して残党を処理した。残りは雑魚ばかりなので瞬殺だった。


「後ろは開けたわ!」

「よし!撤退するぞ!」


 私の報告を受けてこの臨時編成のリーダーは退却を決めた。全員目の前の脅威を排除して一目散に退却を始めた。


 私は彼の首を掴んで後退をした。

 身体強化を使ってるので倒れた彼を連れ出すことは可能だ。無論遅れるので私が殿になる。


「さぁ面を制圧しつつ退きますか」

「俺も手伝うぜ!」


 うん、非常に助かる。


 援護を申し出てくれたレインのお蔭で無事私達も退却することに成功、何とか野営地まで戻ることに成功した。


 レインが言うには「あんな奴とは言え、今は仲間として動いている。正直見捨てたいが、見捨てしまうのは恥だ」とのことだった。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

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