17話 修行の予定(大雑把)
「ふぅ〜着いた〜」
予定の2ヶ月を大きく越えて70日の航海の末に私たちは目的地の港へと到着した。
「資料にはありましたが建築様式や文化が全然違いますね」
「どう振舞えば良いかまったく分からんな」
「冒険者なら多少異なってても文句は言われないと思いますわよ」
アステリア、シバスの2人は文化の違いに戸惑いを隠せないようだった。
気持ちは分かるのだけどラーシアのように豪胆じゃないとやってけない。冒険者が作法やらが間違ってても問題ないのは流れ者に過ぎないと言う事情もある。因みにグレン、ウィルス、レテシアの3人は全く動じていない。まさに他国に踏み入れる時の手本の様な姿勢だわ。
「一応、この国の作法については少しだけ知識があるけど聞くか?まぁ宿に着いてからだけど」
そんな中、レインはこの国について知識があったらしく、教師役を買って出た。まぁ私は良いかな……冒険者だし……。
レインは亡命申請した後、一度フルケン侯爵領の牢に一度入れられている。犯罪を犯した為ではなく身柄の保護の為だ。監視はしっかりしていたけど待遇はかなり良かったらしい。
フルケン侯爵と教国との間で彼の亡命に関する認識合わせが終わるなり解放されたけど。
認識合わせが済まなかったら彼は一緒に来れなかったはずだ。彼の解放は出港2日前だったので本当にギリギリと言える。これに関してアステリアは解放されるなり胸を撫で下ろしていたわね。
「とりあえず宿に向かいましょ。話はその後よ」
まずは活動拠点となる宿に入らないことには始まらない。
向かう宿は決まっている。既にフルケン侯爵から紹介状をいただいていた。どうやらマネケン商会はこちらにも進出していたらしい。借りを作るのはちょっと怖いけど手間を減らせるのは大きいわね。
宿に着いて荷物の整理を行い、昼食をとったところで一度今後の予定を伝えることにした。
「この国を選んだ理由は何だ?まぁ実家の影響が及ばんのなら問題はないが……」
「私自身は北のハザマハラ防衛線の先で修行するつもりだったわ。無論今の貴方たちではとてもじゃないけど足手纏よ。マトモに戦えるのは恐らくグレンくらいね。アステリアやレインでもまだ厳しいと思うわ」
まずは皆に現時点での状況を伝える。
皆には認識してもらわなくてはならない。まだ実力不足であることを……。
「あ、あそこは魔族信奉者たちが攻めてくる危険地帯だったはずではありませんか!」
「そうよ、逆にこっちから仕掛けることで修行にしようと思ってたの」
アステリアの狼狽えぶりに皆も唖然とした表情を見せていた。
「でもすぐにはあそこには行かないわ。まずはあなた達を鍛えつつ資金調達をするつもりよ」
「まず俺が単身でハザマハラを見てこようと思っている。その後は俺もお前たちの指導に参加する予定だ。まぁ気になる情報が入ればそっちを優先するが」
私は皆を鍛えてからハザマハラ周辺に向かうつもりだった。
それに対してグレンはハザマハラを先に偵察して情報を持ち帰ってきてもらうことにしていた。その後は私に代わり皆の剣術指導をお願いする予定だ。
「予定は分かりました。資金調達はどう行われる予定ですか?やはり依頼ですか?」
「迷宮よ。まずあなた達を低層で鍛えるわ。そしてあなた達が撤収したり休んでるうちに私が深層に潜って荒稼ぎするつもりよ。付いてこられそうなら徐々に深いところに立ち入らせるけどね」
レテシアの質問は至極真っ当なものではある、あるのだけど依頼は非効率的なのよね。まぁ全く受けないのは問題なので偶に気分転換などを兼ねて受けるくらいがちょうど良い。
「明日は朝から冒険者ギルドに行くわ。この辺の情報を集めるつもりでいてね。それと今日は船で訛った体を動かすわよ。ここに来るまでに良い場所見つけたから」
皆への説明を終えたところで動くことにした。
実は港からこの宿に辿り着くまでに一つの道場を見つけていた。
トーイス流剣術の道場だ。
あの流派の面白いところは道場の運営方針だ。
来るもの拒まず、交流訓練歓迎と言うちょっと変わった思想があるのだ。
実は私がトーイス流を使うのもこれが関係していた。何しろあの頃は金もなく伝手もないので道場を探すのは大変だった。なので門戸を盛大に開いているトーイス流を選んだのだ。他にも似たようなことをしている流派はあるけれど、近くにあったのがトーイス流の道場だったのだ。
故に当時と方針が変わっていないのであれば今から私たちが道場に入っても大丈夫なはずだ。しかもアレは流派の上の方の方針だったので変わってるとは考えにくい。
「これからどこに行くのですか?」
「トーイス流剣術の道場よ」
「え?」
「正直な話、他の流派の者を受け付けるとは思えませんわ……」
「道場破りの扱い受けそう……」
想定通りの反応だった。
「昔と方針が変わって無ければ問題はないわ」
そう答えて皆を連れ出した。
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