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18話 意趣返し

 皆をトーイス流剣術の道場に連れて行った。当然私の予想通り道場側が断ることはなかった。


「おう!昼に人が来るとは珍しい!外からの交流希望者か?それとも入門希望者か?」

「交流希望よ」

「ガッハッハッ!こんな大人数でか!豪胆な奴だな!良いぜ、纏めて相手してやる」


 しかも迎え入れてくれたのは道場主の師範代だった。それにいきなり全員纏めてって……舐められてるわね。これは単独でブチのめさないと気が済まない。


「私だけでいくわ。全員で師範代一人で十分は流石に頭に来た。舐めてるにも程がある!」

「ジャ、ジャンヌさん?」


 皆はドン引きしてるけど私はやるつもりだ。


「まずは試合を見なさい。分かってるとは思うけど、あなた達からすれば格上同士の対決よ。色々と学べると思うわ。 ……さて、これくらいは持ってるでしょ」


 そうして私は一つの魔道具を見せた。真剣で訓練を行う為の魔道具だ。

 こんな形で喧嘩を売られたからには買うしか無い。だけどただ買うだけでは面白みに欠ける。木刀やら木剣やらで打ち合うのではなく真剣で勝負をすることにした。体が小さい分、重量のある真剣での勝負は私に不利に働く。それで勝てば話が変わるだろう。


 元々の予定ではこんな事するつもりはなかったんだけどね。


「あるにはあるな。しかし一人で良いんかい?それに真剣だと体への負荷は大きいぞ?」

「構わないわ」

「そうか」


 道場主の師範代は説得を諦めてくれたようね。


 さぁここからが本番だ。

 相手は同じ流派の使い手、それも遥かに歳上の男性、基礎体力と体格の差は簡単には埋まらない程に差がある。身体強化魔法を使わないとまず瞬殺されるのは明らかね。


「まさか西の者に刀の使い手がいたとはな、これは驚きに値する。しかし使いこなせねば意味はない。扱いの難しい代物ゆえな」


 師範代は私の刀を見て少々驚きはしたものの顔を引き締めて中段で構えていた。

 対して私は下段で構えた。身長の低さを利用して下から攻めるつもりでいる。元より体格差がある以上はマトモに攻撃を受けるつもりは無い。避けるつもりだ。


 先に動いたのは師範代だった。


 鋭く突き出される突き、そこに隙など全く見当たらなかった。でも今の私に避けられない早さではなかった。


 突き出される刀を斜め左に避け相手の右脚目掛けて振り上げる。


 しかしそれも当たらなかった。

 彼は足捌きでそれを避けたのだ。


 師範代と言われるだけのことはあるわね。あの体勢から足元への斬撃を避けるのは並大抵のことではない。そのまま攻撃の手を緩めず片手になりながらも横薙ぎの斬撃をお見舞いしてくるのだから本当に容赦がない。


 でも片手なら受け止めることは出来る。

 振り上げた刀をぶつけることで斬撃を受け止めて間合いを取った。


「良い動きをする。その歳でその身のこなし、肝も据わってるし実力もある。門弟たちに爪の垢を煎じて飲ませたいほどだ」


 必要なのは評価より勝利、言葉を返すこと無く私は構えた。次は私から仕掛けてそのまま両者が斬り込み合う展開へと発展した。


 私の攻撃も当たらないし師範代の攻撃も当たらない。まさに互角の闘いだった。

 だけど師範代には焦りの顔が見えてきた。


 気持ちは分かる。師範代は恐らく30代後半から40代前半の剣士だ。つまり非常に多くの経験を積んできている。なのに先日11歳になったばかりの少女が互角の闘いをしているのは不気味なはず。内心ドン引きしているのだろう。


 それでも隙を見せないように冷静に試合を続行する様は流石としか言えない。


 試合が長引くに連れて変化は師範代の様子だけでは無かった。一撃一撃の威力が落ちて打合が増えてきたのだ。


「お、お前……一体何者だ……?」


 遂には怯えの顔を晒しながら弱音ともとれる問が飛んできた。


「私はグレイシア王国出身の冒険者だよ」

「その年齢でこれ程の使い手……有り得ねぇ……」


 言葉を交わしたところで両者ともに距離をとった。


 次の一合で決まる


 そんな予感がした。


 師範代が踏み出すと同時に私も踏み出した。


「ハァッ!」


 師範代の太刀が大上段より振り下ろされた。

 凄まじい気迫に力強い踏込み、一撃で仕留めると言う殺気、鋭い斬撃、まさにこの試合における最高の一撃だった。


 それに対して私は右斜め上から弧を描くように振り下ろした。

 無論相手の刃を受けることはしない、と言うか受けるのは危険だ。故に回避一択、回避と共に決める必要があった。


 師範代の一撃は宙を斬った。外れたのだ。

 それに対して私の一撃は師範代の腹に当たっていた。


「ガハッ……」


 師範代は腹を抑えるように蹲る。訓練用の魔道具がなければ腹から真っ二つになっていたわね。

 勝負ありだ。


「え……勝ったの……?」

「これが上級者の闘い……」

「師範代が敗けた?」

「おい、嘘だろ……?」

「あんな少女が……」


 道場に居た者がほぼ全員観戦していたようで一様に唖然としていた。


「あなた達、見てたかしら?」

「今の俺じゃ付いていけねぇ……」


 私の問いに最初に答えたのはシバスだった。皆も同調している。

 だけどここで諦めるようであればおしまいだ。奮起させてやる必要がある。いや、させねばならない。


「あなた達は今、現状を知った。そして目標を見据えた。なら次に行うべきは訓練ね。幸いここは来る者拒まず交流歓迎の流派の道場よ。まずは訛った体を戻すところからだけど頑張りなさい」


 私が彼らに指導している間に門下生たちは訓練に戻っていた。当然皆は門下生たちの訓練に放り込んだ。それが早いからね。


 そうしたところで師範代が復活した。


「いってぇ……。お前、本当に洒落にならん強さだな。その何だ、その実力、どこで付けたんだ?」

「答える義理はないわ」

「うちの流派は西では衰退して久しい。だがお前はうちの流派だろ?色々とおかしいんだよ」


 やはり疑問はそこか。とは言えバカ正直に教えるわけにはいかない。


「冒険者の秘密を探るのは御法度よ」

「えぇ、そうですわね」


 師範代と私のやり取りに一人の高貴な女性が割り込んできた。彼女には品があり、若いながらにも威厳もある。実力もかなりのものじゃないかしらね。


「ごきげんよう、グレイシア王国の幼き冒険者さん。私はレイカ・フォン・イナキと申します」


 …………!!?

 なんで王族が堂々出歩いてんの!!?


「身構える事はありませんわ。親戚の領地にただ遊びに来ただけですから」

「へ、へぇ……」


 流石に感覚がおかしい……。

 お忍びで遊びに出かけるのは分かる。だけどその場合は身分は明かさないわよね。

 その時だった。


「姫様ぁ!どこにいらっしゃいますかぁー!」

「おいっ!将軍はまだ見つからんか!ツセツ公爵はお怒りだぞ!」


 ん?外から碌でも無い声が聞こえてきたぞ?

 まさかこの王女、本当に周りに何も言わず勝手に出歩いてんの?

 ってか将軍?誰のことかしらね?


ドンッ!


「居たぞー!」

「将軍閣下!勝手に出歩かないでください!」


 武装した兵士や貴族の使用人と思われる人たちが何人も入ってくる。彼女の護衛の類かな?


「姫様、せめて部下に知らせてからここに来てください」

「あらら、見つかってしまいましたわね。また後でお会いしましょう」


 もう会いたくないんだけど……。と言うかこの娘、本当に将軍だったんだ……。

 そうして彼女は去っていった。何かしらの指示を出して……。




 その日は皆を訓練に参加させただけで宿に帰った。動向が監視されてるとは知らずに……。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

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