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19話 姫と公爵

 翌朝、私はツセツ公爵邸に呼び出されていた。

 呼び出したのは昨日出会ったばかりのレイカ王女だった。


 彼女の隣には老年の威厳ある雰囲気を醸し出した貴人が居た。


「フフフ、改めましてこの国の第一王女であり王国大将軍を拝命しているレイカですわ」

「姫様、この者は?」

「昨日、道場で師範代を倒した幼き冒険者です。そう言えば名前を伺っておりませんでしたね」


 恐らく彼がツセツ公爵なのだろう。


「ジャンヌと申します。Cランクの冒険者で聖女でもあります」

「ほぉ、西の聖女とはまた珍しい。チバンカ教国に囲われていると聞くが外に出られたのは何故かな?」


 公爵が口を挟んできたか……。答えるわけにはいかない話よね。

 聖女が冒険者として出歩いているのは確かに不自然は不自然、普通は有り得ない。知識ある者らしい発言とも言えるわね。あの国の聖人保護が如何に有名かがよく分かる話だ。


「武者修行の旅です。あの国の実情を知っていれば当然の疑問かと思います。実際私が出国を決めた際も物議を醸しました。……まぁ旅の連れにと老年の知合の貴人より弟子の面倒を頼まれておりますので自身の修行だけではありませんが……」

「武者修行で態々ここまで来るとはな。権力闘争に嫌気でも差したか?何にせよ変わった少女だ」

「武者修行、ですか。また妙な動機ですわね。具体的な目的地はありまして?」


 なるほど、この王女は私と同じく武人気質と見て間違いないわね。淑女らしく振舞っているけど将軍と呼ばれるだけあってその所作に武人らしさが滲み出ている。それに武者修行と言う言葉に露骨に食い付いてきたし……。


「私個人としてはハザマハラの先、魔族信仰の蔓延る地に行くつもりです。魔族信仰の武装民に強力な魔物、襲われる危険の多い地と聞き及んでおります。戦闘能力を鍛えるにはうってつけの場所と考えました」


 流石に二人とも驚いてるわね。カウチュ帝国の残滓は今も周辺地域を危険に晒している。

 彼処は本来なら私の歳で入る様な地域ではない。現にハザマハラには強固な防壁や砦が連なるように建設されており、あの地域の民族や魔物の侵入を防いでいる。


「何だと!?」

「危険ですわね……。やはり私が保護します。幼い女の子が危険地帯に向かうなど……将軍としても見過ごすわけにはいきませんわ」

「すぐに行く訳では無いですよ?あの子たちが少しはマトモに戦えるようになるまではね」

「つまりあの子たちが居なかったらすぐにでも向かっていたと言うことですわね?」

「戦力を見誤るつもりはありません」


 どうにも信頼はされていないらしい。てか本当に将軍なのね……。

 仮に私の身柄を確保するとしてあの子たちをどうするつもりなのだろう?下手な扱いすると他国の公爵から抗議が来ると言う面倒な事態に発展しかねないのになぁ……。


「個人で向かうのであれば大規模魔法を乱発すれば大抵は逃げ帰れると考えています。こんな真似できるのは私くらいだとは思いますけど……」


 流石に二人揃って呆れていた。

 大規模魔法を戦場で使うこと自体が基本的には非現実的ではある。アレ、普通は詠唱やら術式構築やらに時間掛かるからコツ掴めないと戦場では使いにくいもんね。


「ご冗談は止してよ。まずマトモに大規模魔法を使えるのですか?そもそも大規模魔法は習得難易度が高いはずです。それに発動の遅さを考えても戦場では使えませんわ」

「一般的にはそうよね。術式構築はコツを掴めば多少は早くなるわ。私の場合はコツもあるけど素質があったからね」


 さて、脅してみてるか。

 自信満々に言えば脅しにはなるはず。


「そんなに疑われるのであればこの場でご覧に入れましょうか?」


 流石にこれには二人とも真っ青になっていた。

 私が本気だと悟ったからだ。ハッタリだと思われていないわね。まぁ実際にハッタリじゃないんだけど。


「ま、まさか……本当に……」

「うむ、見せんで良い」


 何とか私を抑えようとしてるけど、やはり何処か怯えている。

 そんな時だった。


「将軍閣下!公爵閣下!調査結果が出ました!」


 謎の伝令が部屋に飛び込んできた。急報なのが丸わかり、何を調べてたのかしら?


「例のメンバー、全員が貴族です!」

「何っ!?大物が混じってないだろうな!」

「一番上は公爵令嬢でした!」


 もしかして探ってたのはうちのメンバーかな?確かに公爵令嬢も居るけど……。


「ありえませんわ。公爵家ともなれば身分の明らかな者しか指南役には就かせないはず……。貴女、一体何者なの……?」


 レイカ将軍は明らかに狼狽えている。

 その一方でツセツ公爵の目が鋭くなっていた。面倒な予感……。


「もしやそなた、グレイシアの花、流炎の虐殺者と呼ばれるアリシア姫か?」


 真実に辿り着かれたか……。

 しかし如何にしてその真実に達したのかしらね?


 とは言え、最初はとぼけておく必要がある。


「いえ、ただの武闘派の聖女ですわ。あの子たちの元の師は『迷宮の剣聖』フリード卿、前ドリビア子爵よ」

「とぼけるか、まぁ良い。その歳で歳上に剣技を教えることの出来る規格外などそうはおらん。それに戦場で大魔法を連発できるのは儂が知る限りただ一人だ。グレイシアとチバンカを見れば自ずと答えは出る」

「お爺様?私は外の噂に疎くてよ。教えてもらえるかしら?」


 多分この姫将軍は自らの職域の軍事関係で手が一杯なんだろうね。どうやら私のことは知らないようだ。

 流石は海沿いの領地を持つと言うべきか、ツセツ公爵は外国の情報に強いらしい。文句の無い推理は素直に称賛したい。まぁ表立ってするつもりはない。態々必要もない答え合わせをしたくはないしね。


 しかしそうは問屋が下ろさない。

 国外に強い公爵が将軍に全てを教えてしまったのだ。こちらはもうぐうの音も出ない。認めざる負えなかった。既にこの将軍はこちらを複雑そうな目で見てくる。


「やはり貴女は士官候補として保護したいですわ」

「姫様、なりません。グレイシア王国に送り返す方が外交的利益に繋がるかと」

「送り返すつもりなら暴れるわよ?それに士官するつもりは無いから」

「お手上げですな……」


 どうやら公爵は勝てないと判断したらしく、私を帰してくれた。

 あの姫将軍はやはり何処か悔しそうにそれを見ていた。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。


さて、金曜日と来週ですが、作者の都合でお休みとさせていただきます。


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