22話 足手纏
移動の為に受けた依頼は規模も大きければ日程も長期に渡るものだった。どうやら片道で20日掛けるらしい。途中で荷卸だけではなくて多少の商売もしていくらしいけど、それにしたって長い。
「まだ半分かよ……」
泣き言を言うのはウェスティン侯爵の三男のシバスだ。コイツは本当に根性がないので冒険者には絶対に向いてない。ホント憧れだけで将来は決めるもんじゃ無いわね。
「仕方ねぇだろ。そう言う依頼なんだからさ」
「この10日で自身の甘さが理解できた気がします」
レインは完全に割り切っており、シバスに苦言を呈していた。分かっていたけど本当に逞しい。実家の事情を考えればそうじゃないとやっていけなかったことが伺えた。
そしてこの10日間を大いに活用して成長したのがウィルスだった。平民冒険者にビシバシ可愛がられてる間に自信の無さを克服していたらしい。
彼も貴族家の一員だったことから平民より遥かに高度な知識がある。なので周囲から知的な面で頼られ、評価されたのが自信の無さの克服に繋がったようだった。
戦闘面ではやはり貴族組全員が未熟だ。だけど周りの冒険者も私たちの事情を大まかには理解したらしく、色々教育に協力してくれている。特にラーシアとウィルスが気に入られたらしい。
私は何故か同情の目で見られている。本当に解せぬわ……。
問題はシバスだ。
高い家柄で、不自由ない暮らしを送ってきた彼にはこの生活は苦痛らしかった。
当然周りの冒険者もそれは見抜いていた。お高く留まっている貴族の無能なボンボン、それが彼の評価だった。
そんな感じなので実力的にも最も劣るのが彼だった。
「シバス、何度も言ってるけど冒険者は憧れだけでやっていける職じゃないわ。それが理解できないなら祖国で文官になるか商会に就職してもらう。今のままなら確実に足手纏になる。とてもじゃないけどアンタの面倒は見切れなくなるわよ」
警告を込めて強く言ってやった。そうでもしないと改善しないだろうからね。いや、手遅れかもしれない。
既に彼の所業については手紙に纏めてミハイルの元に送っている。その内ミハイルからウェスティン侯爵家に連絡が行き、処遇をどうするかが決まるでしょう。
尤も絶縁して見捨ててしまえってくるかもしれないけどね。その方が楽か。
そうやってる間にも稀に魔物や盗賊に襲撃されたりもする。当然依頼を受けている以上は私たちが迎撃に出る。やはり足を引っ張るのはシバスだ。
「なぁ、兄ちゃん。兄ちゃんは冒険者に合わねぇんじゃねぇか?冒険者は楽な仕事じゃあねぇ、温室育ちの貴族が簡単に付いていけない世界だ。見てるこっちが不安だぜ」
「う、うるさい!」
「まったく、そういうところなんだよなぁ……」
襲って来た魔物の群れを退治するのに共闘してくれた冒険者から苦言を呈される始末だ。もう周りの冒険者からも呆れられ見捨てられ始めている。
憐れだとは思わない。貴族のプライド、慣れない仕事環境、それが彼を苦しめているのは確かだ。だけどそれは彼自身が乗り越えなければならない壁なのだから。
因みに共闘してくれたのは私が乗ってる馬車の前の馬車の乗ってた人たちだ。
私たちは二手に分かれ、女子組と男子組に分かれている。私は問題児のシバスの監視監督の為に女子組からは離れている。因みに向こうはアステリアがいるし、大人しい子が多いから大丈夫だろう。
襲撃を受けて少し休息をとり、商隊は本日の目的地となる街に辿り着いた。
辿り着いた街での宿泊先は商会が押さえてくれているのでそこに泊まる。この辺は護衛を雇う商会の責任だ。
案内された宿は極々普通の宿で特筆すべき所は無かった。
しかしその夕方、問題が発生した。いや、予期されていた事件が発生した。
「お嬢様をお返しください」
パーティーのリーダーとして呼び出された私に開口一番でそれを言ったのはラーシアの兄が送ってきた使者だ。予想はしていたけどかなり早くここまで来た。もう少し先で遭遇するかと思ってたんだけどね。
何であれ、追い返すだけだ。
「彼女はそれを望んでいません。それに彼女のことは父親から前ドリビア子爵を通じて指導と保護を頼まれています。貴方が関与する話ではありません」
まずは言い切る。こちらの立場をハッキリさせる為に。
「そうであれば皆さん全員我が侯爵家に来れば良いかと」
「グレイシア組4人のことは私がこちらに修行に行くついで頼まれたのです。そして私を含むチバンカ組は私の意向で発せられた教国教皇の命を受けての修行です。この修行の旅の過程は私に一任されています。それを妨害する以上は教国に喧嘩を売るという認識で良いですね?」
敢えて教国の名前を出した。ここで退くつもりは無いけどいきなり強硬手段は憚れる。なので穏便に使者を退かせる為に、判断を下せない様な状態にしてみた。流石に他国と揉める様な案件はこの程度の人間が判断を下せれない。
「教国の命ですか?場所が指定されていないのであればグレイシア王国内で行えばよろしいのでは?」
向こうも怯むこと無く強硬姿勢をとってきた。ならばこちらも強硬に対処するだけだ。
「ではお帰りください。貴方だけでね。貴方の所業については教国に報せます。あぁそう、今回の護衛対象の商会にも話はしておきますので悪しからず」
護衛依頼を受けている冒険者の引抜きは護衛対象への攻撃と見做すことが許されている。流石に貴族相手では怯むこともあるけれど今回はコイツが敵扱いされるはずだ。
グレイシア王国内の一貴族とチバンカ教国、そのどちらを取るか言われたら普通は国をとる。所詮、貴族は貴族でしか無い。余程の事情が無い限りね。
「お待ちを、貴方方全員来てもらいます」
「ああん?」
どうやら引かないらしい。私の腕を掴んでまで引き留めてきた。
当然私は殺気を出して脅しを入れた。
掴んできた手は振り払ってやった。身体強化を使う私に勝てる訳もなく逆に相手が痛がっていた。
「何をする!?私が誰と知っているのだろう!」
コイツわかってないなぁ。こんな所で大声出したらどうなるか……。
「何の騒ぎだ!」
宿の店員と商会の関係者がその場に駆けつけてきた。
私が全てを説明すると宿と商会の関係者は一様に使者を睨みつけた。
「我が商会、そして教国への敵対行為と見做す。捕縛させてもらうぞ」
商会の下した判断は捕縛、ただ役所には突き出さない。そして出発してから盗賊という扱いにして何処かで殺すことが決まった。町中で始末すると問題になるからね。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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